いまや日本代表に欠かせない存在となっている乾貴士【写真:Getty Images】

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8月のオーストラリア戦をベースとした陣容になるか

 11月10日にフランス北部のリールでブラジル戦を迎える日本代表。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いるチームは7日から戦術練習を開始し、強豪国との試合に向けた準備を進めている。今回の欧州遠征でエースナンバーである10番を背負うことになったのはエイバル(スペイン)でプレーする乾貴士。過去のブラジル戦にも出場経験があり、ラ・リーガではバルサやレアルと対峙している選手だけに、“格上”相手の試合に向けて彼への期待が高まる。(取材・文:元川悦子【リール】)

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 11月10日のブラジル戦(リール)まであと3日。5日から現地で合宿に入っている日本代表は7日からいよいよ本番を想定した戦術練習に突入した。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は短いミーティングの後、ランニングやウォーミングアップなど冒頭15分間を公開した後、自ら「オープン(練習)は終わりだ」と合図を出してメディアをシャットアウト。約1時半の長丁場のトレーニングに取り組んだ。

 倉田秋(G大阪)が「より近い距離で守備をしないと、スペースをちょっとでも空けたら簡単にやられてしまう。今までよりさらにいい守備をしないといけない。今日の練習でも間合いを詰める確認は言われた」と話したように、卓越した個人能力を備えるブラジルをいかに封じるかがこの日のメインテーマだったと見られる。

 日本としては、2018年ロシアワールドカップ切符を取った8月31日のオーストラリア戦(埼玉)のようなアグレッシブなプレスで相手を抑えられればベスト。となれば、2ヶ月前の大一番でスタメンに名を連ねた選手たちが再び抜擢される可能性が高い。

 中盤の陣容は、ボール奪取力に長け、相手をつぶせる長谷部誠(フランクフルト)、山口蛍(C大阪)、井手口陽介(G大阪)が中盤で三角形か逆三角形で並び、両ワイドは浅野拓磨(シュツットガルト)と乾貴士(エイバル)、最前線に大迫勇也(ケルン)という顔ぶれがファーストチョイスになりそうだ。

 左FWに関しては、アップダウンを厭わず、スプリント力に長けた原口元気(ヘルタ)という選択肢もあるが、この1ヶ月で原口は2試合しか出ておらず、直近の10月5日のヴォルフスブルク戦はベンチ外の屈辱を味わっている。代表合流初日の6日の練習では川島永嗣(メス)とともにハードな個人練習を課されたほど。コンディションを含めた不安要素を踏まえると、少なくともブラジル戦は乾が頭から送り出されるだろう。

バルサやレアルと対戦。リーガで飛躍的に成長

 乾本人は「オーストラリア戦の形が自分としては一番。もちろん引く場面が出てくるとは思いますけど、オーストラリア戦みたいに前からはめられればすごいチャンスが作れるし、そういう戦い方ができれば、日本のレベルはもっと上がってくるんじゃないかと思います」と理想のシナリオを頭に描く。自身の中では準備万端と言っていい。

 上記の中で、過去にブラジル戦出場経験があるのは長谷部と乾の2人だけ。乾は2012年10月の対戦時(ブロツワフ=0-4の黒星)の後半45分間と、2013年コンフェデレーションズカップ初戦(ブラジリア=0-3の敗戦)の後半44分からピッチに立っている。それは大きなアドバンテージになりそうだ。

「ホントに守備の時間が増えると思います。それでも自分たちがボールを持てる時間もあると思うので、そこでどれだけ自分たちが仕掛けていけるのか。守備でもどれだけ積極的に奪いに行けるかもすごい大事になってくるので、引かずにしっかり前に行けるように。難しいけど、チームとしてしっかりチャレンジしていきたい」と彼は言う。

 2度の対戦時は相手の凄まじい迫力を前に受け身になってしまった反省を踏まえ、今回こそ強気の姿勢で真っ向勝負に打って出る構えだ。

 今の乾なら、それが十分できるはず。2012年は当時在籍したフランクフルトで好調を維持していたが、2013年は下降線を辿り、2014年ブラジルワールドカップ行きを逃すという挫折を経験している。自身のパフォーマンスに確固たる自信を持てなかったに違いない。

 しかしながら、2015年8月にエイバルに新天地を求めてからは、左サイドを切り裂く鋭いドリブル、突破力という本来のストロングポイントが前面に出るようになる。

 恒常的に試合に出て、バルセロナやレアル・マドリーといった世界最高峰クラブとの対戦経験を積み重ね、自分の立ち位置を確かめたことでメンタル面も飛躍的に変化。コンディションも大きく改善した。10月22日のレアル戦では2トップの一角に入り、最前線にもトライ。プレーの引き出しを増やして今回の代表に合流している。

「むしろ10番は嫌です」

 今年6月から復帰している日本代表では年齢的にも上の方になり、若い選手たちに自ら声をかけたり、笑わせたりするなどのサービス精神も発揮できるようになった。ピッチ上でも安定感が出てきて、攻守両面でボスニア人指揮官が求める高度なインテンシティーを示している。今こそが、まさに乾の絶頂期なのかもしれない。

 今回代表から漏れた香川真司(ドルトムント)に代わってエースナンバー10を与えられるのも、ある意味で当然のこと。本人は「自分のものではないので。真司が今までつけてきて、真司のものだと思っているので」と謙遜し、「むしろ10番は嫌です。10番をつけると出られないというジンクスもあるので」と苦笑いしていたが、今回の25人の中で誰よりも10番が似合う選手なのは間違いない。

 10月のニュージーランド戦(豊田)で自身がお膳立てしたゴールを決めた同い年の倉田も「似合ってると思いますよ。1回、真司が離脱した(6月の)時も貴士がつけたので、いいんじゃないですかね」と太鼓判を押していた。

 その乾に託されるのは、周囲を落ち着かせ、コントロールしつつ、攻守のスイッチを入れる役目。バルサやレアルと対峙し、マルセロ(レアル)やパウリーニョ(バルサ)、ネイマール(PSG)の迫力を肌で感じている彼はそれができる数少ない存在だ。

「ブラジルはレアルやバルサより力強さみたいなものが加わってくる。ホントに難しい相手だと思うので、1人1人が120%を出さないと。それでも勝てるかどうか難しい相手ですけど、それくらいやる気持ちで行かないといけない」と語気を強める新背番号10がチームを力強くけん引する姿を、ぜひとも我々の目に焼き付けてもらいたい。

(取材・文:元川悦子【リール】)

text by 元川悦子