「Thinkstock」より

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 仕事をしていると、大なり小なりスランプに見舞われるものです。スランプは誰にでも起こることですが、スランプをバネに力をつけて成果を出す人と、めげてしまって気力をなくしてしまう人がいます。この2種類の人の違いはどこにあるのでしょうか。

 そこでこの連載では、スランプをバネに力をつけて成果を出すための方法を、さまざまな視点から検討していこうと思います。

 さて、皆さんにひとつ考えていただきましょう。あなたが船で海に出て魚をとる漁師だったとします。あなたはどのような時間の使い方をしますか?

 一般的な会社員や公務員のように、毎日同じ時間に出かけて、決まった時間、たとえば8時間漁に出るという仕事の仕方をする人もいるかもしれません。会社員ではないのですから、毎日働く時間を変えるという人も多いでしょう。きちんと計画を立てることが好きな人でしたら、一日に獲る魚の量の目標を決めて、漁に出るかもしれません。

 そのような人は、なかなか思うように魚が獲れない日には、目標に到達するまで長い時間働いて、反対に大漁の日にはすぐに目標が達成できますから、さっさと引き上げてくるような働き方をするでしょう。

 また、魚が獲れそうにない天気だったら仕事を休み、天気が良く、魚の大群が来ている日に漁に出かけるという人もいるでしょう。

 さて、漁師の仕事は体力的に厳しいため、1週間の労働時間の上限は40時間だと仮定します。このとき、先に挙げた3つの種類の働き方、つまり毎日8時間と決めて働くタイプ、目標とする量を決めるタイプ、大漁の時に集中するタイプのうち、どのタイプの漁師が一番たくさん魚を獲ることができると思いますか。

 答えは、大漁の時に集中して働くタイプです。次は毎日8時間働く漁師、一番少ないのは目標とする一日の量を決めている漁師です。

 その理由は、1週間に働く時間が決まっていますから、一番魚が獲れる時間に集中して働いたほうが、魚が獲れない時間に長く働いたり、魚が獲れる時間に短く働くよりも、多くの魚が獲れるからです。

●常識的な働き方の罠

 世の中の職場を見てみると、社員は毎日出社し、一定の時間仕事をすることがルールとして決められていることがほとんどです。そして、このルールが社会の常識であると信じている人が多いと思います。

 しかし、この常識的な働き方は、現代の環境では必ずしも一番成果の挙がる方法ではありません。この働き方は工業が経済の中心だった時代に一般化したものです。需要がどんどん増えて、つくればつくっただけ売れていた時代には、工場はできるだけ長い時間動かしたほうが会社としては儲かります。

 その一方で、会社が利益を求めすぎると従業員が疲弊してしまいます。そこで、従業員の所定労働時間を決めて、それ以上働いた場合は残業代として割増賃金を払う、というような仕組みができました。これによって、増え続ける需要になんとかこたえていくことができました。

 しかし、生活に必要なものがほとんどの人に行き渡り、需要がなかなか伸びない現在では、残業はどちらかといえば需要をつくり出すためや、少ない利幅を補うために無理に行われていると、私は見ています。つまり、売れすぎて大変だからたくさん働くのではなく、売れなくて困っているから、利益が少ないからたくさん働いている、ということです。売れすぎて大変な時は、給料も上がるし、組織が大きくなって昇進のチャンスも増えます。ですから、長時間労働も現在ほど問題にはなりませんでした。

 しかし今は生き残るために必死で長時間働いても、なかなか成果が出ない。言ってみれば一億総スランプです。こんなときには、いったいどうすればよいのでしょうか。

 私の答えは、一番多く魚を獲ることができる漁師と同じような時間の使い方をすることです。この漁師は、漁に出ない日は遊んでいるわけではありません。網を直したり、船の掃除や整備をしたり、よりたくさん船に魚を入れる方法を考えたりなど、準備に時間を使っているはずです。あるいは新しい漁の方法を考えたり、最新の機械の勉強をしたりしていることでしょう。

 会社のなかで仕事をしているふりをするために、魚がいないとわかっているのに漁に出かけるのは非効率です。そうしないと上司に叱られるからという反論もあるかもしれませんが、あなたは上司に叱られないために仕事をしているわけではないはずです。

 魚がいないときには、ぐっと歯を食いしばって準備に時間を使うことです。業務時間中にでもいろんな準備ができるはずです。整理整頓や書類の整理などの身近なことから、自分の担当以外の商品やサービスについて勉強したり、他の部署の人に話を聞きに行ったりなど、色々と考えられます。情報交換のために、お客さんや仕入先を訪問するのも準備のひとつです。

 また、仕事の拘束時間が過ぎたらすぐに会社を出て、本を読んだり映画を見たり、音楽やスポーツなどの趣味に打ち込んだり、友達と話したりすることなども、よい時間の使い方です。有休をきちんと消化して、旅行に出かけることも、新しい発想を生み出すことにつながるでしょう。

●「必要なムダ」

 準備というと、今すぐに役立ちそうなモノや情報を探す人もいますが、そんなに都合のいいものはありません。一見無駄と思えるようなことを100個くらい試してみて、やっと役に立ちそうなものにひとつ出会うことができれば御の字です。

 1回探しに行くだけですぐに見つかることを期待するのは虫が良すぎます。私もビジネス書をつくる仕事をしていると、編集者から「すぐに役立つ情報をお願いします」と言われることがあります。そのような情報やアドバイスは、あるにはあるのですが、それはせいぜいちょっとした工夫程度のものであって、仕事のやり方を抜本的に変えたり、売り上げを飛躍的に伸ばしたりするようなものではありません。

 もしあなたが長い時間働いて、やっと仕事の目標をぎりぎり達成しているとしたら、あなたに必要なのは今とは違うことをすることです。それは今とは仕事のやり方を変えることや、新しい商品やサービスを生み出すことです。要するに、新しいアイデアを生み出すことです。

 新しいアイデアを生み出すためには、先ほどお話ししたような、いま携わっている仕事とは、一見直接関係のなさそうなことに時間を使わなければなりません。「必要なムダ」と言い換えてもよいでしょう。

 いつも遊んでいるように見えて、ここぞという時に斬新なアイデアを出し、それがいつの間にか会社の収益源になっている。あなたの直属の上司のことはわかりませんが、経営者は間違いなくそうした人材を求めています。もちろん、就業時間等のルールを守ることは必要です。しかし、魚がいる時に最大の成果を出すためには、こうした時間の使い方が必要なのです。

●チャンスを掴む人

 チャンスは誰にでも平等に訪れます。しかし、チャンスを掴むことができるのは、しっかりと準備している人だけです。

 たとえば英語の勉強を例に考えてみましょう。「すぐに役立つ」と書かれている英語の勉強法の本を読んだとしても、身に付けて本当に役立てるには、時間がかかることは経験的におわかりのはずです。あなたの仕事でも日常生活でも、今は英語はまったく必要ない環境かもしれません。しかし、ある日突然海外の会社から商品について問い合わせの電話がかかってくるかもしれません。

 あるいはたまたま友達と食事に行ったレストランで軽く仕事の話をしていたら、隣のテーブルに座っていた外国人が同じ業界で働いている人で、そこからもしかすると仕事が始まるかもしれません。

 一生懸命英語を勉強したとしても、このような機会は訪れないかもしれません。しかし、いつも周到に準備してチャンスを窺っていれば、必ずチャンスは訪れると私はいつも考えています。

 なぜなら、あらゆる仕事の始まりは常に「偶然」だからです。仲の良い友達と出会ったきっかけも、今の仕事を選ぶことになったきっかけも、突き詰めて考えれば、たまたまクラスで隣に座っていた、就職情報誌をぱらぱらとめくっていたらパッと目に入った、こんな理由のはずです。

 現在の仕事に直接関係のない勉強や情報収集は、仕事の観点から言えばムダといえばムダです。しかしそれは、回り回って仕事の役に立ちますし、結局仕事の役に立たなかったとしても、あなたの人生を豊かにしてくれるはずです。

 スランプに陥った時こそ、今のやり方で一生懸命がんばることをせず、一歩引いて「必要なムダ」に時間を使いながら、チャンスが来るのをじっと待つ。そんな人が長い目で見たときにスランプを克服して成果を出しているのだと思います。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)