夫が死んだのだから、義父母と「仲のいいふり」をするのはもうイヤ。その場合はどうすればいいのか(写真:Fast&Slow / PIXTA)

愛する夫が逝去……。その場合、遺された妻はどうすればいいのでしょうか。「もともと、義父母とは夫の生前から折り合いがあまりよくない。死亡後も関係を続けるのは気が重い」という方も少なくないようです。

確かに「夫がいなくなったのに、夫の姓を名乗り続けるのはイヤ」「義父母と同じお墓に入りたくない」といった気持ちは、よくわかります。しかし、それだけではありません。親戚関係を続けていると、場合によっては義父母の扶養義務が生じる可能性もあるのです。

実は、夫や妻など、配偶者が死亡したあとは、自身の意思で相手の親戚と縁を切ることができます。遺産や遺族年金など、配偶者が死亡したとき、おカネについてはどうなるのか。将来、不利にならないようにするにはどうすればいいのか。気になるポイントを押さえておきましょう。

配偶者の死後、義父母の扶養義務を断ち切るには?


さて、さっそくケーススタディでわかりやすく説明します。田中恵美さん(42歳、仮名、旧姓は山本さん)は先日、夫を亡くしました。3人だった田中家は恵美さんと8歳の子どもの2人になりました。

恵美さんは、居住する市区町村に夫の死亡届を提出。それによって夫の住民票は消滅し、戸籍には夫が死亡した旨、記載されました。ここまでは、人が亡くなった際に必ず行うべき手続きです。

大事な話はここからです。

恵美さんは夫との関係は良好でしたが、義父母とは折り合いが悪く、義父母との同居を解消した経緯があります。考え方が違うし、気も合わないことに加え、義母の浪費が激しいことも原因の1つでした。

「夫が亡くなっても義父母と家族でいなければならないのかしら……。付き合うのもいやだし、名前も旧姓に戻したい」。恵美さんはそう思うようになりました。

配偶者が亡くなると婚姻関係はなくなりますが、配偶者の親族との姻族関係はそのままです。扶養義務も残り、義父母が経済的に困窮し、ほかに頼る親族がいない場合などは、恵美さんが扶養する必要が生じる可能性もあります。

「夫の親だから大切にしたいという気持ちもないわけでないけれど、私もシングルマザーとして子育てをしていくと決めたし、そもそも好きになれない人たちだから……」と恵美さんは言います。やはり、なんらかの対策が必要です。恵美さんはどんな行動を取ったのでしょうか。

恵美さんはまず、苗字を旧姓に戻すことにしました。

復氏届で旧姓に戻るのは本人のみ、では子どもは?

配偶者が死亡した際、婚姻中の姓のままでいるか旧姓に戻るかは、本人の意思で自由に決めることができます。恵美さんのように旧姓に戻したい場合は、本籍地または住所地に「復氏届」を提出します。そうすれば、結婚して入った籍から抜けることができます。

恵美さんは、「義父母の許可が得られるかしら」と不安でしたが、心配無用。「復氏届」は本人の意思で提出することができ、死亡した配偶者の親族の同意は必要ありません。

復氏届の提出には期限がなく、いつでも手続きできます。ただし配偶者が外国人だった場合は、亡くなってから3カ月を経過すると家庭裁判所の許可が必要になります。

ここで気をつけたいのは、復氏届によって旧姓に戻るのは本人のみ、という点です。恵美さんには夫との間に子どもが1人いますが、恵美さんが復氏届を提出して旧姓の山本に戻っても、子どもの姓は田中のままです。そうなると恵美さんと子どもは別々の姓になり、恵美さんの戸籍に子どもを入れることはできません。

「子どもも私の旧姓である山本姓にして、私の戸籍に入れたい」(恵美さん)という場合は、まずは家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出し、子どもの姓を山本に変更。その後、市区町村に「入籍届」を提出すれば、子どもを恵美さんの戸籍に移すことができます。

こうして籍を抜けば、まずは「安心」と思いがちですが、そうはいきません。復氏届で旧姓に戻っても、義父母など配偶者との親族関係は変わりません。扶養の義務や姻族としての権利は、継続することになります。離婚すると姻族関係は自動的に消滅するのですが、死別の場合、姻族関係はそのまま継続され、義理の親子関係や親戚関係はそのまま残るのです。

では、配偶者の血族との親戚関係を解消したいなら、どうすればいいでしょうか。この場合、本籍地または住所地の市区町村に「姻族関係終了届」を提出します。本人の意思で届け出ができ、親族の同意は不要です。この届け出によって配偶者の父母や兄弟姉妹などを扶養する義務はなくなります。

恵美さんの義母は浪費家で、夫が生前に時々こっそり自分の父母に仕送りしていたのは、恵美さんも知っています。この先、おカネを無心されることがないとは限りません。しかし、姻族関係終了届を提出すれば、法的に扶養の義務はなくなるわけです。なお、この手続きをする場合、期限の定めはありません。

ただし、姻族関係を解消できるのは配偶者のみです。子どもと親族との関係は解消されません。つまり、恵美さんには関係がなくなる義父母でも、子どもにとってはおじいちゃん、おばあちゃんであることに変わりはありません。

夫の遺産相続や遺族年金はどうなるのか

復氏届や姻族関係終了届を提出すると、義父母などと縁を切りたい人にとっては、心理的にはスッキリするかもしれません。しかし、金銭の面でのデメリットはないのでしょうか。具体的にいうと、遺産相続や遺族年金に影響がないかが、気になるところです。

実は、遺産相続については影響はありません。いったん相続した財産を返却する必要などはなく、通常と同様、遺産を受け取ることができます。

また義父母が死亡した場合、子(この場合は恵美さんの夫)が生きていれば子が相続した分を、孫(つまり、夫と恵美さんの子)が「代襲相続」する権利があります。この権利は恵美さんが姻族関係終了届を提出していてもなんら影響はなく、権利は残ります。このように、遺産相続についてはデメリットなし、ということです。

もう1つ、気になるのは、「遺族年金」です。

夫が死亡した場合、一定の条件を満たすと、配偶者は遺族年金を受け取ることができます(詳しくは「遺族年金はちゃんと申請しないともらえない」をご覧ください)。

もし、遺族年金が受け取れなくなると困りますが、大丈夫です。復氏届や姻族関係終了届を提出しても、遺族年金は受け取ることができます。妻が遺族年金(遺族厚生年金の場合)をもらえなくなるのは、「再婚」「死亡」「直系血族・姻族以外の養子になる」場合であり、旧姓に戻しても、夫の死後に夫の家族との縁を切っても、影響はありません。

夫の親類と縁が切れるし、お墓にも入らなくていい。遺族年金など、もらえるおカネには変わりない。どうでしたか。少しは、肩の荷が下りますね。