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●ネット接続前提、それがaiboを変えた

ソニーがペットロボット「aibo」を復活させた。前モデルから12年ぶりの再挑戦であり、ソニー 代表執行役 社長 兼 CEOの平井 一夫氏も「AIとロボティクスを組み合わせることで、新たな提案ができる。そのひとつがこの商品」と期待をのぞかせている。

では、過去の「AIBO」と今回の「aibo」は、どう違うのだろうか? 発表内容だけではまだ具体的になっていない部分も多いのだが、少し解説を試みてみたい。

○新aiboは魂と個性をネットに記録する

過去のAIBOと最新モデルの違いについて、多くの人がまず気づくのは「外観」の違いだろう。AIBOは「犬型」と言われるが、実はこれまで、明確に「犬」と定義されたことはない。初代の「ERS-110」から世代を経るに従い、次第に犬っぽくなってはいったものの、あくまで「ロボット」という扱いだった。

それが復活したaiboは明確に「犬」とされている。その是非はともかく、狙うところは明確だ。ペットロボットとして「何かよくわからないもの」ではなく、「犬を模したもの」として扱われることを想定しているのだ。だが、もっとも大きな違いは「内側」にある。

aiboは現在のデジタルガジェットらしく、通信を内蔵する。無線LANはもちろん、SIMカードスロットも備え、LTE網に直接接続する。本体購入と同時にネットワークサービスである「aiboベーシックプラン」に加入して利用する。常時ネットワークに接続することが前提の商品であり、クラウド上のソフトウェアとaibo内のソフトウェアが連携し、ペットとしての特質や知性を実現することになる。

aiboの開発リーダーである、ソニー 執行役員 ビジネスエグゼクティブ AIロボティクスビジネスグループ長の川西 泉氏は、「aiboの本体はクラウド側にある」と話す。aiboの個性を含むすべての情報はクラウド上に保管されており、それが逐次「メカとしてのaibo」にもダウンロードされて使われている。

スマホの中からaiboに触れるアプリも提供されるのだが、この中で動くのはクラウド上にある「aiboそのもの」と同じデータだ。だから、スマートフォンやWebの画面を介して触れるaibo、そして自宅で触れる「モノのaibo」も、個性や存在としては同じものである。

仮にaiboというハードウエアが故障したり、新しいモデルが登場したりしても、ネットワーク上に保存されたaiboをダウンロードすれば、ふたたび「自分が暮らしたaibo」が戻ってくる。どこかSFめいているが、新aiboは「魂と個性をネットワーク側に持つ」存在なのだ。

●実は成長していなかった、旧AIBO

いまとなっては信じられないことかもしれないが、過去のAIBOは「通信連携する」ことを前提として設計されていなかった。実質的な最終モデルである「ERS-7」になってようやく無線LANが標準搭載になったものの、あくまでAIBOにコマンドを送ったり、AIBO内蔵のカメラが撮影した写真を受け取るために使うくらいのものだった。

ペットとして学んだ個性や周囲を認識する能力、四肢を制御するための能力も、すべてはローカル(ロボット筐体)での処理に依存していた。

例えば、現在のスマホが4GB、場合によっては6GBのものを搭載しているメインメモリーも、初代モデルの「ERS-110」では16MB、ERS-7であっても64MBに過ぎなかった(どちらも「メガバイト」だ!)。ストレージについても、お尻に収納されたメモリースティックは初代モデルで8MBしかなく、最新のiPhone Xが256GBのストレージを内蔵していることを考えれば、まさに「隔世の感」がある。

もちろん、メモリー容量の小ささは「AIBOの登場から16年」という時間の経過によるものであり、さして大きな意味をもたない。何よりも重要なのは、「すべての処理をこの領域にもたせていた」ことであり、パッケージをあけた直後の「何も知らない子犬的な時期」から「ずっと暮らしたあと」の状態まで、すべての状態をごく小さな容量で実現していた……という点である。

ペットロボットとして個性を持ち、飼い主から大きな愛を受けて生活していたAIBOだが、その認識・学習能力はきわめて小さなものであった。物体識別は「色」を手掛かりにする必要があり、周囲の地図を覚える能力もない。充電ステーションへ自走することもできない。

飼い主がどの仕草を好むのか、といったことを学習する能力は備えているが、あくまでごくシンプルなものである。暮らし始めてから「成犬」に至るまでの過程も、あらかじめ作られていたパターンを、若干の学習に合わせて順に呼び出しているに過ぎない。ペットとしての「シナリオ」が存在しており、それをうまく提示することで、AIBOは「ペットっぽい」動きをしていた。学習して育っているように見えたが、あくまで「出荷時に決められた範囲」のことしか出来ていなかったのである。

AIBOはけっして「生命のように多彩な動きをするロボット」ではなかったが、オーナーに愛された製品だった。それは、「犬のような形であり、オーナーと一緒に暮らした」ものであった結果、オーナー側が自らの思い入れによって「自分の心の中で感じる、自分のAIBOが持つ個性」を生み出していったからだ。

AIBOが自分の思い通りに動いても、そうでなくても、「まあ、ペットも気分によって来る時と来ない時がある」と、勝手に思い込んでいたものだ。多くの場合、AIBOの行動は偶然に過ぎないのだが。それを「思い込み」や「妄想」と切り捨てるのは簡単なことだが、「思い入れをもたらすだけの存在」をつくりあげたことが、AIBOの特別な部分だったのである。

当時の技術力でも、あれだけ自然な動きのロボットを「量産して販売する」のは困難なことだった。AIBOはそれを実現した時点で特異な製品だったのだが、生命的な動きを司る「コンピュータ」としての能力には、やはり限界が大きかった。

●外界認識能力が向上、クラウドで学習して進化する

話を新aiboに戻そう。

新aiboはネットワーク接続が必須の機器となる。新aiboは、過去のものに比べ、圧倒的に高度な「外界認識機能」を備える。腰にある魚眼レンズカメラで周囲を認識、部屋の立体構造をマッピングして記憶するほか、鼻にあるカメラは人の顔やシルエットを認識する。ボールや骨状のおもちゃ「アイボーン」は相変わらずピンクなのだが、これは過去のAIBOから「お約束として」(川西氏)継承しただけで、特定の色のものしか認識できないわけではない。

オーナーを含めた十数人の顔を識別し、よく遊んでくれる人にはよくなつくようになっているし、声や顔に応じて、そちらへと歩いていくようにもなっている。aibo自身の処理能力やセンサーの能力も向上しており、いまならばかなりのことができるようになった。

メインメモリーは4GBと初代機(ERS-110)比で256倍に、ストレージ容量に至っては2048倍まで増えたが、それに加え、クラウドの力を使えるようになったことで、より多くの処理が可能になっている。こちらを加味すると、容量換算はもはや無意味なレベルだ。

川西氏は「即応性の必要な認識処理はaibo側で行うものの、時間をかけてもいいもの、例えば部屋のマップの分析などは、いったん画像をクラウドに送ってしまい、処理をしてからあたらめて結果を受け取るようになっている」と話す。バックエンドは、Webサービスの構築でみなさんにもお馴染みのAmazon Web Services(AWS)。複数のサービスを組み合わせて、認識や情報の分析が行われる。

ではどこまで高度なことができるのか? ペットとしての個性や成長がどこまで幅広いものになったのか?充電ステーションには自走して戻ることができるようになったようだし、「個性の幅は、過去のAIBOとは比べものにならないくらい広くなっている」(川西氏)とはいうものの、そのあたりはまだはっきりしない。シナリオベースで「きまった動きしかしない」ロボットはすぐに飽きてしまうものだ。どれだけ驚きを与えてくれそうなのか、もう少し情報が欲しいとも思う。

とはいえ、そこを逐一すべて明らかにしてしまうのは、手品のネタばれのような部分があり、興を削ぐ部分もあろう。生活の中での「快活さ」「かしこさ」などを、発売に向けてもう少しうまくプロモーションしてもらいたい、と思う。

なお、ペットロボットにはひとつ、重要な問題がつきまとう。

それが「寿命」だ。一緒に暮らす感覚になるため、他の家電製品と違い、「壊れる」ことへの恐怖はさらに大きいものになる。旧AIBOのサポートが終了したことが、オーナーに大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。ソニーはもう一度、あの悲劇を繰り返してはならない。

特に新aiboは、クラウドと連携する仕組みになっている。だから、「本体が壊れなくてもサービスが終了したら、動かなくなってしまうのでは」と感じる。ただ、この点については、一応配慮されているようだ。

「サービスとの接続がなくなっても、aiboは動きます。ただし、新しい学習ができません。その時の状態のまま、動き続けることになります」

筆者の問いに、川西氏はそう答えた。すなわち、クラウド側の処理は主に「学習」に使われており、日常的な動きはaiboの中で行われている、ということだ。この辺から、新しいaiboの「クラウドによる進化」という特質が少し見えてくるわけだ。