『Tokyo Idols』

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 ドキュメンタリー映画監督として『ライブテープ』『フラッシュバックメモリーズ3D』などの名作を生み出してきた松江哲明氏。そんな松江氏は今、NETFLIX発のドキュメンタリー作品に注目しているという。その理由と、期待するドキュメンタリー作品5選を挙げていただきました。

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 僕がドキュメンタリーに興味を持ち、制作を始めた20年前は「フィルムで撮られたものでなければ映画として認めない」という意見もそれなりに通り、ビデオプロジェクターで上映されることにも拒否反応があった時代だ。しかし、そんな時代にデビューしたからこそ僕はビデオの可能性を信じていた。でなければ制作を続けることなんてできなかった。

 今も映像制作を続けているが、ドキュメンタリーの状況は大きく変わった。劇場公開作はデジタル化のおかげで大幅に増えてはいるものの、近年はネット配信のクオリティが段違いに上がった。正直、映画館で観る作品だけではベストを選ぶことは難しい。小さい画面からでも強度が伝わる傑作が多いからだ。特にNETFLIXの充実ぶりは他の配信を超えている。

 毎月のように数年前ならば劇場公開されて話題になったであろう作品が、大して宣伝もされずに配信されている。僕はレンタルビデオ全盛期にタイトルとジャケットだけの情報で内容を想像して借りていた懐かしい記憶を思い出しつつ、日夜、新たなドキュメンタリーとの出合いを期待している。

『Tokyo Idols』は例えば『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)でも放送されそうな秋葉原の地下アイドルを追った作品だが、ナレーションを排除し、テロップを最小限にしたことで、現象を多面的に捉えることに成功した。

 本作は日曜の昼にテレビを観ている視聴者ではなく、海外の「日本では何が起きているのか」という興味を持つ観客に向けて作られている。お金を通じてアイドルと触れ合えることに対しても辛辣な批判を入れている。

 もし地上波で放送されたならばネットで炎上しそうな言葉も多いが、作品自体が秋葉原だけでなく、この国の社会を俯瞰するかのように描いているので、実にまっとうな視点に聞こえる。それはシーンの合間に挿入される、スローモーションで撮影された風景の力も大きいだろう。「奇妙な国、日本」を見せつけられる一本だ。

◆イタリアのポルノスター引退までの日々

『ロッコ:ポルノスター宣言』はイタリアの加藤鷹とでも呼びたくなる、ベテランポルノ男優が引退するまでの日々を記録した。

 幼い頃から性欲が強く、1000本を超えるポルノに出演し、街を歩けば握手を求められるスターであり、良き夫、または父親でもある彼の実像も魅力的なのだが、本作が印象的なのはまるでアート映画のように撮られた美しい映像だ。

 ロッコのセックスは暴力的で、女優を選ぶ際にもMであることを重要視しているのが分かるのだが、その現場をポルノビデオのようなアングルでは撮らない。セックスをすることの美しさだけでなく罪深さまでも捉えようとするかのように陰影が強烈なのだ。上半身だけでなく、下半身までも露わになっているが(劇場公開されたならばボカシは必然で、成人指定は免れないだろう)、卑猥さを強調するようなものではない。ベネチア映画祭で上映されたのも納得させられる完成度だ。

『マイ・キングダム:家族が教えてくれたこと』は父を自殺で亡くした一家の物語。取材のカメラだけでなく彼らが残していたホームビデオも重要な素材として使われている。基本的にそれらは記念日や楽しい思い出として残されている。だからこそ痛みや苦しみが伝わってくるのだ。

 父親がふと、遠くを見つめているとき、彼は鬱と戦っていたのだろうか、と僕らは想像させられる余地が本作にはある。だが喪失を描くだけのドキュメンタリーではない。残された家族たちのたくましさと絆の深さ、そしてそれでも父を愛し、感謝していることが伝わる作品だった。ここまで深く感動したのは僕が父親になったことも大きいかもしれない。または残された子どもたちに感情移入をする人もいるだろう。このように観客によって感じ方が変わるのも優れたドキュメンタリーの条件だ。