原油価格が上昇中。いずれ生活にジワジワと影響を及ぼす可能性も(写真:ICHIMA / PIXTA)

原油価格がジワジワと上昇している。

前回の本欄「原油価格が『1バレル60ドル台』まで戻る理由」では、「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油は自律反発を経て、最低でも1バレル=60ドル前後に戻すのが常識的な動きであると考えている」とした。当時は50ドル前後で推移し、上値の重い中、上昇に向けた材料に乏しいとの見方が大勢を占めており、このような見方は市場において、皆無といってよい状況だった。

60ドル台視野でも本来の水準に戻りつつあるだけ

しかし、WTI原油価格はこの1カ月で徐々に下値を切り上げ、節目の55ドルを超え、筆者の予想どおり、60ドルが視野に入ってきている。多くの市場関係者がこの動きに驚いていることだろう。しかし、筆者からすれば、あるべき水準への訂正が起きているだけであり、ごく自然の動きであると考えている。それでもなお「65ドルから75ドル」という、筆者が考える「あるべき水準」にはまだ遠いのだが、これも現在の需給のファンダメタルズ(基礎的な条件)を、市場が徐々に織り込む形で、いずれは到達可能と考える。

原油価格は生産・供給と消費・需要のバランスで決まるのだが、価格決定権を持っているのは生産者である。これはコモディティの特徴である。世界第1位と2位の生産者であるサウジアラビアとロシアが、価格を引き上げるために減産を続けると言っているのだから、原油価格が上昇するのは必然ともいえる。

サウジを代表とするOPEC(石油輸出国機構)と、ロシアを代表とするOPEC非加盟国は、昨年11月に日量170万バレルの協調減産で合意し、現在はこれを来年3月まで延長している。しかし、原油価格の引き上げを図るため、減産期限はさらに延長される見通しだ。

サウジアラビアのハリド・ファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は、「原油在庫の圧縮に努めることに重点的に取り組んでいく」と強調しており、価格引き上げに対する本気度が確認できる。またファリハ氏は、「世界的な原油在庫の削減に向け、一段の取り組みが必要」とし、ロシアやウズベキスタン、カザフスタンの各国石油相らと会談し、「協調減産に合意した各国の戦略には、全般的な達成感があるものの、仕事を決してやり終えていないと皆が認識している。在庫減は一層実行する必要がある」と強調している。

さらに、「カザフのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領からも同様の見解をうかがった。アジアのエネルギー相会合で、産油国すべてから聞いた見解も同様だった」とし、マレーシアやエクアドル、ナイジェリア、リビアの当局者らも似たような見方を示したとしている。原油価格の押し上げに向けた産油国の思惑はかなり明確である。原油相場が上向くも当然である。

「ベネズエラのリスク」も価格上昇の材料に

こうした状況から、現行の協調減産については、「延長するかしないか」ではなく、「いつ延長を決めるか」の問題であるといえる。減産延長が11月30日開催のOPEC総会で決まるのか、それとも来年1月に決定されるのか。いずれにしても、減産延長は既定路線であるといってよいだろう。

ちなみに、10月のOPEC加盟国の産油量は前月から日量8万バレル減少し、減産順守率も86%から92%に改善している。一時は減産の順守状況がやや緩んでいたが、監視委員会が順守状況を厳格に管理するようにしてから、徐々に改善されているようだ。

今後、世界の石油在庫が着実に減少していることが確認できれば、相場水準はさらに切り上がるだろう。一方で、ベネズエラの財政危機や、同国国営石油会社PDVSAの資金繰りリスクへの関心も高まっている。これも支援材料になる可能性が高い。そもそも、現在の原油価格の水準では、多くの産油国は単年度の財政収支あるいは経常収支を均衡させることができない。この状況が数年続けば、外貨準備が底をつき、国としても破綻することは避けられない。

これはサウジとて対岸の火事ではない。サウジは現在の苦しい財政状況の改善を図り、将来に向けた投資を拡大させるため、国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を来年実施する意向にある。有利な条件を勝ち取るためには、原油価格を引き上げることで、アラムコの時価総額を押し上げる必要がある。そう考えると、サウジが原油価格引き上げのための減産をやめるはずがない。

また、新たな報道として、サウジでは汚職関与を理由に王族や閣僚、投資家らが拘束されたことが伝えられている。サウジで行われた拘束は、王位継承順位第1位であるムハンマド皇太子への権限集中を進めるための措置と考えられている。関係者は「汚職取り締まりの第1段階にすぎない」としており、さらに「粛清」が進む可能性がある。これも原油価格を支える可能性があるだろう。

米国でも原油在庫が減少、価格は下がりにくい構造に?

一方、米国内では、石油在庫の減少傾向が顕著になっている。その背景には、米国の堅調な輸出が挙げられる。9月の原油輸出量は日量147万3000バレルと、8月の77万2000バレルを大きく上回った。相対的に価格が安いWTI原油を調達して輸出、相対的に価格が高いブレント原油連動の海外市場で売却すれば、収益が上がることが輸出増の背景にあるとみられている。

米国から原油がなくなれば、それはWTI原油の直接的な押し上げ要因になる。この結果、米国内の原油在庫は、原油相場の下落が顕著になり始めた2015年のピークの水準を下回ってきた。

また、興味深いのが米国内の石油掘削リグ(装置)稼働数の伸びの低迷である。最新週のリグ稼働数は前週比8基減の729基と、5月以来の低水準となり、減少幅も2016年5月以来の大きさとなった。安い原油価格では、リグを稼働させられない状況にあることが、かなりはっきりしてきている。

WTI原油が安値圏で低迷すれば、産油量も伸びないことになる。結果的にWTI原油価格は下がりにくいということになる。産油量自体はいまだに日量950万バレル前後と高水準にあるが、輸出で収益を上げるため、無理に生産している可能性もある。また、これまで原油価格が低迷していた時期に、安いコストのリグを稼働させていた可能性があり、その場合には今後は生産コストが上昇することになる。これも、WTI原油を下支えすることになるだろう。

ロイターの調査によると、WTI原油の平均予想価格は、2017年が50.21ドル、2018年が52.50ドルとなっている。しかし、これは筆者から見れば相当低いように感じられる。前回の本欄でも指摘したように、WTI原油は金や銅などとの比較において、相当割安な水準にある。これらの市場との対比で試算したWTI原油の理論値は65ドルから75ドル水準である。WTI原油はようやく60ドルが視野に入ってきたが、まだ安いというのが筆者の考えだ。WTI原油は年末から来年初めにかけて、これまでどおり、65ドルから最大75ドルまでの上昇を想定する。