大岩監督が就任以降、出場停止を除いてすべての試合で先発フル出場を果たしている三竿健斗【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

大岩剛監督就任後、ボランチのファーストチョイスに

 鹿島アントラーズがJ1連覇に王手をかけた。浦和レッズがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝に進出した関係で、1試合だけ分離開催された5日の明治安田生命J1リーグ第32節で、5人の日本代表擁するACLのファイナリストから完封勝利をゲット。シーズン途中から指揮を執る大岩剛監督のもとでボランチのファーストチョイスとなり、常勝軍団を鮮やかにV字回復させるキーマン的な存在となっている21歳の新星、三竿健斗にスポットライトをあてた。(取材・文:藤江直人)

----------

 目指してきたゴールが、はっきりと輪郭をなして見えてきた。ヨーロッパ遠征に臨んでいる日本代表に最多となる5人を輩出し、全員が先発フル出場した浦和レッズをシュート3本に封じ込めた。

 守備陣が体現し続けた粘り強さに応えるように、後半35分にMFレアンドロが虎の子の決勝弾をゲット。通算14度目となる完封勝利でJ1連覇へ王手をかけた鹿島アントラーズの心臓部で、先発メンバーでは最年少となる21歳のボランチ、三竿健斗は安堵の表情を浮かべていた。

「自分自身のプレーはあまりよくなかったけど、最終的にはチームが勝てたので。お客さんがたくさん入っていたなかで、すごく緊張感のある試合でした。サポーターの方々の応援もすごく感じるものがあったし、本当に心強かった。みんなが笑顔で帰れるように、と思っていたので」

 言葉は控えめながら、いまや勝利を手にするために欠かせない存在となった。コーチから昇格した大岩剛監督が指揮を執った6月以降の20試合で、三竿は累積警告で出場停止だった9月23日のガンバ大阪戦を除いて、19試合で先発フル出場を果たしている。

 そのうち3試合は植田直通が故障離脱した穴を埋めるため、急きょセンターバックに回っている。それでも主戦場のボランチとして出場した16試合、1440分間はレオ・シルバ、永木亮太、そしてキャプテンの小笠原満男を大きく上回っている。

 石井正忠前監督が指揮を執った5月末までは、5試合、わずか104分間にとどまっていた。アントラーズ自体も7勝5敗といまひとつ波に乗れなかったが、大岩体制下では一転して16勝1分け3敗と鮮やかなV字回復を遂げている。

 実力者が集う最激戦区のボランチで、指揮官のファーストチョイスとなった三竿こそが常勝軍団を蘇らせたキーマンなのでは――こんな問いかけに、今度は恐縮した表情を浮かべる。

「紅白戦でも毎回のように競争があるし、ポジションが確立されたとは思っていません。周りからの評価というのは僕が決めることじゃないし、特に気にしたこともありません。チームが勝てればいいし、僕自身は大事な場面でのパスミスが何本もあったし、まだまだ課題だらけなので。

 ただ、試合に出場し続けることで自信というものがついてきているし、監督からすごく信頼されている、というのも感じている。試合に出ることによって新たな課題が出るし、そうなると練習への取り組み方も変わってくる。すごくいい循環ができているのかな、と思っています」

ヴェルディ時代、中後を通じて触れていた“鹿島イズム”

 小学生年代のジュニアから所属した東京ヴェルディの下部組織時代から、テクニックをあわせもつ大型ボランチとして注目されてきた。高校を卒業した2015シーズンには、ユースからトップチームに昇格。ルーキーながらJ2でいきなり39試合に出場した軌跡が、アントラーズの目に留まった。

 完全移籍で常勝軍団に加入した昨シーズン。J1の舞台では4試合、わずか30分間の出場に終わったものの、ファーストステージ制覇やJリーグチャンピオンシップ優勝、FIFAクラブワールドカップでの快進撃、そして天皇杯との二冠獲得を間近で見届けた。

「タイトルを取り続けているベテランの選手たちやスタッフが大勢いるので、その意味ではすごく安心感があります。選手の一人ひとりもすごく高い向上心をもっていて、試合で出た課題を次の練習でこう改善していこうとか、みんながそう思っているので」

 アントラーズのボランチに定着してから、ヴェルディでのルーキー時代をダブらせることがあるという。2015シーズンにボランチのコンビを組んだ中後雅喜は、駒沢大学から2005シーズンに加入したアントラーズで、ジェフユナイテッド千葉へ移籍するまでの4年間で69試合に出場している。

 2012シーズンからはヴェルディに活躍の場を求めた、今年5月には35歳になったベテランのプレースタイルには、アントラーズのいわゆる“イズム”が凝縮されていたと三竿は振り返る。

「サイドチェンジのパスを多く出していたし、球際でもすごく戦っていたところも、僕にとってすごくいい経験になりました。チュウさん(中後)も(小笠原)満男さんのことをすごく尊敬していたし、その意味でもこっちに来たときに『そういえば鹿島らしかったな』と思えたので」

 中後を介するかたちで、無意識のうちにアントラーズのサッカーに触れていたことで、出場機会が増えた今シーズンの戦いにおいてスムーズに順応することができたのか。原点となったヴェルディ時代にもらった、中後からのアドバイスをいまでもよく思い出すという。

「いろいろと考えるよりも、自分にできることを精いっぱいやれといつも言われていたので。僕の場合は、まず守備で頑張れと言われているんだと思っていました」

年齢には不釣り合いなほど落ち着き払った立ち居振る舞い

 181センチの長身はレオ・シルバと並び、173センチの小笠原と永木を大きく上回っている。最終ラインの前で発揮される対人の強さ、空中戦でボールをはね返す力が、大岩監督のなかで描かれていたボランチの序列を変更させたのだろう。

 年齢には不釣り合いなほどに、落ち着き払った立ち居振る舞いをピッチ内だけでなく外でも見せる三竿は、出場時間が増えるなかで自分自身の変化を感じ取っている。

「以前よりも駆け引きをして、ボールを奪う回数が増えてきていると思う。意図をもった守備ができているからこそ、綺麗に奪うことが多くなっているのかなと。周囲との関係がよくなってきたことももちろんありますけど、個人戦術の部分でも守備力が上がってきているんじゃないかと」

 カシマサッカースタジアムにレッズを迎えた5日の一戦では、ハリルジャパンに初選出されたインサイドハーフの長澤和輝がボールをもち運んでくればすぐに間合いを詰めた。自らの存在を常に長澤に意識させることでホープに決定的な仕事をさせず、レオ・シルバとのコンビネーションで柏木陽介も封じ込めた。

 結果として昌子源や植田が最も警戒していた、20ゴールで得点ランキングのトップを走る日本代表FW興梠慎三を孤立させ、レッズの攻撃を手詰まりにさせた。守備面で深まりつつある手応えは、自ら課題としてあげてきた攻撃面にも相乗効果を及ぼしている。

 敵地で北海道コンサドーレ札幌を下した10月29日の明治安田生命J1リーグ第31節では、後半開始早々に先制点となる待望のJ1初ゴールをゲット。ペナルティーエリア内に積極的に顔を出し、こぼれ球に対して迷うことなく右足を振り抜いた。

「柴崎の穴」は感じさせず。目だたずとも力強い下支え

 ヴェルディ時代は周囲の先輩選手からかけられる声やアドバイスに耳を傾けすぎるあまりに、思い描いていたプレーができない場面も少なくなかった。一転していまでは「自分のやりたいことができている」と、ちょっぴり笑顔を浮かべた。

「以前よりもシュートを打つ回数も増えているし、それは自分のやりたいプレーでもあるので。守備でも自分がやりたいように周りの選手たちを動かすとか、何を言われても特に気にすることなく、ぶれることなくプレーできているので、徐々にですけど、成長できているのかなと思います」

 レッズがACL決勝に進出した関係で、本来ならば18日に行われる明治安田生命J1リーグ第32節が分離開催された5日の大一番でしっかりと勝利を手にした。アントラーズの試合のない18日に2位の川崎フロンターレが敗れれば、その瞬間に通算9度目のJ1制覇が決まる。

 たとえ他力での優勝が決まらなくても、柏レイソルをカシマサッカースタジアムに迎える26日の同33節で勝てば歓喜の瞬間を手繰り寄せることができる。まさにフィニッシュは目前に迫ってきた。

 しかも、大きな付加価値もついてくる。すでに年間23勝をあげたアントラーズは2007シーズンのクラブ記録22勝を更新し、18チーム制となった2005シーズン以降のJ1記録にも並んでいる。

 白星をあとひとつ積み上げればJ1新記録となり、ふたつならば勝ち点を「76」に伸ばし、過去最多だった2015シーズンのサンフレッチェ広島、昨シーズンのレッズの「74」をも更新する。強さを物語る、記録尽くめのシーズンの真っただ中にいる三竿は“いま”を楽しめているのか。

「うーん、半々ですね。緊張感はものすごくありますけど、それでも精神的にはそんなに慌てることなくプレーできている。どうしよう、と思う場面もないし、リラックスできているのかなと」

 ラ・リーガへ新天地を求めた、MF柴崎岳が抜けた穴が心配された今シーズン。それでも通算20個目の国内タイトル獲得へカウントダウンに入ったアントラーズを、柴崎がルーキー時代から背負った「20番」を受け継いだ三竿が決して目立たないながらも、それでも力強く支えている。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人