中盤に本格コンバートされた昨シーズンのファビーニョ(右)は、リーグ・アンMVPの声が挙がるほどのめざましい活躍を披露。今シーズンも引き続き国内外で質の高いパフォーマンスを見せている。ブラジル代表に呼ばれないのは不可思議だ。 (C) Getty Images

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 11月10日に日本代表と親善試合を行なうブラジル代表は、来夏のロシア・ワールドカップで優勝候補の一角に挙げられる。
 
 南米予選では序盤戦こそピリッとしなかったが、偏向した選手選考などで批判の多かったドゥンガから監督の座を引き継いだチッチが、見事チームの立て直しに成功。新政権下での初戦となった7節エクアドル戦(2016年9月1日)から8連勝を飾り、世界のどの国よりも早く(予選免除の開催国ロシアを除く)本大会出場を決めた。
 
 チッチ監督率いる現在のセレソンは、過去のチームと比較してタレントがやや小粒と見る向きもある。それでもエースのネイマール(左ウイング)を筆頭に、ダニエウ・アウベス(右SB)、マルセロ(左SB)、コウチーニョ(右ウイング)、ガブリエウ・ジェズス(CF)といった名手を擁し、世界の頂点を狙えるだけの戦力を誇る。
 
 ただ、こうした選手たちとともにセレソンに名を連ねて不思議ではない実力、実績を持ちながら、なぜかずっと蚊帳の外に置かれているタレントがいる。リーグ・アン(フランス1部)のモナコに所属する24歳のセントラルMF、ファビーニョだ。
 
 チッチ監督は今年6月の親善試合や10月のワールドカップ予選に、チェルシーのダビド・ルイス、ユベントスのアレックス・サンドロ、バイエルンのラフィーニャ、マンチェスター・シティのダニーロなど、それまで代表に呼んでいなかった実績十分の中堅・ベテランを相次いで招集した。
 
 しかし、ファビーニョにはお呼びがかからず、日本戦とその4日後のイングランド戦に向けた今回のメンバーにも選ばれなかった。
 
 4-3-3を基本システムとする現セレソンにあって、中盤はアンカーがカゼミーロもしくはフェルナンジーニョ、インサイドハーフがパウリーニョ、レナト・アウグストという布陣でほぼ固定されている。だが、ファビーニョの実力はこの4人と比較してもまったく遜色ない。それどころか、いま世界でもっとも注目されているMFのひとりと言っても過言ではないのだ。
 
 もともとは右SBが本職で、中盤で起用されるようになったのはモナコ3年目の15-16シーズン後半。中盤への適性を見抜いたモナコのレオナルド・ジャルディム監督は、翌16-17シーズンにセントラルMFに本格コンバートし、ファビーニョの才能を引き出した。
 
 MFという新境地を開いた昨シーズンは、ファビーニョにとってまさに飛躍の年となった。2センターハーフの一角に固定され、攻守の要として八面六腑の活躍。長いリーチを活かして敵からクリーンにボールを奪えば、正確なパスで局面を前に進め、ときには自ら持ち上がりチャンスを切り拓いた。
 
「守」から「攻」の切り替えの速さも特徴のひとつ。モナコ自慢のトランジションサッカーの文字通り中核であり、リーグ・アン優勝、チャンピオンズ・リーグでベスト4と国内外で大躍進を遂げたチームの快進撃を支えた。
 昨シーズンの活躍により、今夏にはマンチェスター・ユナイテッド、パリ・サンジェルマン、アトレティコ・マドリーといったトップクラブが強い関心を示し、市場価値が一気に高騰した。
 
 なかでもパリSGはMFの最優先ターゲットとして照準を合わせ、本人とは合意に達したとも伝えられたが、結局、話はまとまらずモナコ残留で落ち着いた。
 
「なぜ代表に呼ばれないのか分からない。リーグ・アンだけでなく、チャンピオンズ・リーグの舞台でも実力を証明しているというのに……」
 
 ファビーニョに絶大な信頼を寄せるジャルディム監督は訝しむ。モナコからは今年、CBのジェメルソンと駆け出しの若い左SBジョルジュがセレソンに招集されているが、ポジションが違うとはいえ、チーム内でこの両選手よりはるかに重要な戦力であるファビーニョが選ばれないことが不思議でならないのだろう。
 
 ブラジル代表でも、ドゥンガ前政権時代にはコンスタントに招集されていた。14年9月に初招集され、15年6月のメキシコ戦(親善試合)でデビュー。この年のコパ・アメリカ、さらに翌16年夏のコパ・アメリカ・センテナリオにもエントリーされた。
 
 だが、コパ・アメリカ創設100周年を祝う昨夏の記念大会をもってドゥンガ監督が解任され、後任にチッチが就いてからは完全に代表から遠ざかっている。つまり中盤にコンバートされ、ブレイクしてからは一度も招集されていないのだ。
 
 なぜファビーニョを呼ばないのか。チッチ監督はその理由を明らかにしていない。モナコで2センターハーフの一角としてプレーするファビーニョは、3センターハーフのアンカーやインサイドハーフには適性がないと見ているのだろうか。
 
 仮にそうだとしても、D・アウベスのバックアッパーに適材が見つからない右SBにも対応できるだけに、貴重な戦力になるはずだが……。
 
 いまや世界有数のセントラルMFとも評される24歳は、このままチャンスさえ与えられず、ワールドカップ出場を叶えることができないのだろうか。