クラフトビールクロアのイメージビジュアル。ネットではハードボイルドとの声も

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 ビール市場全体の消費低迷が続くなかで、元気なのがクラフトビール市場だ。小規模醸造ならではの個性を持つ味わいや香りが、多様化する消費者ニーズとマッチ、今やスーパー、コンビニエンスストアでも手に取ることができる。その人気は単なる一過性のブームで終わる気配はない。

 日本で小規模醸造が誕生したのは、’94年の酒税法改正までさかのぼる。ビールの最低製造数量が2000キロリットルから60キロリットルへと大幅に緩和されたことで、4大メーカー以外でもビールの醸造が可能となり、全国に小規模醸造所が誕生した。群馬県太田市が地元企業とともに第三セクター法人「夢麦酒太田」を設立したのも、同年のことである。

 その夢麦酒太田が販売する、クラフトビール「CHROA(クロア)」が個性的だとネットで話題となっている。たとえば、「CHROA BLACK PARADE(クロアブラックパレード)」のラベルに書かれているコピーは以下の通りだ。

「胃に送り出す深い赤褐色の液体は何故か脳に行きいつかの黒い失恋を回想させる。
 愛とは勉強するものではなく触れるもの。
 例えそれがお前の黒歴史でも。
 触れる勇気すらないのなら、自分を恋愛背任罪で告訴しろ。」

 この強烈な世界観を作った人物とは何者なのか。製造元である夢麦酒太田に問い合わせた。

◆仕掛人は世界的なホイールデザイナー

 CHROAのプロデューサーとして取材に応じてくれたのが、デザイナーの片岡達也(TATSUYA KATAOKA)氏だ。

 片岡氏はアメリカの有名カーホイールメーカー、MHT Wheels社で「KAOTIK(ケオティック)」シリーズを手がけたことで広く知られるデザイナー。従来のカーホイールの常識を覆すオーガニック(有機的)なデザインは、斬新さと美しさからカー市場で一大ブームを巻き起こした。

「KAOTIK」シリーズは、「ホイール界のロレックス」とも呼ばれ、ハリウッドスターやミュージシャン、NBAやNFL の選手にも愛用者が多いという。

◆ミュージシャンの夢破れホームレスに。アメリカで再起

 アメリカで成功を納めた片岡氏だが、その才能が世に出るまでには紆余曲折があったという。

 高校卒業とともに、ロックミュージシャンを目指して上京。プロとして音楽活動をしていたが、突然の契約終了がレコード会社から告げらた。収入は途絶え徐々に生活は苦しくなる。飢えをしのぐため、歯磨き粉を食べ続けた経験もある。最終的にホームレスに転落し、約2年間、西新宿で路上生活をしていた。

 その後、兄のツテを頼りに何とかアメリカに渡米したものの、具体的なビジョンはなく、タイヤホイールのブローカーをしていた兄について歩く日々だった。

 転機が訪れたのは、ホイールメーカーの工場で何気なくサインペンでダンボールに落書きをした時のことだった。片岡氏はこう振り返る。

「俺の落書きからデザイン性を見い出したメーカーの社長が『これを書いたやつを探せ』と言ったようで、2日後に俺が呼ばれました。その場で『お前、デザイナーをしろ』とオファーをもらったのがホイールデザイナーになったキッカケです」

 その年、ラスベガスで開催された世界最大のカスタム&チューニングカーの祭典「アメリカSEMAショー」でデビューした片岡氏。100万人が参加した人気ホイール投票で1位を獲得し、鮮烈なデビューを飾った。

「一気にスターダムにのし上がった感じですね。『ド素人のマグレだ』という周りの声もありましたが、それを黙らせるために翌年、その翌年も投票で1位を獲りました」

 片岡氏の斬新なデザインは、その後世界各国でオーガニックデザインのホイールブームを起こし、多大な影響を与えた。’02年からはフリーランスへ転向し、世界15社のホイールメーカーのデザインを担当。ホームレスだった青年がサインペン1本で掴んだアメリカンドリームだった。