FXから仮想通貨取引に顧客が流れ、ネット証券もこれを追いかける(写真:ロイター/アフロ)

「FX(外国為替証拠金取引)のレバレッジ上限引き下げは間違いなく早いタイミングで行われるだろう。多くの顧客がビットコインに流れ、2018年は仮想通貨ビジネスがネット証券の主戦場になる」。2017年度中間決算説明会の席上、カブドットコム証券の齋藤正勝社長は大胆な予測をブチ上げた。

11月1日、金融庁は資金決済法に基づき登録した仮想通貨交換業者11社を公表したが、この中でビットフライヤーなど従来から事業を展開する独立系業者に加えて目立ったのがネット証券グループだ。最大手のSBIホールディングス(交換業者はSBIバーチャル・カレンシーズ)とGMOフィナンシャルホールディングス(同GMOコイン)が交換所市場への新規参入に名乗りをあげた。

このほか、マネックスグループも交換業者登録の準備を進めているほか、楽天証券も「現在、参入を検討している段階」(楠雄治社長)。冒頭のカブドットコム証券は、所属する三菱UFJフィナンシャル・グループの戦略として仮想通貨事業と関連していく可能性があり、松井証券も社内的な検討を進めているという。

金融庁はFX業者にリスク管理の強化を求めている

仮想通貨ビジネスは、中核技術ブロックチェーンの汎用性の高さから、通貨にとどまらず、財産権の登記など幅広いネット系サービスに進化する可能性がある。ただ、ネット証券グループがこぞって参入するのは、そうした中長期的な成長性に加えて、背に腹は代えられぬ理由もあるからだ。それがほかでもない、金融庁によるFXにおけるレバレッジ上限引き下げの動きだ。これが実施されると、FX事業の顧客が大量に仮想通貨に流れる可能性がある。

金融庁は10月下旬、金融行政の進捗状況などを評価する「金融レポート」を公表、その中でFX業者のリスク管理の不十分さを指摘した。昨年、金融先物取引業協会が実施したストレステストでは、特にFX業者における差し入れ証拠金の未収金リスクとカバー取引先の破綻リスクが指摘されていた。

FX取引では、顧客はあらかじめFX業者に証拠金を差し入れ、その数倍〜25倍の為替のポジションを持つことになる。これがレバレッジ(「てこ」の意味)取引だ。しかし為替相場の急変により、FX業者がロスカット(強制清算の制度)を適用しても顧客の損失が証拠金を超えてしまうことがある。この未収金が自己資本に対して大きな水準になるとFX業者の破綻につながりかねない。

また、FX業者は顧客との相対取引で生じる為替含み損をリスクヘッジするため、銀行や同業のFX業者などを相手に顧客取引との反対売買(カバー取引)を行っている。この際、万一、カバー取引先が破綻すると、反対売買で得られるはずのリスクヘッジ利益は失われ、FX業者の損失が増大し、破綻が連鎖することもありうる。

金融庁はこうした金融システムリスクへの対応策の検討を開始した。「現在、業者から意見を聞いているところだが、FX取引のレバレッジ上限を現状の25倍から10倍程度に引き下げること、さらにFX業者の自己資本増強なども検討している」と金融庁関係者は言う。ネット証券側は「実施は2018年秋にはありうる」(GMOフィナンシャルホールディングス)と身構える。

仮にレバレッジ上限が10倍に引き下げられるとどうなるか。FX取引高減少幅の予測は難しいが、松井証券のある幹部は「3割程度の顧客に影響が出るだろう」と話す。レバレッジ上限の引き下げで、FX投資家にとってハイリスク・ハイリターンの魅力が薄れる。そのため、同じく差し入れ証拠金で数十倍のレバレッジ取引ができ、価格変動の大きさや最近の相場高騰でも注目されるビットコインなど仮想通貨にFX投資家がシフトするというわけだ。

見逃せないのは、ネット証券にとってFX事業への収益依存度が高いことだ。前2016年度決算を見ると、FX取引量世界一のGMOクリック証券(GMOフィナンシャルホールディングス)は純営業収益に占めるFX事業の比率が実に約75%、楽天証券が約19%、SBI証券(SBIホールディングス)が約18%という状況だ(松井証券調べ、松井、マネックス、カブドットコム証券は1桁%)。

FXの延長線上にあるビットコインも規制される

日本のFX取引高は世界で最大規模。サラリーマンや主婦など一般の個人が幅広くFX取引を行うのは日本特有の現象と言われる。2006年のライブドアショック後、株式市場の沈滞を受け、ハイリスク・ハイリターンを求める投資家によってFX市場は急成長した。投機性の高さが問題となり、2010年にはレバレッジを最大25倍にする規制が導入され、中小のFX業者淘汰が進んだ時期もある。

世界でも特異のFX市場を創り上げたネット証券各社。彼らがそのFXの延長線上に仮想通貨交換市場を立ち上げるなら、FX投資家の大量移動とともに大衆的な仮想通貨の投機市場が誕生するかもしれない。仮想通貨で盛り上がった中国が急速に規制を強化する中、日本がガラパゴス的な発展の本丸となる可能性がある。

現在、ビットコインなどの取引のレバレッジは最大25倍(GMOコインの場合)。将来的に取引高が膨大となれば、金融システムリスクへの対応からレバレッジ規制が導入される可能性は高い。新たな投機市場の誕生をめぐり、金融庁と投資家のいたちごっこは続きそうだ。