ISL(インディアン・スーパー・リーグ)では、毎試合多くの観客が入る。

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 もし日本にふたつのプロサッカーリーグが存在していたとしたらどうなるのだろうか。「そんなことは有り得ない」と鼻で嘲笑うファンがほとんどだろうが、古き蹴球史を持つ、同じアジアの国では、その「有り得ない」と思うことが現実として起きている。南亜の大国、インドだ。
 
 インドサッカーを総統括する全インドフットボール連盟(以下、AIFF)はイギリス統治下時代の1937年に設立、独立翌年の48年にFIFAへ加盟した。また54年に設立されたAFCの創設メンバーでもある。
 
 そんな由緒ある組織であるAIFFが、リライアンス・インダストリーズ社(天然資源事業等を手掛ける国内最大企業)、IMG社(スポーツ事業を世界で展開する米系企業)、そしてスター・インディア社(インド最大のテレビメディア)の強力タッグを組んだ3社と一緒になり、新リーグ「インディアン・スーパー・リーグ(以下、ISL)」起ち上げを発表したのが2013年10月だった。
 
 しかし既存のプロリーグ“Iリーグ”も運営統括する立場のAIFFがISLを公認したことがより事を複雑にしてしまったのだ。
 
「Iリーグがインド唯一のプロサッカーリーグであり、ISLはカップ戦」というのがAIFFの言い分、背景には、今までインドサッカーを長らく支えてきたIリーグクラブのオーナーたちの面子を守る意図が見え隠れするのだが、実質は『ISL=トップ選手が揃うリーグ(実質1部)』『Iリーグ=主にISLでプレー機会のない選手が揃うリーグ(実質2部)』という住み分けになっているのは、誰もが認める事実なのである。
 
 しかし現場取材でインドサッカー関係者から聞いた話しによれば「今までは『インドサッカーの未来を考えているのが“Iリーグ”』『金儲けのことだけ考えているのが“ISL”』と誰もが思ってきたが、ここへ来て形成逆転した感は否めない」とも言うのだ。一番の要因は、ファンが“華やか”なISLを好んで注目し始めたことを無視できないことにあるようだ。
 
 FIFAが「一国一リーグ」を提唱する中でも動じなかったAIFFが、ファンの力に押し切られた格好である。運営側とファン側との感情に逆転現象が生じている状況に、AIFFも大きな決断を迫られていることは間違いないようだ。どちらにしても、インドの国内サッカーリーグ事情は非常に複雑な状況下にあることには変わりはない。サッカー権益を得たい国内の大富豪達の『代理戦争』とも言えるのだろう。
 
 そんな中で困惑しきっているのは、振り回されている選手かもしれない。昨季までは日程が異なっていた(ISL:10月〜12月/Iリーグ:1月〜4月)ことで、移籍を繰り返せば両リーグでプレーすることが可能だったが、今季からは同時期開催になりそのサイクルが不可能になった。しかし逆に言えば、今までは国内トップクラスの選手のみが独占していた環境を、ローカル選手へ経験の場が開放されたという見方もできる。インドサッカーの強化に繋がることには間違いないだろう。
 今回初めて訪れたインドで感じたもの、それは“地”と“人”から湧き出す『熱気』に他ならない。それは取材先のフットボールの現場でも同様だった。
 
 U-17ワールドカップ準決勝、降り続いた雨の影響で急遽2日前に会場変更となった。しかし変更先のコルカタ“ソルトレイク・スタジアム”には、何事も無かったように6万4000人もの観客が集まる。自国代表が出るわけでもない試合にだ。
 
 3日後の大会決勝『イングランド対スペイン』の観衆は6万7000人。同大会の最多入場者数記録も更新してみせた(※ちなみに日本対イングランドにも約5万5000人を集めた)。
 
 決勝戦が始まり5分も経たずして、スタジアムではどこからともなくウェーブが沸き起こったのだが、この日一番の盛り上がりを見せたのは試合後の表彰式、インドサッカーのスーパースターであるスニル・チェトリがカップを掲げ登場した時だった。ファンの眼は、自国の絶対的なアイコンを前にキラキラと輝きに満ち溢れていた。その光景を目の当たりにして、彼らは心の底から熱くなれる“俺たちのフットボール”に飢えているように感じてならなかった。
 
 多くのビッグネームもプレーするISLは来週金曜日、南インドの港町コチで新シーズンが開幕する。“光と影”が蠢くインドサッカー、今後どのような展開になっていくのか目が離せない。
 
取材・文:佐々木裕介(フリーライター)