ハワイがターゲットになるうる理由とは?(写真:mari808/PIXTA)

米国には、日頃から戦争や暴動、地震や竜巻などの自然災害や、さらには「人類滅亡の日」に備えて、いつでも逃げられる準備をしている「プレッパー(Prepper)」と呼ばれる人たちが、米国にいることは以前にも書いた。そんなプレッパーたちの動きが、最近活発化している。それは彼らの多くが、「北朝鮮問題が有事になるのは時間の問題」とみているためだ。

前回も話を聞いたワシントン州シアトル近郊に存在する某プレッパーグループのリーダーで、現在はコロラド州の山奥でサバイバル生活を送っているスティーブさんを半年ぶりに訪ねた。

当時彼は「北朝鮮の核実験Xデーは5月9日の韓国大統領選挙」であるとし、そこか第2次朝鮮戦争が始まり、最終的には第3次世界大戦になると予測を立てていた。再会した彼に「5月9日には第2次朝鮮戦争は始まりませんでしたね」と伝えると、「何をのんきなことを言っているんだ? もう戦争は始まっているではないか」と真顔で返されてしまった。

真のターゲットはグアムではない

正直なところ、最初の取材ではプレッパーたちの有事に備える徹底ぶりを知り、「この人たちは、大げさなのではないか」と思うところもあった。しかし、スティーブさんは淡々と話す人だ。どちらかというと、穏やかな印象さえある。私たちを囲む情勢の恐ろしさを単にあおっているような様子はない。

元海兵隊出身で、退役後も傭兵として中東を中心とする複数国に滞在した経験をもつスティーブさんは、現在、他州のプレッパーたちと連携しながら、軍関係者内部とも頻繁にやり取りしている。つまり、彼は軍事関係には、すこぶる明るいのだ。

そんな彼の視点で現在の動きをみると、北朝鮮とアメリカの軍事衝突はもはや避けられないという予測だ。彼の仲間の軍事関係者も、みな同じような見解らしい。その話を聞いてすかさず「やはりグアムが危ないか」と質問すると、彼は真剣な面差しでこう言った。「真のターゲットはグアムなどではない。ハワイだ」。

北朝鮮がアメリカを攻撃する際、アメリカ国民に全体にいちばんダメージを与える場所を狙うのは当然、というのがスティーブさんの見解だ。金正恩氏が偉大な将軍として、自らをさらに神格化するうえでも、その攻撃はセンセーショナルである必要がある。となれば、おのずと場所は決まってくると彼は言う。

北朝鮮の保有する兵器の性能が攻撃可能な場所で、最もアメリカ人がショックを受けるインパクトのある場所という意味では、ハワイがいちばんふさわしいとなるのだ。

ハワイには太平洋艦隊司令本部がある。そして、2001年の同時多発テロの標的となったニューヨークと並び、海外から攻撃された数少ない場所でもある。アメリカの威厳の象徴であり、過去にシンボリックな歴史がある場所であるハワイ。「パールハーバーを再び攻撃」――。スティーブさん曰(いわ)く、北朝鮮にとってはこれほど分かりやすい攻撃対象はないのだ。

誰しも被害に遭うまでは他人事

スティーブさんは今年6月、ハワイとワシントンD.C.を訪ねていた。首都に行った理由は、軍事関係者と会うためだ。従軍時代の友人や、軍事関係企業に勤める仲間などとミーティングを重ねた結果、かなり詳細な避難計画を立てて、彼はその足でハワイに飛んだ。

ハワイには数人プレッパー仲間がいるが、スティーブさんは彼らとともにハワイ中を回り、各自治体に有事の危険性を訴えて、核攻撃があった場合の対応策などを説いてまわったという。それが関係しているのか否かは定かではないが、ハワイ州政府は7月末に、北朝鮮からの核ミサイル攻撃に備えた警報発令システムの試験を今年11月から始めることを決定している。

全米で行政が「北朝鮮」という名前を使って、こうした試験に踏み切るのは初めてだ。ハワイでは核攻撃が発生した場合、建物の中で2週間留まるか、安全と通知されるまでは外には出ないようにと指示されているが、スティーブさんは「それだけでは十分ではない」と警告する。「これは生きるか死ぬかの問題だ。完全に生きのびたいのなら、今すぐ島を捨てることだ。それしかない」。

この話を受けて、ハワイ在住者たちに「ミサイル対策について、ハワイではどう伝えられているか」と聞いてみた。しかし、市民レベルでは危機感はまるでなく、警報発令システムの試験のことを聞いても、知る人はあまりいなかった。しかし、ハワイの政府関係者に話を聞くと、反応は違った。パールハーバーのあるヒッカム空軍基地内で、政府文官として働くマシューさんはこう言う。

「戦争やテロ被害は、被害に遭うまでは他人事なんだよ。ハワイで北朝鮮の攻撃を心配しているような人は少ないし、街にいても危機感は感じられない。けれど僕はちゃんと準備をしているよ。水も食料は当然備蓄しているし、家族全員分のパスポートと貴重品は、1つのバッグに入れてすぐに持って逃げられるようにしてある。子どもたちのバックパックの中にも、緊急事態に備えた最低限のサバイバルキットも入れてあるよ」

マシューさんは25年空軍に勤務し、最後は大佐の地位にまでいた人だ。現在は民間人として勤務しているが、現役時代にはアメリカ軍の最高機関でもあるアメリカ統合参謀本部にいたこともある。そんな彼に言わせると、現在抱える北朝鮮との間の緊張は、過去3代の大統領が行った間違った政策のツケだと話す。

このまま北朝鮮を放置すれば、彼らはますます軍事力を強化させ、脅威になることは確実だ。本件でトランプ大統領を悪く言うのは簡単だが、これまで何も具体的な対策を仕切りきれなかったことが危険な現状を生んだ本当の理由だと、マシューさんは言った。

「戦略的忍耐をこれ以上続ければ、一見平和的解決に思えるかもしれない。けれど遅かれ早かれ、北朝鮮は本格的に爆走する。その爆走が地球破滅の危機レベルになってからでは遅いのだ。有事は誰だって避けたいが、軍事的な視点で平和を維持することを考えるなら、いちばん避けるべきは、この状況に対し『静観し続ける』という誤った選択を取り続けることだ」

核戦争に備えて日本人がすべきこと

こんな話を聞くと、ますます不安になるのは日本のことだ。プレッパーのスティーブさんは、「北朝鮮が『最初に』攻撃するのはアメリカに間違いないが、その後アメリカが強気の軍事攻撃を仕掛けて一気に事を制圧しないかぎり、日本は火の海になりかねない」と語る。

日本中の米軍基地は攻撃の対象だろうし、アメリカに応戦されて捨て身になった北朝鮮が、何をしてくるかは予測もつかないからだ。ちなみにハワイのマシューさんの意見も、スティーブさん同様だった。

「核戦争に備えて日本人がすべきことは、大都市、米軍の拠点がある場所には近づかないことだ。該当地域にいるのであれば、できれば今すぐ引っ越ししてほしい。引っ越す先は川が流れていて、森がある場所。そして外に出掛ける際には、最低限度の水と食料のほか、ロープ、大きなゴミ袋数枚、木綿の布、新聞紙、それに虫眼鏡は必ず持ち歩くように」とスティーブさんは言う。

ほかにもさまざまなものが必要だが、最低限持ち歩くようにと話したものは、何にでも代用ができるものばかりだ。有事によって生活のすべてを遮断されたとき、限られたツールを使い、私たちは生活をしていかねばならない。これらのアイテムは、マルチユースが可能ということらしい。

その中で少し私が意外に思った虫眼鏡は、それがあれば火を起こすことが可能になるからだと説明してくれた。言われてみれば「なるほど」と思った。そのほかにも水の濾過などにも使えるコーヒーのフィルター、最終的に生活を1から立て直すためには必ず必須となる食物の種などのアイテムが、彼が必要だというリストには並んでいた。

もう1つ、今回の取材で不気味に感じたことがある。それは、北朝鮮が暴走すればそれに便乗する脅威は「イラン」である、とスティーブさんらプレッパーたちが見ている点だ。

怪しい北朝鮮とイランの関係

9月にドナルド・トランプ大統領が「イランが北朝鮮の核開発に協力している」とツイートしたことは記憶に新しいと思うが、この疑惑については昨今、アメリカ国内でも真実味を帯びた情報を多く耳にする。中でも核不拡散問題専門家として著名なジェフリー・ルイス氏が7月、北朝鮮メディアの記録映像の分析から、同国が同月に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の2段目にイランの衛星打ち上げロケットと同じエンジンが使われていると指摘したことは、かなり大きく取り上げられていた。

先述のマシューさんは「イランは今始まったことではない」と、言葉を濁すにとどまったが、スティーブさんの懸念と前バラク・オバマ政権への憤りは激しいものがあった。

「イランとの核合意はオバマ前大統領の偉業などと言う人もいるが、とんでもない。9月23日にイランが成功させた多弾頭ミサイル実験が、何を意味するか考えたほうがよい。核を意のままに拡散できる状態で、イランがそれを多弾頭ミサイルに装着したらどうなるか」とスティーブさんは話す。

確かに現在、イラン核合意を認めないとするトランプ大統領率いるアメリカとイランの間では、緊張状態が続いている。そんな中、北朝鮮とイランが実はつながっているかもしれないとなると不気味だ。北が動けばイランも動き、第3次世界大戦が誘発される危険性が高くなる。

こうした見解が、すべて正しいとは思わないが、世界を見ても、アメリカを見ても、有事になることの危険性が日に日に高まっている感は否めない。しかし、力で力を抑えることが悲劇を生むということは、すでに私たち人類は経験済になのではないか。私たちは過去からきちんと学んでいるのだろうか。プレッパーたちが恐れるシナリオは、はたしてどの程度の確率で現実になるのだろうか。