元SMAPの稲垣吾郎さん、草磲剛さん、香取慎吾さんが出演した「72時間ホンネテレビ」はネット上で大きな話題となった (C)AbemaTV

「稲垣・草磲・香取 3人でインターネットはじめます」──。元SMAPメンバーが再出発の場に選んだのは、地上波ではなく、ネットテレビ局「Abema(アベマ)TV」だった。11月2〜5日に放送された「72時間ホンネテレビ」は、企画の発表時点から大きな関心を呼んだ。

ホンネテレビの放送72時間の総視聴数は7200万超に上り、アベマTVとしての過去最高を更新。ネットの生放送番組としても異例の実績となり、ツイッターやインスタグラムなどのSNSでも話題が大きく拡散された。

大物タレントは藤田社長自ら交渉

アベマTVはネット広告大手のサイバーエージェントとテレビ朝日による合弁事業。スマートフォンやパソコンから、バラエティやニュース、スポーツなど約25チャンネルの番組を24時間無料で視聴できる。2016年4月に放送を開始し、スマホアプリのダウンロード数はすでに2200万を突破。週間利用者数も500万近くにまで成長した。


アベマTVは、サイバーエージェント・藤田晋社長”肝いり”の事業だ(撮影:今井康一)

サイバーエージェントの藤田晋社長は、「72時間ホンネテレビでアベマTVの過去最高(視聴数)を更新するのはまず間違いない」と、10月下旬の決算説明会で自信満々に語っていた。今回の元SMAPメンバーを含め、影響力のあるタレントは藤田社長が自らキャスティングに動いているという。

ネットの動画視聴サービスは国内外で多くの企業が競り合うが、ほとんどが月額課金の有料モデル。そんな中、アベマTVは基本無料で差別化し、普段テレビを見ない10〜20代の若年層まで取り込んできた。

この勢いを加速させようと、サイバーエージェントは巨額投資を続けている。2018年9月期は前期に引き続き、アベマTVに200億円規模の資金を投じる。


重点的にカネをかけるのが番組の自社制作だ。これまでも、年末年始や開局1周年時の自社制作特番で利用者数を急伸させてきた。通常放送でも、将棋や麻雀、スポーツの専門チャンネルは「自社制作を入れるほど数字(視聴数)が上がる」(藤田社長)。年明けからは独自の連続ドラマも始め、少数派の女性視聴者を増やしたい考えだ。

ネットの”小技”も効いた

「今年の前半、亀田興毅さん(元プロボクサー)、藤井聡太さん(中学生棋士)などのオリジナル番組でヒットが出たが、これらはあくまで特番だった。それが夏以降は、帯番組でも一定規模のヒットが出るようになってきている」。運営会社AbemaTVの取締役を兼ねるサイバーエージェントの小池政秀常務は、そう手応えを語る。


生放送のニュース番組「アベマプライム」の収録風景。このほかにも数多くのオリジナル番組を制作中だ(撮影:今井康一)

今後の番組制作における方針も、「しょせんネットサービスだよね、と思われる範囲を軽く超えるものを作る」と小池常務は意気込む。実際、運営会社では人員の過半数をオリジナル番組制作関連に張り付けている。

躍進の裏には、ネット企業ならではの細かな工夫もある。視聴を促すアプリのプッシュ通知は、視聴者の属性や利用傾向に合わせて文言やタイミングを細かく分けて配信。「アベマはセンスがないと思われないよう、アニメ、麻雀、釣りなど各分野に精通したスタッフが、番組編成から通知文言の作成までを担う」(小池常務)という徹底ぶりだ。

先行投資が続くアベマTVだが、今期は広告枠の販売を本格化する。折しも広告業界では、ウェブサイトやSNS上の動画広告の市場が急拡大している。特に、普段テレビを見ない若年層に人気のあるネットサービスは総じて、動画広告の出稿先として存在感を高めている。

アベマTVならではの優位性もある。ユーチューブをはじめとする選択・再生型の動画サービスでは、動画広告を一定時間視聴した後にスキップできる仕様になっているのが一般的だ。一方でリニア型(地上波放送と同じように決まった時間に決まった番組を放送する形式)のアベマTVにはスキップという概念がない。それゆえ広告の視聴完了率は80%と、他サービスに比べ高く、広告主に受けているという。

広告制作を本格化、アベマは稼げるか

広告メニューも目下拡充中だ。地上波のCMを流用する形式に加え、すでにあるCM動画をスマホ視聴に合ったスタイルに加工する形式、タイアップ番組をゼロから制作する形式などを幅広く提案していく。


アベマTV事業を率いるサイバーエージェントの小池政秀常務は、広告強化に意気込む(撮影:今井康一)

中でも、タイアップ番組制作ではネットならではの取り組みをしたい考えだ。「アベマTVだけで25チャンネルあるうえ、スマホ上にはツイッターやフェイスブックなど別のサービスもあふれている。つまらないと少しでも思われれば、一瞬で離脱されてしまう」(小池常務)。従来型のインフォマーシャル(商品紹介番組)ではなく、バラエティ番組調に仕上げるなど、視聴者層に合わせて作り込むという。

広告関連の売上高について、小池常務は「まだ読めない」としつつも、「社内的には目標を定めて、チームを組んで取り組んでいる」と話す。藤田社長自身が有力広告主企業に出向く“トップ営業”も、今期から本格的に始めた。ユーザーを着実に増やしてきたアベマTVだが、実際に”稼げるメディア”になれるかどうかが今後の焦点となる。

とはいえ、「(アベマTVの赤字が200億円を超えない範囲で)収益が上がった分は制作投資に回す」(藤田社長)のが当面の方針。放送局としての新たな可能性の模索を続ける。