Woebotのフェイスブックで公開されている動画より

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人工知能(AI)を使った自動会話プログラム「チャットボット」は、最近では企業や団体がSNS(交流サイト)上で各種サービスに活用する事例が増えている。

米国では、チャットボットによるカウンセリングが登場した。単に愚痴を聞いてくれる会話ロボットではない。「認知行動療法」に基づいた質疑を通して、相談者の気分を毎日確認、記録する。

毎日質問される3種類の質問

認知行動療法は、カウンセリングを主体とした治療法だ。認知行動療法センターのウェブサイトによると、ものの受け取り方や考え方(認知)にはたらきかけて気持ちを楽にする心理療法の一種。「自動思考と呼ばれる、気持ちが大きく動揺したりつらくなったりした時に患者の頭に浮かんでいた考えに目を向けて、それがどの程度、現実と食い違っているかを検証し、思考のバランスをとって」いく。欧米では、うつ病や不安障害、摂食障害など多くの精神疾患に効果があることが実証されていると説明されている。

米スタンフォード大の心理学者が中心となって開発した「AIセラピスト」は、「Woebot」と名付けられ、フェイスブック上に公開されている。メッセンジャー機能を使って、利用者と会話する仕組みだ。やり取りは英語だが、記者が早速試してみた。

スタートボタンをクリックすると、早速「こんにちは」とあいさつがあり「自己紹介」、つまり機能の説明が始まった。決して子どもだましではないプログラムだと強調し、認知行動療法を簡単に説明した。毎日質問されるのは「何をしていますか」「気分はどう」「元気のレベルはどのくらい」という3種類。また会話時の相談者の精神状態や気分に沿って、ネット上の有益な情報を提供してくれる。

記者は最初に「元気レベル」を問われた。1〜5の選択ボタンが表示され、「1」が最も低い。次は「何をしているか」で、「仕事中」と英語で回答。最後に「今の気分は」と聞かれたため「少々疲れた」と答えた。すると「ちょっと休んだら」と提案され、続いて「言葉づかいをほんの少し変えれば気分も変わる」という内容の動画が送られてきた。最後に「明日はゲームをしましょう」と予告があり、この日のカウンセリングは終了となった。

医師や専門カウンセラーの代わりにはならないが...

対話自体は実にスムーズだ。英語という壁はあるが、質問の3項目は簡単で、回答を詳細に書き込まなくてもよい。半面、「これだけのやり取りで、本当にカウンセリングとして成立するのか」と疑問も残った。

もっとも、記者が試したのは1度だけ。対話を積み重ねないと、効果を実感出来ないはずだ。Woebotとの会話を繰り返すなかで、相談者自身が自己を見つめ直し、行動や考え方を変えるきっかけを見つけるかもしれない。継続することで、Woebotが相談者の気分の変化をグラフ化して表示したり、質問を通して一定の精神パターンを見つけ出したりもしてくれる。

ただし、現状ではWoebotが医師や専門カウンセラーとして広く認められているわけではない。その点は実際の会話の中で、「私(Woebot)は未熟で間違うこともあります。どうか人間による支援の代わりとして使わないでください」と強調していた。さらに、会話中に体の具合が悪化した場合は「SOS」と入力すれば必要な情報を送信してくる。緊急時用として救急の電話番号も案内していた。

フェイスブックのメッセンジャー上でのやり取りというのも、プライバシーの面で気になる点だ。Woebotのやり取りが友人に見られることは基本的にはないが、誤って自ら公開するリスクはゼロではない。またWoebotのフェイスブックページに「いいね」を付けていれば、友人からはその事実が分かる。そのため開発側は、メールアドレスを通知すれば独自のメッセージングのシステムが完成した場合に案内するとアナウンスしている。

まだまだ改良点が多いとはいえ、時間の制約を受けず、高額なカウンセリング費用を支払う必要もないAIセラピーが将来実現すれば、利用者にとっては大きなメリットになるかもしれない。