「一人ひとりの聴力に合わせて「あなただけの音」を奏でるヘッドフォン、「nuraphone」」の写真・リンク付きの記事はこちら

ヘッドフォンは眼鏡のようなものだ。あなたに合うものは恐らく、あなたの友人には合わないだろう。多くの場合、よし悪しは完全に主観的な問題だ。ある人にとっては低音を強く響かせるヘッドフォンがクラシックの美しさを一番よく引き出す。一方で、フルートや弦楽器のニュアンスが乱雑になるので同じものを好まない人もいる。

結果として、自分にとってどんな音がよくてどんな音が悪いのかを説明できる人は、ほとんどいない。聴けば好みは分かるけれど、具体的にどうすればいいのかが分からない。「これは問題です」と指摘するのは、オーディオメーカー「nura」の共同創業者、カイル・スレーターだ。「大半の人がいい音を聴いていないのではないかと思うんです」

音響心理学で博士号を取得したスレーターは、ほかの創業者とともにヘッドフォンを開発し、それを通して誰が聴いても客観的にいいと判断できる音を届けられると信じている。価格399ドル(約45,000円)のこの新しい「nuraphone」は、個人のオーディオプロファイルを計測し、その人の好みに合わせて音を調節できるという。

PHOTOGRAPH COURTESY OF NURA

「耳音響放射」と呼ばれる現象を計測する一般的な聴力検査を利用することで、この会社はそれを可能にした。耳の中に音が入ると、小さな3つの骨から、液体の入った渦巻状の「蝸牛」と呼ばれる器官へ振動が伝わっていく。「蝸牛は身体の中にあるマイクのようなものです」とスレーターは言う。

伝わった振動を電気信号にして、脳に伝える仕事をしているのが蝸牛だ。この工程の副産物が耳音響放射と呼ばれるもので、とても小さな振動が外へ向かって反響し、それが記録され、分析される。「素晴らしいフィードバック機能なんですよ」と彼は話す。

nuraphoneの中には小さなシリコン製イヤフォンが取り付けられており、小さいにもかかわらずとても強力なマイクが内蔵されていて、耳音響放射をとらえる。セットアップ時に、250hzから8khzのいろんな周波数の音をごちゃまぜにしたものが60秒間流れるのだという。これを参考に、nuraのソフトがその人の耳にとって一番聞こえやすい周波数と聞こえにくい周波数を検出する。各耳が個別に計測され、その結果を平均してオーディオプロファイルがつくられる。

「タンバリンやフルートなど、高い周波数の音を聞き取りやすい人もいれば、反対に低周波数の音を敏感にキャッチする人もいる。同じ耳の人はいません」とスレーターは言う。nuraは聴覚のギャップを埋めることで、元のファイルを均等に聴かせられる。これによって、ユーザーとってより深みのある豊かな音をつくり出すことを目的としている。

nuraのヘッドフォンは、あなたの耳の処方箋のようなものだ。友達の眼鏡をかけるのと同じように、他人のオーディオプロファイルを使うと音は汚く聞こえるだろう。同僚と聴き比べをしたところ、彼女はまるで電子音楽を聞いているようだと言った。高周波が苦手なわたしの設定は、彼女の耳には安っぽく聞こえ、彼女の設定で聴くのは同じくらい酷かった。

「もちろん、多くの商品が同じ謳い文句を使っている以上、疑念をもたれてしまうでしょう」。そうスレーターは認める。しかし、この会社が自身のテクノロジーを証明する一番の手段は、自分と他人のプロファイルとを聴き比べることだ。「音楽をより楽しめるようになります。そして、双方が満足できるなら、あなたにピッタリの音を見つける問題が解決されるのです」

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