ミケル・エチャリが語る「ハリルジャパンの課題」(後編)

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W杯アジア最終予選では先発出場の機会を減らしていた岡崎慎司

「日本のロシアW杯アジア最終予選そのものは、決して悪い流れではなかった。昨年のオーストラリア戦、サウジアラビア戦などは狙いが見えていた。戦術的な熟成の気配があった」

 ハリルジャパンのW杯予選を全試合スカウティングしてきたミケル・エチャリは、一定の評価を与えてから、こう苦言も呈している。

「ところが、今年に入ってからのチームは進化が止まってしまった。スペースを支配するバランスが崩れ、相手につけ入られるようになっている。とりわけ中盤の選手が軽率にポジションを離れ、バランスを壊している。たとえばハイチ戦の3失点は、それがテスト的な意味合いの試合であったとしても、反省すべき材料と言えるだろう」

 シャビ・アロンソやウナイ・エメリなどの名選手、名指導者に大きな影響を与えた「スペインの名伯楽」エチャリは、日本代表の未来をどう見ているのか。その予測は南アフリカW杯、ロンドン五輪、ブラジルW杯でも的中してきた。ポジションごとの分析を続けながら、彼は最後にひとつの「提言」をしている。

◯ボランチ

「ボランチは長谷部誠を中心に、山口蛍、井手口陽介という選択肢になるだろうか。遠藤航はまだ戦力として計算できないだろう。ベテランの今野泰幸も同じだ。

 日本の中盤に関しては長谷部抜きには語れない。長谷部はドイツでもスカウティングしたことがある選手だが、とてもクレバーでフットボールを知り尽くしている。守備ではどのタイミングでセンターバックを補強するようなポジションを取ればいいか知っているし、攻撃では迅速にビルドアップのためにボールを受けるポジションを取り、簡単に周囲を使える。無理をしてポジションを留守にして相手につけ込まれることもない。戦術の軸となって、チームを動かせるMFだ。

 山口も井手口も、長谷部と組んだときは決して悪くはなかった。しかし、2人は長谷部なしでは苦しいだろう。

 山口はロンドン五輪前から見ているが、ポテンシャルは高いものの、正しく成長していない。相変わらずポジションを動かしすぎて、カバーを忘れてしまう。高いレベルでは惨事になる。井手口は今年のオーストラリア戦では素晴らしいミドルシュートを決めた。攻守に積極的で、キックに特長のある選手だろう。しかしポジショニングは甘く、その後の試合はまったく存在感を示していない」

◯サイドアタッカー

「サイドアタッカーでは原口元気がチームの中心になれる力を持っている。また、乾貴士は守備も身につけ、高いクオリティの選手になった。この他に久保裕也、本田圭佑、浅野拓磨らが候補になるのだろう。

 10月の親善試合で原口が先発を外されていたのは理解ができない。ケガではなかったようだが、彼が引っ張っていくようなチームにするべきではないだろうか。

 原口はチーム戦術において欠かせない。相手ボールのときにはインサイドにポジションを取り、相手のサイドバックとセンターバックに対して同時に守備ができるし、マイボールではサイドを最大限に使い、ピッチを広げ、逆サイドからの攻撃に対しては反応よく絞れる。ボールを奪ったら、それを相手ゴールまで持ち込めるインテンシティも高い。最近の日本では最も力を感じるアタッカーだ。

 乾はエイバルで成長した。入団当初はひとりだけでプレスに行ってしまい、組織全体を乱し、守備強度も致命的に低かった。しかし、今ではそのポジショニングは格段に向上している。それによって、攻撃の崩しも生きるようになった。

 久保は一時期のひらめきを感じない。若いために波があり、所属クラブでのパフォーマンスに影響されてしまうのかもしれない。本田は戦術的に優れた選手だ。トップ、右、左、トップ下でプレーできる。メキシコで調子が上がれば、代表に入るべき選手だろう。浅野はあまり印象に残っていない。走力は高く、いつも代表に呼ばれているようだが……」

◯トップ下

「トップ下として適性があるのは香川真司なのだろう。ゴールの前で創造性を生かしたプレーは精度が高い。しかし、ここはそもそも迷いのあるポジションである。トップ下を置くべきなのか、という議論もあって然るべきだろう。トップ下には絶対的にプレーを創造し、チャンスメイクできる才能が欠かせない。もしその条件を満たせない場合は、トップ下を外し、2トップにして得点力を高めるべきだろう」

◯トップ

「私は、ひとつのオプションとして大迫勇也、岡崎慎司の2トップを推奨したい。

 大迫はディフェンダーとの駆け引きに長(た)けたFWだ。とくに弱点がない。背中を向けてプレーができるし、横からくるボールに対しても勝負でき、またサイドに流れるときのマークの外し方なども洗練されている。ただ、何かが足りない。足りないのがゴールだとするならば、シンプルに岡崎と組ませるべきだろう。岡崎は最もインテリジェンスを感じさせるFWだ。周りの動きと合わせながら献身的にプレーし、ゴールも狙える。

 他にも日本には可能性のあるFWがいるのかもしれない。しかし、私がスカウティングした中では大迫、岡崎の2人は突出している。ハイチ戦でゴールした杉本健勇は3番手だろう」

◆エチャリ氏によるW杯最終予選「選手16名の評価」>>

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