【編集部コラム】“勝利”を知る石井正忠監督を招へいした大宮、指揮官の熱き想いに応えられるか

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▽失意のJ2降格、J2優勝、クラブ史上最高のJ1・5位フィニッシュ── 2004年のJ1初挑戦からほぼ毎シーズンのように残留争いを繰り広げてきた大宮アルディージャ。ここ数年は浮き沈みが激しいシーズンを過ごし、今シーズンは再びJ2降格の窮地に迫っている。

▽そんな中、大宮はクラブをよく知り、約3年間指揮を執ってきた渋谷洋樹監督を5月に解任。後任にはコーチを務めていた伊藤彰監督を据えたが、11月5日、シーズン3試合を残して突然の解任を決断した。そして、後任に招へいしたのは、今年5月まで鹿島アントラーズを率いていた、石井正忠監督だった。

▽突然の発表に、大宮サポーターだけでなく、鹿島サポーター、その他のJクラブサポーターも驚いた方は少なくないはずだ。事実、石井監督就任のリリースを目にした時は、私も驚きの声を挙げてしまった。

◆窮地に立たされる“古巣”を救うために立ち上がる
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「このチームへの思い入れもあり、今回はこの状況をどうにか脱したい。リーグ戦残り3試合、勝利で終わりたい。そういった気持ちで、監督のオファーを受けました」

▽監督就任発表から2日後、7日に石井監督は就任会見に臨んだ。午後からの初練習を終え、大宮アルディージャ仕様のネクタイ、クラブのピンバッチをつけ、報道陣の前に登場した石井監督は、冒頭に力強く語った。

▽順天堂大学から1989年にNTT関東へ入団した石井監督は、1990年まで2年間所属。1991年に鹿島アントラーズの前身である住友金属工業へと移籍し、Jリーグ開幕からは鹿島でプレー。1998年にアビスパ福岡で現役を引退した。

▽アマチュアでありながら新卒として2年間プレーした大宮アルディージャへの想いは、石井監督の心の中に眠っていたようだ。

◆期待される勝者のメンタリティの伝播
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▽石井監督は、現役時代に6年間、指導者として約19年間、“常勝軍団”鹿島アントラーズで“勝利”を目指すメンタリティを培ってきた。

▽2015シーズンにはトニーニョ・セレーゾ監督の解任に伴い、監督に就任すると、同年のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)を制覇。2016シーズンは明治安田生命J1リーグの1stステージを優勝。年間勝ち点で3位になったものの、チャンピオンシップを制しリーグ優勝。さらに、天皇杯も制し、2シーズンで国内3タイトルを獲得した。

▽J1残留争いをし続けてきた大宮に足りないものは、ずばり“勝利”。そして、石井監督がサッカー人生で追い求め続けてきたものは、その“勝利”だ。残り3試合でJ1逆転残留を目指す大宮にとって、最も必要なものをもたらせてくれるかもしれない。

▽「勝負に対する執着心を伝えていきたいと思います」。石井監督は鹿島アントラーズで培ってきたものの中で一番伝えたいことを聞かれて答えた。残り3試合で残留を掴むために必要なもの。それはまさに「勝負に対する執着心」だろう。

◆石井監督が訴えた大きなもの
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▽就任会見で受け答えている石井監督は1つのことを何度も主張していた。それは「クラブ」のあり方だ。

「クラブが一体となって1つの方向に向いていることが一番大きな部分だと思います」

「クラブ全体が現場をサポートして行くべきだと感じています」

▽鹿島で石井監督が培ったものは、この「クラブ」という考え方だろう。鹿島のタイトル数は、当然ながら選手、監督、コーチングスタッフの努力があったからに違いない。しかし、ファン・サポーター、フロント、その他、地元住民も含めてクラブに関わる多くの人が、同じものを求めたからこそとも言える。そして、それが大宮アルディージャには欠如しているとも感じたのかもしれない。

「今までの大宮アルディージャは、それぞれの選手が非常に頑張っていると思いますが、チームの一体感という部分が少し欠けているなと感じました」

▽選手の能力の高さ、大宮の長所についても敵将として把握していた石井監督。そして、足りていない部分も当然ながら見えていた。だからこそ、自身がそこに変化をもたらせ、クラブの大きな目標である「J1残留」を掴むべく、厳しいミッションに挑むことを決断したのだろう。

◆熱き想いに大宮アルディージャは応えられるか
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▽残り3試合となったJ1だが、次節にも降格が決定してしまう可能性がある。そんな難解なミッションに挑むことになる石井監督は、会見中に思わず言葉に詰まり、目に光るものを浮かべながら決意を口にした。

「本当に厳しい状況で、大変な仕事だと思いますが、それを今までやってきた選手、コーチ、指導者、監督、そういった私の経験をこの短期間でもクラブに何か残すことができればという思いもあって、この状況でも引き受けることを決断しました。最大限の努力をしたいと思います」

「本当に言葉で言うのは簡単ですが、この状況を短い期間で、クラブ全体で勝ち取りたいと思います」

「そういった気持ちでやらないと、この3試合は絶対に勝ちきれないと思うので、その気持ちを全面に出して3週間、4週間を過ごしていきたいと思います」

▽その姿から、改めて大宮を残留させるための強い決意を持ち、窮地の古巣を救うべくオファーを受けたのだと感じさせた。そして、その熱い想いを持つ指揮官に対し、残り3試合となったシーズンで選手、クラブは応えなくてはいけない。そして、ファン・サポーターもそれは同じだ。

▽勝者のメンタリティを持つ指揮官に率いられ、残り3試合での逆転残留。それは、石井監督と親交が深い渋谷元監督、そして志半ばで解任の憂き目にあった伊藤前監督のためにも、果たさなくてはいけない使命とも言えるだろう。クラブに関わる全ての人が1つになり、勝利を求めることが必要だ。

▽来週末から再開するJ1リーグ。残留争い百戦錬磨の大宮が、降格圏からの大逆転を果たすストーリー。石井監督の就任によって、その筋は描かれたように思う。

《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》