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○衆院解散・総選挙をうけ株価上昇 - バブル崩壊後の高値を更新

11月7日の東京株式市場で日経平均株価が前日比389円高の2万2937円となり、1996年6月につけていたバブル崩壊後の戻り高値(2万2666円)を上回りました。7日の終値は1992年1月以来、25年10ヵ月ぶりの高値です。つまり、株価はバブル崩壊後で最も高い水準、言葉を換えればバブル崩壊後で初めての領域に入ったわけです。2012年11月から始まった「アベノミクス相場」による株価回復は新たな段階を迎えたと言えます。

今回の高値更新に至る最近の動きを振り返ると、衆院解散・総選挙での与党圧勝と連動しています。日経平均株価はすでに今年6月に2万円の大台を回復して2年半ぶりの高値を付けるなど堅調な動きでしたが、7〜8月は一進一退の展開が続いていました。ところが9月17日(日)に主要各紙が「衆院解散へ」と報じるとその翌日の18日(月)から株価が急上昇し始めました。特に10月2日から投開票日(10月22日)をはさんで24日まで、史上最長となる16日営業日連続の上昇を記録しました。そこでいったん連続上昇記録は途切れましたが、すぐにまた上昇を続け、11月7日に高値を更新したという経過です。

この動きは、選挙前は与党優勢との世論調査結果、また選挙の結果が自民圧勝となったことを好感したためです。一時は小池都知事の新党立ち上げによって与党の議席が大幅に減少するのではないかと警戒する空気が流れましたが、希望の党が失速し株価上昇に弾みをつける格好となりました。と同時に、ちょうど10月下旬から上場企業の4-9月期決算が始まり好業績の発表が相次いだこと、米国の景気も好調で米国株が最高値更新を続けたことなども追い風となりました。

○株価は経済を映す鏡 - 現在の上昇は「バブル」にあらず

今回の株価上昇をもっと中長期的な視点で見ると、景気の持続的な回復が底流にあります。株価は「経済を映す鏡」と言われます。株価というものは、時には乱高下することや一部投資家の思惑で変動することもありますが、相場全体を中長期な視点で見れば、経済のあらゆる要素が反映されているということを言い表した言葉です。つまり日経平均株価が約26年ぶりの水準まで回復したということは、経済の実態もバブル崩壊後の長期低迷から脱しつつあることを反映していると言えるのです。

実は、株価はバブル崩壊後に96年を含めて3回の回復局面がありました。1回目はこれまでの高値だった96年6月(2万2666円)、2回目はITバブル期の2000年4月(2万833円)、3回目はリーマン・ショック前の景気回復期だった2007年7月(1万8261円)でした。いずれもそれなりに景気が回復し株価も回復したのですが長続きせず、短期間で株価は下落に転じていました。これは、景気が回復していたと言っても一時的なものにとどまっていたからでした。

しかも2回目(2000年4月)と3回目(2007年7月)は前回の高値を上回ることができないままで戻らないうちに回復が終わってしまいました。このため1回目の高値だった2万2666円(1996年6月)は長年にわたって高い壁になっていたのです。したがって今回、これを21年5ヵ月ぶりに更新したということはきわめて大きな意味があります。株価のトレンドそのものが転換し、本格的な上昇局面に入ったことを示しているのです。

これをもたらしたのは、アベノミクスです。従来の歴代内閣の景気対策は、一部を除いて目先の景気テコ入れが主な目的で、日本経済を抜本的に立て直すところまで行っていませんでした。そのため短期的にはその効果で景気が持ち直しても長続きせず、景気と株価もすぐに下降し始めるといったことを繰り返してきました。アベノミクスはその過去の教訓も踏まえ、「デフレ脱却と日本経済再生」を目的としています。つまり中長期的な視野を持って日本経済を足元から立て直すことをめざした総合的な経済対策だと評価できるのです。まだ目的は達成していませんが、少なくともその途上にあると言えます。

その意味で現在の株価回復はこれで終わりではなく長続きすると見ています。もちろん海外情勢などリスク要因は多いですから今後、波乱や調整はあるでしょうし、最近の急速な上昇の反動が出ることがあるかもしれません。それでも上昇基調そのものは持続される可能性が大きいと予測しています。

株価が上昇すると「バブルではないか」という声がよく聞かれます。現在の状況は「景気回復の実感はない」「景気はそれほど良くなったとは思えないのに株価だけが高くなっている」という意見です。

しかし結論を言うと、現在の株価はバブルではなく経済の実態と反映したものだと判断しています。

○株価上昇は経済実態の改善を反映 - 有効求人倍率は43年ぶりの高水準など

それでは日本経済の実態は本当に良くなっているのでしょうか。景気の回復ぶりを最もよく示しているのが雇用です。厚生労働省の最新の発表では、9月の有効求人倍率は1.52倍でした。これはバブル期のピーク(1.46倍=1990年7月)を上回っており、1974年2月以来、43年ぶりの高水準なのです。

有効求人倍率は、ハローワークに登録する求職者1人に対して求人件数が何件あるかを示すもので、9月の数字をわかりやすく言えば求職者100人に対し求人件数が152件あったことになります。これは職種や待遇などを別にすれば、職を求めている人はどこでも就職でき、それでも求人が半分ぐらい余っている状態だということです。リーマン・ショック直後の有効求人倍率は0.42倍まで悪化していましたし、第2次安倍内閣の発足時(2012年12月)も0.83倍でしたから、現在の雇用情勢がいかに改善しているかがわかります。ちなみに、96年6月当時は0.7倍でしたので、現在と同じ株価でも当時の雇用情勢は相当悪かったことがわかります。

「いや、有効求人倍率が高くなっても非正規雇用が増えているに過ぎず、雇用情勢は依然として厳しい」との批判があります。しかし最近は企業が人手不足に対応して人材を確保しやすくするため、待遇の良い正規雇用のほうを増やし始めているのが実態です。このため非正規より正社員の求人が増加する傾向になっており、9月の有効求人倍率のうち正社員は1.02倍でした。これは、正社員の分類を取り始めた2004年以降では最高となっています。

失業率も9月は2.8%と、23年ぶりの低水準です。リーマン・ショック直後の最悪時は5.5%、第2次安倍内閣発足時は4.3%でした。日本では失業率3%程度が「完全雇用」とされています。完全雇用とは非自発的な事情(つまり会社側の都合)による失業が存在しない状態のことです。あくまでも理論上の数字ですが、基本的には現在は失業の心配がない状態になっていること、もし自己都合も含めて会社を辞めても有効求人倍率から見てすぐに再就職できる――マクロ的には現在の雇用情勢をこう表現できます。

○好業績の決算発表が続々〜過去最高の利益

雇用のほかでも実体経済の改善は各分野で表れています。企業の生産や輸出も好調です。長らく低迷が続いていた消費も、最近はようやく上向きの兆しが出ています。

上場企業の業績は2014年3月期から2017年3月期まで4年連続で最高水準の純利益額を達成しています。また現在、今年4-9月期決算の発表シーズンですが、予想を上回る業績を挙げた企業が多く、2018年3月期の業績予想を上方修正する企業も相次いでいます。現時点では2018年3月期は二ケタの増益となり、さらに過去最高益を更新する見通しです。

先ほど「現在の株価はバブルではない」と書きましたが、企業業績の面からもそのことを示すデータがあります。PER(株価収益率)という指標です。これは、企業の株価÷1株当たり利益で算出するもので、わかりやすく言えば株価が利益の何倍あるかを表します。これを東証第1部上場の全銘柄合計で計算すると、バブル崩壊後の戻り高値をつけた96年6月は約100倍でしたが、現在は約16倍にとどまっています。この数字は、企業の利益水準に対して96年当時の株価のほうが高かったことを示しており、現在の株価はバブルどころか、むしろ割安であることがわかります。現在の18倍というPERは歴史的に見ても妥当な水準で、現在の株価は企業業績の実態に合っていると言えるのです。

○「でも景気回復の実感がない」 - ここに政治の役割がある

このように景気は確実に回復しているのが実態なのです。しかし「景気回復の実感がない」との声がよく聞かれます。それはある面では正しいのですが、その一言で片付けてしまうと、ここ数年間で景気が改善している事実さえ否定することになりかねず、経済の実態を一面的に見てしまうことにもなりかねません。景気回復の事実を正確に認識することが重要だと、まずここで強調したいと思います。

ただ素直な庶民感情として「実感がない」というのもまた事実です。多くの人が景気回復に実感を持てない理由は、3つあると思います。第1は景気回復のペースが緩やかで、しかも到達レベルもまだ不十分なためです。第2は景気回復の果実が一人一人の生活レベルにまで十分に行き渡っていないためで、その代表例は賃金があまり上昇していないことです。第3は少子高齢化と人口減少などで将来への不安が先行しているためです。

それに海外に目を向ければ、北朝鮮情勢をはじめ、テロの拡散、混迷する中東情勢など心配なことが多く、それらに対処すべき米国のトランプ大統領の言動や政権の不安定化も懸念材料です。

こうしたことに対応するには、やはり政治の役割が重要です。これまで見てみたように、アベノミクスは効果を発揮してきたと評価できますが、まだ十分ではありません。道半ばといってよいでしょう。今後は、ここまで回復してきた景気をしっかり持続させるとともに、多くの人が景気回復を実感できるようにすること、そして将来への不安を和らげるような展望を示すこと、などが求められています。

では具体的に何が必要なのか、詳しくは次回。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」

オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」