ドナルド&シンゾーの関係でも、米国の対日貿易赤字には強硬な姿勢で臨み、大量の武器購入を迫ったトランプ大統領(写真:共同)

群衆の歓声とカメラやスマホのシャッター音のあふれる"トランプ狂騒曲"が終わった。「世界のお騒がせ男」ドナルド・トランプ米大統領の初訪日は、ファーストドーターと呼ばれるイバンカ大統領補佐官による"露払い"もあって、首都・東京を舞台に6日間にわたる「トランプウイーク」のお祭り騒ぎに沸いた。ファーストネームで呼び合う「ドナルド&シンゾー」コンビ結成で、今回はホスト役の安倍晋三首相は「首脳同士がここまで濃密に深い絆で結ばれた1年はなかった」と得意満面で、アッキーこと昭恵夫人とともに大統領夫妻へのおもてなしに全力投球した。

視聴率至上主義のテレビ各局はNHKも含めて大統領夫妻や娘の一挙手一投足をライブ映像などでたれ流し、大統領宿泊先の名門ホテルの周辺は、物見高い群衆による喧騒に包まれた。ひときわ目立つ長身ぞろいのトランプ一家は、行く先々で日の丸と星条旗の小旗で歓迎され、「幸せな日本訪問」を満喫しているようにも見えた。

ただ、最大の焦点の北朝鮮危機への対応は「最大限の圧力」と「すべての選択肢」で「完全に一致」したが、外交的解決への道はかすみ、安全保障を"人質"に日米貿易摩擦解消を迫る大統領に、首相は防戦も強いられた。過去にも例のない日米首脳の「異様な親密さ」も双方の国益一致には直結せず、「世界の安倍」を自認する1強首相も"トランプ占い"の結果は「吉凶相半ば」と見えた。

先乗りイバンカ氏が首相らを"悩殺"

「トランプウイーク」の始まりは2日からのイバンカ補佐官の訪日だった。同日夕、民間機で成田空港に到着したイバンカ氏は水色の上着に黒のパンツという装いで、元モデルらしい長身と小顔で、カメラの砲列に笑顔を振りまいた。本来、大統領補佐官は外交賓客とはいえない事務方にすぎないはずが、「トランプ大統領がいちばん言うことを聞く愛娘」だけに首相ら政府側も「将を射んとすれば……」との格言どおり、重要閣僚級の接遇で対応した。

イバンカ氏は当初、日本に先乗りしたうえで大統領アジア歴訪に合わせて韓国、中国も訪れる予定だったが、国内事情もあって4日帰国に変更した。日本と同様に「重要賓客」の訪問に期待していた韓国と中国の関係者は、"人気アイドル"のドタキャンにがっくりと肩を落としたとされる。

才色兼備のイバンカ氏だけに、同氏の公式日程となる3日の「国際女性会議」では首相自身が出迎えや講演前の紹介を行うなど気遣いは半端ではなく、同夜は「大手町の日本旅館」として有名なホテルで歓迎夕食会を開催した。和室の会食でのハイライトとなった雅楽演奏では、曲の途中で3日前に誕生日を迎えたイバンカ氏を祝う「ハッピーバースデー」が奏でられ、気づいたイバンカ氏が「オー!」と口を押さえて喜ぶ姿に、サプライズ仕掛け人の首相もご満悦だったという。

自らのファッションブランドも持つイバンカ氏は、国際女性会議にはピンクの上着とミニスカートで脚線美を披露、夜の会食には花柄のワンピースに黒のリボンベルトという華やかな装いで首相らを"悩殺"した。4日朝の散歩も含め、TPOを意識したイバンカファッションはモデルさながらだったが、首相らとの会話の中では、大統領補佐官としてトランプ外交を支える手腕も垣間見られたとされる。

会食は肉づくし、ゴルフ対決も接待優先

主役のトランプ大統領は、娘の帰国した翌日の5日午前、大統領専用機「エアフォースワン」でメラニア夫人とともに都下の米軍横田基地に降り立った。大統領は同基地内で行われた歓迎式で世界最強を誇る米軍の最高司令官としてスピーチし「どんな独裁者もアメリカの決意を過小評価してはいけない」と北朝鮮を強く牽制。「USAコール」が響く会場で米軍兵士や自衛隊の面々と握手を繰り返した後、専用ヘリコプター「マリーンワン」で埼玉県下の霞ケ関カンツリー倶楽部に移動し、今年2月以来の首相とのゴルフ対決に興じた。

世界の目を意識してか、ゴルフ場なのに双方とも背広姿で再会した大統領と首相はまず、クラブハウスでわざわざシェフを招いて焼き上げた米国産牛肉を挟んだハンバーガーをぱくつき、記念の帽子にサインし合って親密ぶりをアピールした。ステーキ大好きの大統領と焼き肉大好きの首相だけに、その後の3回の会食もすべてメインデイッシュは和牛の肉づくし。「ステーキはウエルダン(十分焼く)でケチャップたっぷり」というトランプ流に、首相だけでなくシェフたちも苦笑しながら調子を合わせたとされる。

米プロゴルフツアーで活躍する松山英樹選手も交えてのゴルフプレーでは「勝負はデッドヒート」(首相)となったとされるが、首相がファーストパットで大きくオーバーした球を大統領が笑って拾い上げるなど、和気あいあいの接待ゴルフでもあった。ただ、わずか90分足らずのハーフラウンドでも、首相は「リラックスする中で難しい話もできた」と納得顔。ただ、プレーの合間の2人だけの「密談」は日米外交史の隠された1ページとなった。

ゴルフに続いて、東銀座の高級ステーキハウスで夫人同伴の夕食を楽しんだ両首脳は、翌6日には迎賓館での昼食会も含めた日米首脳会談と共同記者会見という公式行事をこなし、同じ場所の晩餐会で「とても楽しい訪日」(大統領)を締めくくった。晩餐会にはイバンカ氏の娘(大統領の孫)がファンになった「ペン、パイナッポー、アッポーペン」が世界で大ヒットした歌手のピコ太郎さんも招かれ、大統領夫妻との軽妙な掛け合いが参会者の笑いを誘った。

こうした合計9時間半にも及ぶ首脳交流は過去に例のない華やかさで、イバンカ氏の"露払い"訪日も合わせた6日間の"トランプウイーク"は、「安倍外交のプライムタイム」(外務省)となり政府高官も「大成功」と胸を張った。しかし、一連の首脳協議での重要テーマだった北朝鮮危機や対中国外交、さらには日米貿易摩擦などへの対応では軋轢もあり、「日米外交の難しさ」も垣間見られた。

安倍外交のプライムタイムには"落とし穴"も

4日にハワイに立ち寄って日米開戦の地・真珠湾に沈んだ戦艦アリゾナの犠牲者を慰霊した大統領は、ツイッターに「リメンバー・パールハーバー」と書き込んだ。横田基地のスピーチでは日本を「宝のようなパートナーで、誇り高い歴史を持っている」と絶賛した大統領だが、過去の日本軍の米国奇襲への複雑な思いがにじんだ瞬間でもあった。

5度目となった6日の日米首脳会談での最優先議題は当然、ICBM発射や核実験を繰り返す北朝鮮への対応だった。両首脳は過去の対話を無視して暴走する北朝鮮に対し、日米両国が「最大限の圧力をかける」ことで一致し、共同会見でも「日米が100パーセント共にあることを力強く確認した」(首相)、「われわれは黙って見ていない。戦略的忍耐の時期は終わった」(大統領)と共に強い言葉で北朝鮮を牽制した。

ただ、こうした日米首脳の言動に対して北朝鮮は機関紙・労働新聞を通じて「破滅を免れたいなら滅多に口を開くな」と恫喝するなど対話の気配はまったく見せない。非公表になったとされる米朝軍事衝突時の韓国からの邦人退避策協議が、解決の方途もない事態の深刻さを物語る。武力行使を含む「すべての選択肢がテーブルの上にある」と繰り返す大統領の対北戦略を、首相が「完全に一致している」と明言したことで、「日本が巻き込まれるリスクが高まった」(元外務省高官)ことも否定できない。

さらに両首脳は対北戦略で「中国が大きな役割を果たすことが重要」と口をそろえたが、直ちに中国外務省が「誰からも言われる必要はない」と不快感を示すなど、中国との連携も困難視される状況だ。日本にとって、米国と完全に手を組んでの対中外交は、軍事衝突に徹底反対している韓国との協議とも合わせて、「安倍外交の重大なネック」(自民幹部)ともなりかねない。

一方、日米貿易でも両首脳の立場は食い違った。巨額の対日貿易赤字を問題視する大統領は、6日朝の日米企業家との会合で「日米貿易は公平でない」と批判した。大統領は首脳会談でも「対日貿易赤字を減らしていかねばならない」と迫ったが、首相は麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話を深化させるとしてなんとか体をかわした。

大統領が就任時に離脱を決断した環太平洋経済連携協定(TPP)の米国抜きでの締結問題や、TPPに代わる日米FTA(2国間自由貿易協定)についても議題に上った可能性が大きいが、両首脳は共同会見でまったく触れなかった。これは「世界に日米蜜月関係をアピールするためあえて言及を避けた」(官邸筋)のが真相とみられている。

そうした中、大統領は共同会見で「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ」と得意気に語った。大統領は、北朝鮮が日本上空を通過するICBM発射を繰り返していることについて「(自衛隊は)なんで撃ち落とさないのか」とつぶやいたとされる。日本の米国製防衛装備品の購入はその延長線上の要求でもある。首相も「努力する」姿勢を示したが、防衛省幹部は「予算上も、とても対応できない」と首を傾げる。

平和憲法を背景に安全保障では「米国頼り」の日本に、あえて防衛力強化を求める大統領は「武器商人」ともいえる。会談後、ツイッターに「(日本から)大量の軍関連やエネルギーの注文が来ている」と書き込んだ大統領は「友好の仮面を外せば、安全保障と武器輸出をディール(取引)するようなしたたかな商売人」(外務省幹部)の素顔も見せた格好だ。

「猛獣使い」が食い殺される不安も

もちろん、首脳会談の前に北朝鮮の拉致被害者や家族との面会に応じ、「解決への協力」を約束した大統領に、高齢の被害家族たちは「感謝と期待」に胸を詰まらせた。首相との個人的関係も含め、日米両首脳が強い絆で結ばれていることは否定しようがない「安倍外交の成果」(自民幹部)ではある。

しかし野党からは「すり寄りへつらう対米追従」(社民党)との批判も出た。自民党内でもポスト安倍を狙う石破茂元地方創生相も首相と大統領による"日米蜜月"について、「国民の支持あっての同盟だ。トランプ政権が多くの国民の支持が得られるかどうかについて、つねにウォッチしていく必要がある。必ずしも国民の全幅の信任を得ていない政権であるぞということはよく認識しながらやっていかないとならない」と警鐘を鳴らした。

大統領は7日午前、次の訪問国の韓国に向かった。同国では「反トランプ」の抗議デモも広がるが、日本では多くの国民が大統領訪日を素直に喜んだようにみえる。首相は、国際舞台でトランプ氏やプーチン・ロシア大統領らと親交を重ねて「猛獣使い」の異名もとるが、「深入りしすぎると、猛獣に食い殺される」(元外務省高官)との不安も付きまとう。首相周辺は「これで内閣支持率も上がり、株価もバブル崩壊後の高値を更新し続けるはず」と手放しの喜びようだが、今後の国会論戦も含め、今回の「ドナルド&シンゾー」蜜月外交の成果がなお問われ続けることは間違いなさそうだ。