JR九州の特急にちりん。同列車も乗り入れる宮崎空港線は短い路線ながら営業係数では「超優等生」の試算結果となった(写真:ハヤゴン / PIXTA)

これまで2回に分けて、JR北海道とJR東日本、JR東海とJR西日本の4社の営業係数を試算した結果を紹介した。今回はラストとして、JR四国・JR九州・JR貨物の3社についての試算をお目にかける。

100円の収入を上げるために要した費用を示す指標である営業係数は、JR各社全体の数値までは公表されたデータから導き出せる。さらに各路線の営業係数を試算するには、収入と費用とを一定の考え方によって分配すればよい。収入、費用とも、輸送規模によって変動する項目を旅客人キロの比で、路線が存在するだけで生じる固定的な項目を営業キロの比でそれぞれ分配した結果、各路線の営業係数の推測値が得られる。

近年、一部のJR旅客会社は各路線の営業状況について、より詳しい数値の公表を行うようになった。JR東海を除くJR旅客会社5社からは詳細な旅客輸送密度が発表されており、さらにJR北海道を除く4社からは路線ごとの旅客運輸収入も示されている。そこで今回は、JR四国・JR九州については両社が発表した2016年度の数値、JR貨物については「鉄道統計年報」の2014年度の数値を使用し、それぞれ5年前の数値と比較することとした。

瀬戸大橋と予讃線が支えるJR四国

●JR四国

本四備讃線(一般に「瀬戸大橋線」と呼ばれる路線のうち茶屋町―宇多津間)と、予讃線の一部の区間とでJR四国の鉄道事業を支えるという構造は、路線ごとに公表された旅客運輸収入によってより明確なものとなった。

2016年度の旅客運輸収入の総額は236億円余りと公表されたうち、本四備讃線は33億円、予讃線全線は128億円と計161億円となって68%を占めるからだ。JR東海にとっての東海道新幹線、JR西日本にとっての山陽新幹線と同様、JR四国にとっては本四備讃線、予讃線頼みの経営と言って差し支えない。

営業係数を試算した結果、2016年度に100を下回る営業係数を記録した路線は本四備讃線の69.5のみ。全線でなく、一部区間の場合を含めても、ほかには88.4となった予讃線の高松―多度津間しか存在しない。

残る路線の営業係数のうち、予土線は1770.7と千の位に達する数値を記録した。区間別に見ると同様の営業係数は牟岐(むぎ)線牟岐―海部(かいふ)間にもあって1801.5となっている。同社発表の旅客輸送密度は予土線が333人、牟岐―海部間が248人と、鉄道事業の存続が困難と見なされる500人未満であり、JR北海道と同じくJR四国も、いつこれらの路線・区間を自力で維持できないと言い出しても不思議ではない。

収支好転へ予讃線の黒字化を

JR四国は2016年度に鉄道事業で119億円の損失を計上した。営業係数は143.7だ。営業収支を好転させるには124.2を記録した予讃線全線を黒字に転換させなくてはならない。そのためには高速道路に対抗するために大規模な投資が求められる。特に営業係数が109.9〜130.7の多度津―松山間には、国や沿線自治体の支援に基づく高速化が検討されるべきであろう。

同社の泉雅文会長は2017年3月6日に日本交通協会で「四国への新幹線導入について」と題して講演を行い、新幹線の誘致を訴えた。私案ながら、第1期開業区間として四国横断新幹線の岡山―宇多津間と四国新幹線の高松―宇多津間、第2期開業区間として四国新幹線の宇多津―松山間を整備するという道筋が、同社の存続に向けて必要かもしれない。


●JR九州

上場を果たして間もない2016年度のJR九州の鉄道事業の営業係数は劇的な内容となった。確定値である同社全体の数値は84.8と、2011年度の106.5から大幅に好転して営業利益を生み出すようになったからだ。ちなみにこの数値はJR東日本の82.5に匹敵し、JR西日本の87.0を上回る。


JR九州を代表する豪華列車「ななつ星 in 九州」(撮影:梅谷秀司)

好調な営業収支は減価償却費の大幅減によるものだ。2016年度は20億円と、前年度の250億円に比べて230億円も減っている。加えて、運送営業費が1372億円から1213億円へと159億円も少なくなった点も見逃せない。鉄道事業における収入が2015年度の1692億円から1650億円へと42億円減りながら、251億円の営業利益を計上した理由もここにある。

断トツは宮崎空港線

試算によれば、営業係数100未満を記録した路線も目白押しだ。26.7の宮崎空港線を筆頭に47.7の九州新幹線、81.6の長崎線、85.5の佐世保線、91.3の鹿児島線、93.0の山陽線、95.2の筑肥線、95.8の日豊線と同社の主要路線が顔をそろえる。あと一息で黒字となる100台の路線も104.5の香椎線、104.7の篠栗線と控えており、同社の経営陣や投資家たちにとってはまずは一安心といったところであろう。

宮崎空港線の営業係数が極端に良好な理由は、営業キロわずか1.4kmにもかかわらず、旅客運輸収入が8300万円と発表されているからだ。宮崎空港線の営業キロ1km当たりの旅客運輸収入は5929万円で、九州新幹線の1億7335万円、鹿児島線の1億5719万円には及ばないものの、筑肥線の4765万円や日豊線の4575万円を上回る。さらには、営業キロが短いことから固定費が大幅に抑制されている点も大きく、今回の試算でJR旅客会社の各路線中、最もよい営業係数が記録された次第だ。

気になるのはJR九州の今後の動向であろう。各路線を維持するためには一定の投資を行う必要があり、減価償却費の増加は避けられない。また、上場初年度でもあったために運送営業費を削減できたと考えられるが、いつまでもこの状態を続けられないはずだ。旅客輸送密度が低く、営業係数も極端に悪い路線に対しては運賃の見直しといった方策が必要となるであろう。

好調だが環境激変のJR貨物

●JR貨物


JR貨物全体の営業係数は好転しているが、貨物輸送をめぐる環境は大きな変化を迎える(撮影:梅谷秀司)

路線ごとの貨物輸送トンキロが明らかにされていない理由により、JR貨物各路線の営業係数は残念ながら試算することができなかった。今後の課題として、たとえば国土交通省の貨物地域流動調査をもとに路線ごとの貨物輸送量を推測して営業係数を求める方策も考えられるが、精度が著しく低くなることも予想される。関係各位には各路線の貨物輸送トンキロや貨物運輸収入といったデータの公表を望みたい。

さて、JR貨物全体の営業係数は2009年度の107.4から2014年度は103.8へと好転した。貨物輸送密度が6806トンから6978トンへと向上したことによるものだ。同社は2016年度に鉄道事業で5億円の営業利益を計上したと発表しており、営業係数を求めると99.6である。モーダルシフトの進展に加えて、営業費用の削減によって同社の営業収支は好調な状況にあると言ってよい。

貨物輸送のライバルである自動車では、全長が21mから25mへと緩和されたフルトレーラーの本格運用が2017年度中に始まる。さらには、高規格な高速道路である新東名高速道路の全線開通を2020年度に控えており、JR貨物を取り巻く環境は大きく変わっていくであろう。同社にはJR旅客会社に支払う線路使用料の問題もあり、営業係数に関して言えば今後の見通しは不透明だ。