残り3試合で大宮の指揮を執ることとなった石井新監督。どのような采配を見せるだろうか。(C) SOCCER DIGEST

写真拡大 (全2枚)

 J1残留争いの渦中に身を置き、残り3試合となった段階で伊藤彰監督と松本大樹強化本部長を解任した大宮は、いかなる方策で残留を目指すのか――。衝撃の人事発表から2日後の7日、石井正忠新監督の下で初練習が行なわれ、練習後には新監督と新たに就任した西脇徹也強化本部長が森正也社長とともに記者会見に臨んだ。

 
 森社長は、石井監督との契約に関して、来季以降の見通しについては明言せず「3試合でどうやって残留するかの一点。この思いを遂げるための就任、残留のための交代」とシーズン最後のリーグ中断期間に大ナタをふるった理由を説明した。
 
 残り3試合で残留圏15位の甲府との勝点差は4。最悪の場合は次節にも降格が決まるという状況でチームを任された石井監督は、先発の陣容や基本布陣を大きく変える考えはないと話し「守備は、全体が連動する形をもっと作り上げなければいけない。攻撃は、少しポゼッションはできると思うんですけど、時間をかけた攻撃が多くなっていると思うので、もう少しシンプルにゴールに向かうような形を多く作る。前の方に能力のある選手がたくさんいるので、その選手を生かせる形を作って、3試合勝ち切る形を作りたい」と立て直しの方針を明示した。翌日から取り組む戦術練習では、守備の強化に取り組むという。
 
 監督交代により、戦い方が変わりそうだ。簡潔に言えば、大宮は過去の戦い方に戻る。2015年に初めてJ2へ降格するまでの10年間、常に残留争いに巻き込まれながら生き残った大宮の伝統は「堅守速攻」だ。今季中に解任された渋谷洋樹、伊藤の両監督は、攻撃重視を打ち出していた。ともに、攻撃時にポジションチェンジを多く行ないながらボールを保持することで相手の守備に混乱を生み出して隙を突くスタイルを採用して来た。大宮は、クラブ内で長い時間を過ごして来た指導者を起用し、攻撃を重視したスタイルの追求に取り組んできたが、路線を変更して残留を目指すことになる。
 
 石井監督は中盤でボールを奪ってショートカウンターを狙う意図を持っているようだ。「ある程度、自陣に引き込んで守ることはできていると思いますが、それをもっとアグレッシブに自分たちがアクションを起こして、ボールを奪いに行く形というのは、私が鹿島アントラーズの時からやっていたことですが、それを引き続き、このチームでもやっていきたい」と守備力向上のイメージを語った。
 
 かつての大宮は自陣に引き込んでボールを奪い、外国籍選手を中心としたカウンター攻撃を繰り出すというスタイルだったが、石井監督が話したように前線からプレッシャーをかける場合、2トップの両方がコミュニケーションの難しい外国籍選手という起用は考えにくい。江坂任、大前元紀の2トップか、マルセロ・トスカーノを前線で起用するとしても相棒は日本人選手になるだろう。前線から圧力をかけ、中盤で当たりの強いカウエらがボールを奪って速攻を仕掛けるスタイルになりそうだ。
 
 守備重視で戦う大宮は、過去に残留争いで勝負強さを発揮してきたが、今回は残り3試合で後がない。石井監督は、大宮の前身であるNTT関東でプレーした経緯があり、就任決断の理由を語るにあたり「クラブがこういう厳しい状況だからこそ、私にオファーをくれたということも……そういう強い意思を受けたので……、それに応えないわけにはいかない。そういう気持ちもありました」と話すと目に涙を浮かべ、窮地の古巣を助ける使命感を漂わせた。
 
 残り3試合のオファーという異例の決断を下した大宮と石井監督は、攻撃重視から堅守速攻への回帰で奇跡の残留を目指す。