Google Home(右)と、Google Home Mini(左)の販売風景(撮影:今井康一)

スマートスピーカー市場の役者はそろった

AIスピーカーやスマートスピーカーと呼ばれる市場が盛り上がり始めています。

先行してLINEが人工知能「Clova(クローバ)」を搭載した「WAVE(ウェーブ)」を先行発売し、10月5日に正式発売を実施すると、これに日程を合わせるかのようにグーグルも「グーグルアシスタント」を搭載した「Google Home」を発売しました。両社ともにテレビCMを軸に積極的な販売キャンペーンを展開しています。

さらには、両社の発売タイミングでは年内の投入のみを予告していた「Amazon Echo(アマゾン エコー)」も、11月8日に発表会を開催することが報道され、文字どおりスマートスピーカー市場の役者がそろった状況といえるでしょう。


LINEが人工知能「Clova」を搭載した「WAVE」(左)とすでに海外で発売されているAmazon Echo。日常に溶け込む(左写真はLINEのプレスリリース、右写真はAmazon公式サイトより)

ただ、現在のところ日本の企業は、まだまだ、このスマートスピーカー関連の市場に対して様子見モードだったり、無関心だったりする企業が多いようです。

象徴的だったのがKDDIが今年9月に実施した「日本人の音声操作に対する意識調査2017」に対する反応でしょう。

全体のトーンとしては、「文字入力による情報検索を面倒だと思っている人は半数いる」というスマートスピーカーにとってポジティブな結果と、「人前での音声検索は恥ずかしいと思っている人が7割超いる」というスマートスピーカーにとってはネガティブな結果の両方が入った調査結果です。

しかし、この調査結果を取り上げたメディアの多くは「7割が人前での音声検索を恥ずかしい」と回答したことをタイトルに使っていました。

当然、そのほうが読者や視聴者の注目を集めやすいという点が影響していると思われますが、今回の音声検索のように画期的な新しい技術というのは、登場したタイミングでは否定的な意見が多くなりやすいという点には注意が必要です。

象徴的な例で言うと、iPhoneが日本で発売されたタイミングの反応が象徴的です。

iPhoneの日本での発売は2008年。2007年に先行して発売されていたアメリカでの盛り上がりは日本にもメディアを通じて届いてはいましたが、日本でiPhoneを待ち望んで熱狂していた人たちがいた一方で、「日本でiPhoneははやらない」と懐疑的な専門家も多数いました。

当時、日本は後にガラケーと呼ばれるようになってしまった日本独自のフィーチャーフォンが普及しており、スマートフォンで実施できる行為の多くがすでに実現できていたため、現在のように日本が世界でも珍しいほどのiPhone大国になることは想像がしにくかったわけです。

今でもスマートフォンに苦手意識を持ってガラケーを使い続けているユーザーが日本にはまだまだ多数いることを考えると、実際に当時の日本のユーザーにiPhoneを買うかと質問したら多くの人が後ろ向きな回答をしていたはずです。

想像ができないから、前向きな回答のしようがない

こうした新しいイノベーションに対する市場調査というのは、得てしてネガティブな結果になりがちです。

実際に、SNSが普及し始めた時期に、「あなたはSNSを使いたいと思うか?」と質問された多くのネットユーザーが「使いたくない」と回答していましたし、Facebookが普及し始めた当初は、実名やプロフィール写真の文化は日本では根付かないと否定する人が多くいました。

また、海外で自撮りが流行し始めたときにも、日本人はシャイだから自撮りははやらないという意見が多くありましたが、現在のインスタグラムでの自撮り人気やユーチューバー人気を見れば、必ずしも「日本人は自撮りをしない」というステレオタイプな分類が正しくないのは明白でしょう。

スマートフォンの普及によってガラケーも徐々に市場から姿を消しつつありますが、そのガラケーにおけるネットサービスの草分けであるNTTドコモのi-modeも、開始した当初は誰が携帯電話でメールやインターネットを使うんだと鼻で笑われることが多かったそうです。

iPhoneにしても、i-modeにしても登場したばかりの頃は、多くの利用者がその後のブームを予想できなかったわけです。

結局のところ、人間は自分が体験したことのない新しいイノベーションについてアンケートで聞かれたところで、想像ができないから前向きな回答のしようがない、というのがこの手の市場調査における現実といえるでしょう。

こうした市場調査による思い込みは、一利用者にとっては大した話ではありませんが、ビジネス側の判断をしなければいけない企業にとっては、深刻な事態を招くリスクがあります。

PCインターネットの世界で市場シェアを握っていた企業が、i-modeのようなケータイインターネットへのシフトに乗り遅れてビジネスチャンスを逃したという事例は多数存在します。そのケータイインターネットの世界でトップシェアや高収益を誇っていた企業が、スマートフォンへのシフトに乗り遅れてトップの座から追われたり、収益モデルを失ってしまったりしたという事例も多数あります。

今回のスマートスピーカーの登場が、指先操作から音声操作への「ボイスシフト」のきっかけになりうるとしたら、日本企業の経営者やビジネスパーソンは、音声検索は恥ずかしいとか言っている場合ではなく、今すぐこの市場の未来を予測するために音声検索の世界を実体験しなければいけないはずです。

特に、今回のスマートスピーカーにおいて話が複雑なのは、スマートフォンを使いこなしている人であればあるほど、文字入力やタッチ操作による従来型の操作に慣れているため、音声検索について否定的な印象を持ってしまうケースが多い点です。

筆者の家庭でも、この1カ月LINEのWAVEとGoogle Home Miniを購入し、いろいろと実験をしてみていますが、自分のスマホを持っている妻は、当然ながらスマートスピーカーをオモチャ扱いしてすぐに飽きてしまうのに対し、自分のスマホを持っていない息子たちは、すぐに音楽再生や天気予報、アラームの機能を使いこなすようになりました。

ある意味、スマートスピーカーはスマートフォンを使いこなせていない人や、スマートフォンを使いにくいシーンでこそ、必需品になる可能性を秘めているわけです。

多くの日本企業や日本人にとって深刻なこととは?

スマートフォンに慣れている人ほど、スマートスピーカーのありがたみがわからないという意味では、典型的なイノベーションのジレンマという構造といえるでしょう。

さらに、多くの日本企業や日本人にとって深刻なのは、Amazon Echoのようなスマートスピーカーはすでに米国では3年前の2014年末から発売され、累計で世界3000万台以上が出荷されているといわれているのに、それを実際に体験している日本人がまだほとんどいないということです。

日本企業の開発者も、自分自身が音声検索による新しいイノベーションを体感できていない以上、当然ながらこうした新しいイノベーションを組み合わせた商品やサービスの開発もまた出遅れてしまうことになります。

つまり、スマートスピーカーや音声検索の分野では、日本は製品のみならず市場として3年の遅れを背負ってスタートすることになってしまっているわけです。

インターネットの黎明期、ネットの世界はドッグイヤーともいわれ、ネットでの1年の遅れは従来の産業の7年に等しいとよくいわれていましたが、スマートスピーカーの分野では、ある意味20年に相当する遅れを背負ってしまったことになります。

スマートスピーカーや音声検索を「恥ずかしい」とか笑い話にしているヒマがあったら、今すぐスマートスピーカーを取り寄せて、すぐそこにある未来を体感してみたほうが、ビジネスパーソンにとっては有益でしょう。今この瞬間のスマートスピーカーの機能ではなく、これが将来実現できることが想像されるのです。