「この3年間で初めて、僕らがベストマシンだったと思う」

 第18戦・メキシコGPの予選Q1で、トップのルイス・ハミルトンから0.192秒差の5番手タイムを刻んだフェルナンド・アロンソは、予選を終えてそう言った。


メキシコGPでアロンソは上位に食い込める手応えを感じていた

「自分たちがどこでどれだけ稼ぎ、(パワー不足による)ストレートでの不利でどれだけ失っているかはわかっている。それを計算すれば、トップのメルセデスAMGより圧倒的に速かったことになるんだ」

 アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスで、マクラーレン・ホンダは決して遅くはなかった。ただ、「車体はベスト」というのは明らかに言い過ぎだ。冷静なドイツメディアなどからは「本当にそう思うのか?」と突っ込まれる場面もあったが、アロンソは持論を曲げなかった。それだけ、コーナリングのフィーリングは心地よく、マシンはレスポンスよく走ってくれたのだろう。

 しかしQ1で5番手だったのは、10台ものマシンが1回しかタイムアタックを行なわないなか、アロンソは2回目のフルアタックを敢行したからでもある。

 メルセデスAMGはQ1こそトップだったが週末を通してマシンに速さがなく、最終的にフロントローに並んだフェラーリとレッドブルはQ1でウルトラソフトより0.6秒も遅いスーパーソフトを履いてアロンソより速いタイムを刻んでいた。つまり、それだけで実際には彼らと0.6秒以上の差があったことになる。

 また、トップチームは温まりの悪いタイヤを考慮して連続アタックができるよう、10kg以上も余分に燃料を搭載して走行していた。ハミルトンもセバスチャン・ベッテルも連続で7周を走り、3回の計測を行なっている。

 一方のアロンソは1回計測の3周のみのランを2回繰り返し、ともに燃料をギリギリまで削っての走行だった。10kg重ければラップタイムは0.31秒ほど遅くなるというから、タイヤの差と合わせれば実際にはトップチームとは少なくとも0.9秒以上のタイムの開きがあったことになる。予選の間に路面状態の向上がほとんどなかったにもかかわらず、彼らのQ3タイムと比べれば1.222秒の差があった。

 たしかにパワー不足によって、1.3kmという長いメインストレートでタイムロスを喫したことは事実だろう。ストレートの最高速ではフェラーリと比べても12km/hの差があり、メルセデスAMGとは15.6km/hもの差になった。

 しかし車速の推移を見ると、DRS(※)ラインを通過する280km/h付近までは、メルセデスAMGと比べても差はほとんどない。失っているのはストレートの後半だけで、それほど大きなタイム差になっているわけではない。決勝でもDRSを使うハミルトンをアロンソが何度もブロックしてみせたように、極端なスピード差があるわけではなかった。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。ドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは70km/hを下回るような低速コーナーが多く、モナコやシンガポールと同じくらいツイスティなセクションを走る時間が長いので、全開率は40%台と低い。そのため、エンジンパワーがラップタイムに与える影響は小さく、1周が短いこともあって10kWあたりせいぜい0.12〜0.13秒程度にしかならない。

 実はここ数戦はFIAの取り締まりが強化され、各メーカーともオイル燃焼を駆使した「予選モード」の使用を自粛している。ホンダとルノーのパワー差は20kW、メルセデスAMGとでも40kW程度と見られ、パワー不足で失っているタイム差を計算しても、マクラーレンが「ベストな車体」とは言えない。

 ホンダはターボの回転が上げられず、標高2200mのメキシコシティで薄い空気が引き起こすパワーロスを、ライバルメーカーのようにターボ過給を上げて補うことが難しかった。そのため絶望的な苦戦を覚悟していたが、日本のHRD Sakuraでギリギリまで攻めたICE(内燃機関エンジン)の燃焼セッティングやMGU-H(※)の使用配分などを工夫することで、そのロスを大幅に抑えることができた。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

「いろんなパラメータを振って、どうすれば一番出力を出せるかを検討しました。ICEの燃焼もそうですし、MGU-Hからの回生もバランスよく取らないとパワーユニットとして走れませんから、トータルで見たときに何が一番速いかをずっとHRD Sakuraで検討して、1週間前に聞いていたよりはずいぶんよくなりました。想定していたロスの3分の1くらいで済みましたから。箸にも棒にもかからないくらいじゃないかと心配していたんですが、そんなことはありませんでしたね」(中村聡プリンシパルエンジニア)

 もしこうした努力がなされず、高地の影響によるパワーユニットのロスが取り戻せていなければ、マクラーレン・ホンダは大きな苦戦を強いられただろう。しかし実際には、ライバルメーカーにもパワー低下はあり、むしろターボにかかる負荷で信頼性に苦しんだのはルノーのほうだった。

「実際にはむしろ、ウチのほうが落ちていなかったんじゃないかなという感じでした。メルセデスAMGは(落ち幅は)そうでもないですけど、ルノーに比べるとここでは戦闘力は高かったなと思いますね」(長谷川祐介F1総責任者)

 マクラーレン・ホンダは2台ともパワーユニット交換によるグリッド降格ペナルティを選んでいたため、Q3に進むことなく予選を終えて、ライバル各車との本当の性能差は明らかにならなかった。それでも、Q1のタイムを当てはめれば、予選9番手につけることができていたのも事実だ。

 だがそれは、急にクルマがよくなったわけではなく、車体もパワーユニットも高地の影響が思ったよりも小さかった、ということに過ぎない。

 長谷川総責任者はこう語る。

「もちろんクルマがいいというのはあると思いますが、(車体が1番だったという)フェルナンドと逆のことを言いますけど、ある意味クルマはあんまり変わっていなくてずっとよかったですから、むしろエンジン側が、我々が思っていたほど悪くなかったというべきかもしれません。高地の影響でパワーは落ちていますけど、他社と比べて相対的に見ても、落ち方はそんなに悪くなかったと思っています」

 当然ながら、他のチームもタイムやGPSデータなどをもとにライバル各マシンの性能分析を行なっているため、アロンソの「ベストな車体」発言が事実でないことは百も承知だ。

 あるチームの上級エンジニアは語る。

「マクラーレンは低速コーナーとそこからの立ち上がりが速い。しかし高速コーナーに関しては、彼ら自身が言うほど速いとは思わない」

 だからこそ、長いメインストレート以外は中低速コーナーの多いアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスでマクラーレン・ホンダは速かった。

 ただ一番の問題は、マクラーレンにしてもホンダにしても、自分たちの性能や特性を正確に把握できていなかったということだ。

 マクラーレンは空気密度が薄く空力性能が低下するメキシコシティで、自分たちの車体が苦しい戦いを強いられると見ていた。本来なら、空気抵抗よりもダウンフォース量が優先されるマキシマムダウンフォースのパッケージを使うシチュエーションはマクラーレンが得意なはずだが、空気が薄いと発生させられるダウンフォース量も減ってしまうからだ。

 しかし、第17戦・アメリカGPで新型フロントウイングを投入したこともあって、車体性能は思いのほか良好だったようだ。

 ホンダ側も、ターボの高地対策がそもそも十分でなかったことは手痛い見落としだった。ICEのセッティングで挽回したのは見事だったが、もう少し早くその見通しが立っていれば、惨敗を想定してメキシコGPを捨ててまで、新品パワーユニットを投入する必要はなかったのだ。グリッド降格ペナルティを受けずに普通に戦っていれば、トップ10圏内で3強に次ぐポジションを争うことができたはずだった。

 残り2戦を万全な体制で戦うために、あえてメキシコGPは捨てた。それなのに、車体側もパワーユニット側も、悪い想定がいいほうに外れたのは皮肉だった。

「残り2戦では、もうさすがにペナルティはありません」(長谷川総責任者)

 ブラジルとアブダビでは、メキシコの金曜日だけ走ってストックした、ほぼ新品のスペック3.8で戦う。仮にトラブルが起きたとしても、ストックされた中古のコンポーネントがあるため、グリッド降格ペナルティが積み重なることもない。車体側でも、メキシコよりも好走が期待できるブラジルとアブダビで全力発揮を出し尽くす。

 残り2戦――。マクラーレン・ホンダとしての実力を100%余すところなく発揮し、集大成となるレースを見せてもらいたい。

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