「日本シリーズ」 ソフトバンク―DeNA第6戦  日本一を逃し、ソフトバンクの胴上げを見つめるDeNAベンチ(奥)=ヤフオクドーム(写真:共同通信社)

2017年の日本シリーズはソフトバンクが粘るDeNAを振り切り、4勝2敗で2年ぶり8度目の日本一に輝いた。

順当といえば順当な結果である。

94勝49敗で2位・西武に13.5ゲーム差をつけたパ・リーグのチャンピオンと、73勝65敗5分けで首位・広島に14.5ゲーム差をつけられたセ・リーグの3位チーム。

日本プロ野球選手会が発表した今季開幕時点での支配下選手(外国人選手を除く)の平均年俸が、12球団最高の7013万円を誇るソフトバンクと、同じく最低の2600万円に留まるDeNAによる「格差対決」でもあった。

投手力、打撃力、機動力。戦力を見ればすべての面においてソフトバンクが上。第3戦までは下馬評どおりホークスが3連勝を飾った。

ペナントレース3位からの大健闘

しかし、いずれも台風の影響を受けたクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ、ファイナルステージを泥んこになって勝ち上がってきたベイスターズは土壇場で息を吹き返す。

第4戦はルーキー濱口遥大がホークス打線を8回1死までノーヒットに抑える快投で眠らせ、6-0の快勝。第5戦は主砲・筒香嘉智の中越え2ラン、中越え適時二塁打による3打点の活躍などで5-4と競り勝った。

崖っぷちからの2連勝。重厚な戦力に立ち向かう姿はハマのベイスターズファンばかりか判官びいきのプロ野球ファンを大いに沸かせた。

第6戦も3-2と1点リードで9回を迎えたが、守護神の山粼康晃が1死から内川聖一に同点ホームランを許し、延長11回にサヨナラ負け…。シリーズの幕は下ろされた。

「下克上」はならなかったが、3位からの大健闘。アレックス・ラミレス監督はこう総括した。

「選手にはなんてすばらしい1年だったんだろうという話をした。負けたのではなく、得るものが多い1年だった」

敗戦の中に「得るもの」が随所にちりばめられていた。

まずは機動力。ソフトバンクが盗塁を6回企図して全部成功させたのに対し、DeNAはソフトバンクと同数の6回企図しながら4回失敗した。今季のチーム盗塁数39はリーグ最少、両リーグ11位。そのままの結果が出た。

象徴的だったのは福岡 ヤフオク!ドームで連敗して本拠地・横浜スタジアムに戻った第3戦だ。初回、1番の桑原将志が四球を選び、今シリーズ10打席目にして初めて出塁しながら、続く梶谷隆幸の2球目に走ってアウトになる。

ベンチからはランエンドヒットのサインが出ていた。いずれも走者は投球と同時にスタートを切るが、どんな球でも打たなければならないヒットエンドランに対し、ランエンドヒットはストライクだけ打つという作戦だ。

だが、梶谷は外角のストライクに手を出さず、桑原の単独スチールという形になった。捕手の郄谷裕亮がこれ以上ない送球でタッチアウト。気の毒な結果となったが、桑原はそもそも今季21回走って11回失敗と盗塁成功率が5割に届かない1番バッターだった。

これまた四球で出塁した梶谷は3番ホセ・ロペスのときに盗塁のサインが出ていたのにスタートが切れず、じっくり打たせるべき4番・筒香の初球に走って失敗する。ダブルミスでチャンスの芽を潰し、立ち上がりの制球に苦しむ武田翔太を助けてしまった。

大一番の仕掛けは不発

今季のDeNAは盗塁もさることながら犠打も少なかった。12球団最少の84。今シリーズでは送りバントを7度決めて3度得点に絡めたが、10度決めて5度得点に結び付けたソフトバンクには及ばなかった。

盗塁と犠打が少ない代わりにエンドランを多用するわけでもない。1、2番がなんとか塁に出て今季打点王のロペス、昨季2冠の筒香、今季首位打者に輝いた宮粼敏郎の充実したクリーンアップが打って還す。「不動」の攻撃が今季のスタイル。たまにしかやらない作戦を大一番で仕掛けても、うまくいくものではない。

走れる選手がいないわけではない。今季21盗塁のチーム走り頭、梶谷は2014年に今季のチーム盗塁数と同じ39盗塁で盗塁王に輝いている。今季リーグ最多の157三振を喫した粗さを併せ持っているが、機動力を生かすには欠かせない存在。今シリーズは盗塁ゼロ(失敗1)に終わった。

次は守りだ。今宮健太や松田宣浩が再三攻守を見せたソフトバンクに対し、DeNAはミスが目立った。4試合あった1点差の試合は1勝3敗。守備力が明暗を分けた。

3-4で敗れた第2戦は3-1で迎えた7回、1点を返されてなお1死一塁で今宮健太を二ゴロに仕留めながら、柴田竜拓からの送球を受けた倉本寿彦が落球。併殺どころか1死も取れず、この回に逆転を許してしまう。

5-4で勝った第5戦は明石健志の失策で逆に決勝点をもらったが、第6戦はまずい状況判断と送球ミスがシリーズに幕を引くことになる。

3-1で迎えた8回。1死三塁の場面で柳田悠岐の投ゴロを捕った砂田毅樹が三塁走者の城所龍磨が三塁と本塁の間に止まっているのを目で確認しながら一塁へ送球し、城所の生還を許す。捕手の嶺井博希も一塁を指示していた。

1点差にされて9回1死から内川の同点弾が飛び出す。山粼の勝負球、ツーシームを狙い打った内川の技術、精神力はさすがだが、2点差だったら塁に出るためヒット狙いできているところだ。DeNAにとっては8回の1失点がかえすがえすも痛かった。

ミスの連鎖で万事休す

延長11回は1死からエドウィン・エスコバーが四球を連発。代わった三上朋也が松田を三ゴロに仕留めながら、捕って三塁ベースを踏んだ宮粼の一塁送球がわずかにそれ、ロペスの足が一塁ベースから離れた。併殺を逃し、川島慶三の右前打でサヨナラ負けを喫するのである。

最後の場面、前進守備の梶谷からの本塁送球はストライクのコース。普通にバウンドしていればアウトのタイミングだったが、イレギュラーして高く弾んだ。ミスの連鎖が不運を連れてきたのだ。

ソフトバンクはクローザーのデニス・サファテが来日最長の3イニングを投げ、内川にも代走を送っていた。延長12回までのレギュラーシーズンと違って日本シリーズは15回まで。この回をしのげば、勝機は十分あった。

最後は選手層だ。敵地での3試合、DHに入ったのは第1戦が8番でルーキー細川成也、第2戦は7番で乙坂智、第6戦が6番で白崎浩之と毎試合違った。

白崎起用は同点弾を含む2安打と当たったが、あとの2人は無安打。今季の打率が白崎.185、乙坂.190。細川は.400といっても出場わずか2試合、5打数2安打での数字だ。

35本塁打、103打点で2冠に輝いたアルフレド・デスパイネが3番に座ったソフトバンクのDHとは大きな違いだ。通常DHのないセ・リーグとはいえ、選手層の薄さを物語っている。

ラミレス監督は桑原や倉本がどんなに打てなくても外さなかったように、「レギュラー」と決めた選手は信念を持って使い続ける。その分、控えの選手は出番が少なくなり、成績も上がってこない。今季のチーム代打成績は231打数36安打9打点。打率.156はリーグ最低だった。

レギュラーを信頼して起用する中で、代打、交流戦や日本シリーズでDHを任せられる打者をどう育成していくか。あるいは補強するか。これも今シリーズが教えてくれた課題である。

こんなに興奮した日本シリーズはない

「得るもの」をいっぱい抱えながら、現役で11回、監督で2回の13回目となる日本一に輝いたソフトバンクの工藤公康監督にこう言わせた。

「決まった瞬間は頭が真っ白で、日本一になったんだ、と。もう泣かないぞと思ったけど、苦しかったことが頭をよぎって涙してしまいました。現役時代を含めてこんなに興奮した日本シリーズはありません」

その工藤監督にもらい泣きしたという王貞治球団会長も「こんなに胸が熱くなったのは久しぶり。ここまで興奮したことは今までなかった。ベイスターズは試合をやるごとに強くなっていった。手ごわい相手だった」と振り返った。

年俸のいちばん低い球団がいちばん高い球団をそこまで苦しめたのである。

発展途上のチームの年俸が低いのは仕方ない。先発投手陣は22歳の濱口をはじめ石田健大、今永昇太ともに24歳。野手も桑原24歳、柴田23歳、倉本26歳…。筒香もまだ25歳だ。

一方のソフトバンクは投手が千賀滉大、武田翔太ともに24歳、東浜巨27歳、和田毅36歳。野手は内川35歳、松田34歳、柳田29歳、今宮26歳…。

ベテラン、中堅、若手がバランスよく混在する円熟の王者に対して、DeNAは伸びしろをたくさん残す若いチームなのである。

今シリーズで得た教訓を生かして「不動」の攻撃から脱皮し、守備の精度をどれだけ上げられるか。効果的なドラフト戦略で有能な人材を集めてきたフロントが、さらに上を目指していかに厚みのある戦力を整えるか。

すべてが絡み合って選手の年俸が上がったとき、ベイスターズはセ・リーグのチャンピオンとして日本一を争う舞台に戻ってくる。

(文中敬称略)