米ニューヨーク市で開催されたニューヨークシティマラソンの参加者ら(2017年11月5日撮影、資料写真)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】五輪のモットーは、「より速く、より高く、より強く」だが、われわれが人体の限界に到達したとしたらどうなるだろう?

 もし運動競技の次なる進化が人工的あるいはドーピングによるものでないのであれば、短距離からマラソンに至るまでの陸上競技に関しては、記録が更新される時代は終わりに近づきつつあるかもしれない。一部の科学者らがそのような見解を示している。

 事実、今年開催された第16回世界陸上ロンドン大会(16th IAAF World Championships in Athletics London)では、女子50キロ競歩でのみ世界記録が更新された。同競技は今大会で初めて実施された。

 また、2016年のリオデジャネイロ五輪でも、陸上競技での世界記録の更新は、男子400メートルと女子1万メートルのわずか2種目にとどまった。

 仏スポーツ生物医学・疫学研究機関(IRMES)の専門家は、20世紀には記録更新で大きな向上がみられたが、近年では「多くの競技でその変化がほぼ皆無となりつつある」と指摘する。

 IRMESは2007年、現在のような形となった1896年以降の五輪大会の記録を分析。その結果、アスリートたちは、人間が持つ生理学上の限界99%に到達していることが分かったとしている。

 最近でも、信じられないような好記録は出ている。ケニアのエリウド・キプチョゲ(Eliud Kipchoge)選手は今年5月、マラソンで初めて2時間に迫るタイムをたたき出し、その名を不朽のものとする一歩手前まで近づいた。あと25秒早かったらキプチョゲ選手は伝説となっていたかもしれない。

 しかしこの記録は、米スポーツ用品大手ナイキ(Nike)がスポンサーとなって行われた好条件下でのイベントで達成されたもので、公式には世界記録と認定されていない。現在の世界記録は、同じくケニアのデニス・キメット(Dennis Kimetto)選手が持つ2時間2分57秒だ。

 42.195キロを走る伝統的なマラソンをめぐっては、コーチや科学者らが長年、べストなパフォーマンスに最適な条件を模索してきた。

 これについて、スポーツ界での公平性の促進を目指す機関「Athletes for Transparency」の専門家は、理想的な気温約12度以外にも、ランナーが小柄であることといった「体格から生理学および生体力学的な基準に至るまで、競技には数十の要素がある」と話す。

■「ヒューマンマシーンは複雑」

 最適な条件をすべて兼ね備えたアスリートは、まだ見つかっていない。エチオピアの伝説的長距離ランナー、ハイレ・ゲブレセラシェ(Haile Gebrselassie)氏は2008年、35歳で自身の持つ記録を更新した。しかし彼の「VO2 Max」は時間の経過と共に落ちていった。VO2 Maxとは、運動中に取り込まれる酸素最大量のことで、持久力の指標となる。

 こうした非常に人間的な制約がある中において、予想モデルを超えて進化をもたらすものとは何か? それはドーピングなのだろうか?

 フランス反ドーピング機関(Agence Francaise de Lutte contre le Dopage、AFLD)の専門家は、まだドーピングに関してはパニックに陥るところまでは来ていないとしながらも、「トレーニング効果を高める」ために使用されるエクササイズ・ピルや、酸素吸収率を高めてアスリートが疲労を感じることなく、よりハードにより速く走ることのできるEPO(エリスロポエチン)ドーピングなど、懸念すべき点は複数あると語る。

 幹細胞治療については、一見する未来のことのように思えるかもしれないが、すでに一部のスポーツでは傷の治療に用いられている。将来的に、最も大きな問題となりそうなのが、この遺伝子ドーピングなのだ。

 しかし「筋肉繊維の『IDカード』は数千個の遺伝子が基になっているため、すべてを変えることはできない。ヒューマンマシーンは複雑なのだ」とAFLDの専門家は指摘する。

 動物並みの速さで走れるように人体を改造するには──もしそれが可能であればの話だが──長い年月と無数の科学的限界の超越が必要となる。そして絶対に変わることの無い条件は、「人の命が維持されること」だと語っている。
【翻訳編集】AFPBB News