ブラジルは、期待を裏切らない。

 世界との距離を測りたい日本代表にとって、いつだってブラジルは「正確なモノサシ」として存在してくれた。


ネイマールを筆頭とする強力攻撃陣をハリルジャパンはどう抑える?

 2分9敗――。

 日本はブラジルと過去11試合戦って、一度も勝っていない。とりわけ直近の4試合は大敗ばかりで、2006年のドイツ・ワールドカップでは1-4、ザックジャパン時代の2012年10月の親善試合では0-4、2013年6月のコンフェデレーションズカップでは0-3、そしてアギーレジャパン時代の2014年10月の対戦でも、ネイマールにハットトリックを決められて0-4と大敗した。

 なかでも印象深いのが、ポーランドのヴロツワフで行なわれた2012年の対戦である。

 序盤のブラジルは積極的にプレスを仕掛け、中盤でも激しく囲い込んできた。だが、12分に先制点を奪うと、ブラジルの戦い方が変わる。前からのチェイスを控え、低い位置に守備ブロックを築くと、前線のフッキ、オスカル、ネイマール、カカに素早くボールを預け、強烈な速攻を仕掛けてきたのだ。

 さらに48分に3点目を決めたブラジルは、ふたたびスタイルを変化させ、今度は日本陣内でボールを回し始めるのだ。それはゴールを狙うためだけでなく、日本を揺さぶるため、そしてボールをキープして日本に攻撃の機会を与えないためだった。

 前からのプレス、リトリートからの速攻、多目的のポゼッションという3つを使い分けたブラジルはまさに試合巧者だった。それは、相手に合わせて戦術を変えられるようになった今、90分のなかでも臨機応変に戦いたいハリルジャパンにとって、お手本となる試合運びだった。

 ちなみに、「期待を裏切らない」という点で、ベルギーは怪しい(11月14日にブルージュで対戦)。日本はベルギーと過去4度戦っていて、2勝2分と一度も負けていないのだ。1999年(0-0)と2009年(4-0)の親善試合、2002年の日韓ワールドカップ(2-2)は日本国内での試合だったからまだしも、ベルギーのホームだった2013年11月の試合でも日本が3-2と勝利した。

 それは「自分たちのサッカー」がハマッたときのザックジャパンの強さを証明するものだったが、ベルギーが「自分たちのサッカー」をやらせてくれたということでもあった。この勝利は、世界との距離を測り損なう一因になった。

 話を戻すと、11月10日に行なわれるブラジル戦も、最高の試金石になるはずだ。

「ブラジル史上最高の監督」と評価されるチッチ監督のもと、南米予選を4節残して突破した現チームには、多種多彩なタレントが揃う。左ウイングは言わずと知れたエースのネイマール(パリ・サンジェルマン)。右ウイングには快速ドリブラーのウィリアン(チェルシー)、センターフォワードは日本のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「世界で一番うまいアタッカー」と警戒するガブリエル・ジェズス(マンチェスター・シティ)が務めるだろう。

 また、パウリーニョ(バルセロナ)、コウチーニョ(リバプール)、フェルナンジーニョ(マンチェスター・シティ)、レナト・アウグスト(北京国安)、カゼミーロ(レアル・マドリード)が居並ぶ中盤は、テクニック、パワー、機動力を兼ね備え、組み合わせ次第でスタイルが大きく変化する。今回もブラジルは、日本の前に高い壁として立ちはだかってくれるに違いない。

 しかし、だからこそ、今回の対戦は興味深い。ハリルジャパンはアジア予選においても、ボールを保持して主導権を握ることに固執してきたわけではない。スカウティングに基づいて、システム、戦術、メンバーを変え、相手のウイークポイントを巧みに突いた。

「個人的な感想としては、ハリルホジッチ監督は強い相手とやるときのほうが戦術的に面白いことをするんじゃないか、っていう期待を持っています」

 そう語るのは、キャプテンの長谷部誠(フランクフルト)である。イメージにあるのは、ハリルホジッチ監督がブラジル・ワールドカップで率いたアルジェリア代表だろうか。アルジェリア代表もワールドカップでは4試合すべてでメンバーやシステムを変え、ラウンド16で優勝したドイツ代表を追い詰めた。

 格上に対して、相手の嫌がることをする――。それこそが、ハリルジャパンの真骨頂だろう。

 長谷部、山口蛍(セレッソ大阪)、井手口陽介(ガンバ大阪)が組む中盤は、歴戦の雄に対してどう立ち向かうのか。原口元気(ヘルタ・ベルリン)、乾貴士(エイバル)、久保裕也(ゲント)、浅野拓磨(シュツットガルト)らウイングストライカーたちは、いかにブラジルの背後を突くのか。偶然の勝利は必要ない。ワールドカップ本番でジャイアントキリングを起こす可能性を感じさせるゲームを期待したい。

 もうひとつ、今遠征がエポックメイキングだったのは、これまでチームの中心だった本田圭佑(パチューカ)、岡崎慎司(レスター・シティ)、香川真司(ドルトムント)の3人がメンバーから外れたことだろう。

「まずは他の選手をテストするために選んだということだ」

 メンバー発表会見でそう語ったハリルホジッチ監督は、さらに続けた。

「前回の合宿で私は(彼らを)評価していない。彼ら本来のパフォーマンスを見つけるべきだ」

 指揮官のなかで3人の序列が下がっているのは確かだ。

 センターフォワードでは大迫勇也(ケルン)が絶対的な存在で、今回は杉本健勇(セレッソ大阪)や興梠慎三(浦和レッズ)にチャンスを与えたいということだろう。さらに、大迫、杉本、興梠の3人はポストプレーで起点を作れるが、岡崎はタイプが違う。そのこともハリルホジッチが選出をためらっている理由かもしれない。

 同じことが香川と本田にも言える。インサイドハーフでは山口と井手口がファーストチョイスで、さらに今回、森岡亮太(ワースラント=ベフェレン)と長澤和輝(浦和レッズ)を試すという考えがあるはずだ。右ウイングでも、本田は、久保、浅野に次ぐ3番手と見られているのだろう。

 ただし、ハリルホジッチ監督が予選終了後に新メンバーを試すのは予想の範疇でもあった。アルジェリア代表時代にも予選後の新戦力の発掘に余念がなかったからだ。

 そうして見出されたのが、シャルケのプレーメーカーのナビル・ベンタレブであり、岡崎の同僚であるリヤド・マフレズだった。当時トッテナム・ホットスパーに所属していた19歳のベンタレブはボランチとしてブラジル・ワールドカップ4試合中3試合で先発。当時ル・アーブル所属のマフレズは本大会初戦でスタメンを飾った。

 だから今遠征では、興梠、長澤、森岡ら新戦力のプレーも確認したい。Jリーグで見せる、ため息が漏れるほど巧みな興梠のポストプレーが列強相手にも通用するのか、ハリルホジッチ監督が見初(みそ)めるキッカケとなった、ACLの上海上港戦での長澤のデュエルはブラジル相手にも生きるのか、ゲームメーカーからアタッカーへと変貌を遂げた森岡は、その得点力をブラジルに対しても見せられるのか。

 アルジェリア代表におけるベンタレブやマフレズ、最終予選における井手口のような、チームの成長を加速させる新戦力が台頭するかどうか――。それも今遠征のチェックポイントだ。

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