エリートとはフランス語のéliteが由来で、「選び抜かれた人」という意味だ。

日本で言われる“エリート”とは、学歴が高く且つ年収の高い男性を指す場合が多い。

東京大学出身、世界的IT企業のアメリカ本社への転職が決まっている亮介は、まさに世に言う”エリート”。

そんな亮介が、日本に一時帰国している半年の間に、日本での婚活を決意する。

しかし、亮介の婚活はなかなか苦戦を強いられる。食事会で出会った小悪魔女子の瞳、ホームパーティーで出会った綾乃は、亮介の理想には合わなかった。

そしてやっと出会えた心惹かれる女性、香奈。しかし、亮介と話しているうちに、香奈の表情は曇っていく。




「あぁ、またか。」

香奈は、亮介との2回目のデートでひどくがっかりした。

亮介はまず見た目が合格点であり、さらに勤め先を聞いて、この出会いを何とかモノにしたい、と思った。

しかし2回目のデートで亮介に起業願望があることを聞いて、これは考え直さなければ、と考えが変わった。

付き合う前の男性に結婚観を聞くのは無粋だと分かっていたが、真面目そうな亮介ならきちんと答えてくれるだろう、と聞いておいたのが良かった。

ー珍しく、優良物件だと思ったのに。

香奈にとっては「起業したい」イコール「俺はビッグになりたい」と言っているようなものだ。

ーどうせ、人にこき使われたくない、とか、一発当ててやろう、程度でしょう?

昨今の起業ブームから、起業願望のある人は少なくない。しかし、香奈が出会った「起業したい」と簡単に口にする人達は、片瀬のような一部を除いて、どこか社会に適合できずに逃げている人のように感じられた。

香奈がそう思うようになったのは、祖父が原因だった。

小さな繊維メーカー会社に勤めていた祖父は、健康食品の会社を作ると言って、ある日突然会社を辞めてしまった。後先考えずに行動してしまう祖父の事業は、予想通りうまくいかず、そのおかげで祖母は随分苦労をした。

「ちゃんとした勤め人と結婚しなさい。生きる上でお金は大事よ。」

それが祖母の口癖だった。

香奈の母はその言葉通り、大手メーカーに勤める実直な父と結婚し、それなりに幸せに暮らしている。香奈も当たり前のようにそれを求めていた。

ーせっかく小細工までしたのに…バカみたい。

香奈は、亮介に嘘はついていない。豪華なパーティーは苦手だし、お婆ちゃん子なのも本当だ。ただちょっと、二人になるチャンスを狙ったり、ポーチをこれ見よがしに落としてみただけで。

―こんなことで落ちるなんて、亮介君はちょっとウブすぎるかな?

そんなことを思いながら、香奈は亮介を頭の中で彼氏候補から外し、その日のデートは適当に終わらせることにした。


亮介の気持ちは?


亮介の香奈への思い


「亮介君、起業するつもりなの?」

その言葉とともに、香奈の顔が一瞬険しく曇った気がした。しかし、それは見間違いだったのかと思うくらい、すぐにまた満面の笑顔を見せ、その話は終わった。




その後は、取るに足らない話で盛り上がり、次の約束をしようと予定を聞いてみた。

「少し仕事で忙しくなりそうだから、また時間ができたら連絡するね。次に会えるのも楽しみ!」

そう言われて、結局約束をできないまま帰って来た。それ以外にも、なんとなく香奈のテンションが下がったような気がして、そこも引っかかった。

ーやはり起業をしたい、と言ったことが引っかかったのだろうか?

確かに起業家は不安定だとして嫌う女性も多い。

亮介としては、転職する前の会社が買収された際にまとまった報酬が入ったため、起業の資金や当分の生活費はそこから出し、なるべく家族に負担をかけないつもりだった。

しかし、一瞬垣間見えた香奈の表情の変化が引っかかり、それ以上何も言えなくなってしまった。

ー起業が不安なのか、それとも大手の会社勤めにしか価値を感じないのか・・・?

香奈のことは久しぶりに本当に良いと思っていたし、何よりスペックで人を見るようには思えなかった。だからこそ、香奈の険しい顔が脳裏から離れなかった。



それから数日がたった頃、片瀬から亮介に連絡が来た。

「近くにいるんだけど、飲まないか?」

ホームパーティーの時は片瀬とあまり話せなかったので、片瀬とこうして改めて飲みに行けることが嬉しく、二つ返事でOKした。

『B bar Roppongi』でバカラのグラスを傾けながらウィスキーを飲む片瀬は、同性の亮介から見てもカッコよく色っぽかった。

「亮介、この間は来てくれてありがとうな。亮介がこっちにいる間に一緒に飲みたくってさ。」
「こちらこそ、声をかけてもらってありがとうございます。」

それから二人は、仕事の話から日本と海外の最近のスタートアップの状況、その他くだらないことまで、話が尽きなかった。

そのうち、お互いの結婚の話になった。

「片瀬さんは結婚する気は無いんですか?」
「あー、無い無い。面倒だしこうやって遊んでる方が楽。」

“片瀬さんらしい回答だな”、と思ったが、結婚願望のない片瀬に香奈の件は相談できそうに無い。

「亮介は今年30歳だっけ?じゃあまだまだ遊び時だな。」
「いや、僕はすぐにでも結婚したいんですよ。本当は今も日本で探しているんですけど、なかなか思うように行かなくて。」

すると、片瀬が何かを思い出したように言った。

「そう言えば亮介が帰ったと同時に香奈ちゃんが追いかけて行ったけど、知り合い?」
「いえ?あの時が初対面です。ただ、あの後連絡先を交換して、2回ほどご飯に行きましたけど・・・」

亮介の言葉を聞いた片瀬の表情は急に強張り、「あぁ、やっぱり。」と言って、その力強い目で亮介を真っ直ぐに見つめた。

「亮介、あの子は気をつけた方がいいぞ。」


片瀬の言葉の真意とは?


香奈の噂


「俺もさ、この間のパーティーで初めて知ったんだ。あくまで噂だけど・・・」

そう言って、片瀬は慎重に言葉を選びながら話してくれた。




「香奈ちゃん、男関係激しいらしいよ?噂じゃ友だちの彼氏でも不倫でも、手段を選ばないらしい。仕事も見た目もちゃんとしているから、皆騙されるらしいけど。」

初め、亮介は片瀬が誰のことを言っているのか分からなかった。しかし、香奈に対して何となく引っかかっていたことを思い出した。

「本当にあの香奈ちゃんが?人違いじゃなくて・・・?」
「どうやらそうらしいんだ。パーティーに来ていた2、3人の女の子が香奈ちゃんのことを、一部の女子達の間ではちょっとした有名人だって。色々なコミュニティで人間関係を壊すクラッシャーだって言ってたんだ。」

亮介はその話を聞いてゾッとした。スペック云々以前の問題だ。

「なんかさ、東京の中心にいると色んな感覚が麻痺するよな。金も人も。良い奴も居れば、良い人のふりをした極悪人もいるし。

…信じていた人の裏の顔を知ってしまうと何が正しいのか分からなくなって、何も信じられなくなる。疑り深い自分にたまに虚しくなるよ。」

確かに、ことさら東京で婚活を始めてからは、常に女性達を疑いながら騙されないように、と気を張っていた。

女性には“スペック重視じゃない人”を求めつつ、自分も同じように目に見える条件で勝手に相手を判断していることに気がついて、少し嫌悪感が湧いた。

「まぁ良かったじゃん、付き合う前で。結婚したいなら尚更ああ言う子には気をつけろよ。ここには策士がいっぱいいるからな。でも、騙されるのも良い経験だ。次だ、次。」

片瀬にパンっと背中を豪快に叩かれ、亮介は改めて、東京での婚活の難しさを実感した。

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香奈の噂は本当なのか?亮介と香奈の直接対決