誰でもがん治療は怖い。告知のショックから立ち直る間もなく情報の波に翻弄され、重大な決断を迫られる。この選択が自分の生命を左右するかもしれない、という恐怖に不安が募る。

 そんなとき「がんが消えた!」「免疫でがん細胞をたたく」等の“万能感”と“わかりやすさ”が差し出されたら、どうだろう。日頃から科学的・合理的思考の持ち主を自任していても「民間療法」や「代替療法」に気持ちがふらりと揺らぐ。

 しかし、だ。8月に米国立がん研究所の機関誌に掲載された研究によると、「転移のない早期がんの治療に代替療法を選んだ患者が、5年以内に死亡する確率は、標準療法を選んだ患者より2.5倍高い」という。

 乳がんに至っては、代替療法を選んだ患者の死亡リスクが、標準療法を選択した患者の5.7倍にもなった。大腸がんは4.6倍、肺がんは2.2倍へとそれぞれ上昇。一方、前立腺がんではリスクの変動は認められなかった。

 本来、転移がない早期乳がんに対する標準療法の5年生存率は、9割以上だ。大腸がんも同様で、転移がないステージ1〜2の5年生存率は9割超。リンパ節転移があるステージ3でも8割を超える。

 肺がんはがんの組織型で進行スピードが違い、一概にはいえないが、進行が遅い非小細胞肺がんならステージ1〜2の5年生存率は、標準療法で6〜9割に達する。

 少なくとも標準療法が進化している乳がん、大腸がん、一部の肺がんでは、代替療法によって手遅れになる可能性が極めて高い。

 一方、前立腺がんの多くは進行が遅く「無治療経過観察」が普通に選択される。平たくいえば放置であり、代替療法に高額な費用をかける意味からして不明だ。

 代替療法を選択するタイプは、より高収入、高学歴で併存疾患が少ない若い人らしい。背景には、これまでの成功体験や現代医療への不信、健康に対する信念などさまざまな理由があるだろう。

 しかし、がんの治療は自分にとって未知の領域だ。無手勝流に走る前に、標準的な選択肢に目を向けることが自分を救う道になる。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)