2017年11月7日、ドナルド・トランプ米大統領が1泊2日の日程で韓国を訪問する。韓国内では、訪韓を控えた週末にあたる4日、訪問に反対、歓迎するデモが市内中心部で開かれた。

 朝鮮半島情勢にとってきわめて重要なトランプ大統領のアジア歴訪だが、韓国内の反応は複雑だ。

 「お客様を歓待することは代々引き継がれてきたわが国の伝統であり、こうしたことを通して米国と韓国が堅固な同盟関係を確認できることになる」

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お客様を歓待しよう

 11月5日、青瓦台(大統領府)のスポークスマンはトランプ訪韓を控えた会見でこう呼びかけた。

 わざわざこんな発言をするのも、韓国内で、一部労組や団体が、激しい訪問反対デモなどを計画しているからだ。

 前日の4日には、一部労組や政治団体などで構成する「ノー・トランプ共同行動」が市内中心部で訪韓反対デモを開いた。

 同じ頃、保守系団体などは、「訪問歓迎」集会を開いた。トランプ訪韓の際に、無用の混乱を避けたいという政府の意向受けての異例の「歓迎呼びかけ」だった。

 「訪韓反対デモはやり過ぎだが、トランプ訪韓に対する盛り上がりはいまひとつだ。安倍晋三首相はすごい歓迎ぶりですね」

 ある有力紙記者は6日朝、朝刊各紙を見せながら、こう話した。

 この日、多くの韓国紙が、霞ヶ関カンツリー倶楽部で、「グータッチ」をするトランプ大統領と安倍首相の写真を1面で大きく掲載した。

トランプ訪日を大々的に報道

 トランプ訪日は韓国でも大きなニュースだが、韓国内ではすこし「しらけムード」が漂っている。

 そもそも、トランプ大統領のアジア歴訪の日程が決まったとき、韓国内では少なからず失望の声が上がった。

 「どうして中国と日本には2泊するのに韓国では1泊だけなのか?」

 こんな報道が韓国内で相次いだ。

 「日本に到着するのは日曜日で、週末になる。実質的には、日本も韓国も同じような日程だ」。このとき、韓国政府はこんな「説明」をせざるを得なかった。

 トランプ大統領の娘であるイバンカさんの訪韓への期待もあったが、結局、実現しなかった。何となく、軽視されたような印象を持ってしまった。

 「もともと、トランプ大統領の人気は高くない」

 ある企業人はこう話す。

 「大統領就任以来、北朝鮮に対する厳しい発言が続き、韓国では緊張感を高めていると受け止められている」という。

 北朝鮮による挑発は韓国にとっても長年、頭の痛い問題だが、ちょっと前まではこういうふうに言われていた。

 「北朝鮮危機に、最も過敏に反応するのは日本。逆に鈍感とも言えるのが韓国」

 韓国では、「北朝鮮が韓国を攻撃するはずがない」という認識が強かった。ところが、ここ数か月、韓国内の雰囲気が急速に変わっている。

サバイバルリュック

 「サバイバル・リュックを買いましたよ」

 最近、周辺の知人からこんな話を時々聞くようになった。非常時に備えたリュックのことだ。ネット販売サイトを見たら、たくさんある。

 価格は6万ウォン(1円=10ウォン)台から24万ウォン台まで。そのうちの1つは、24万ウォン(1円=10ウォン)の商品には、非常食、防毒マスク、テント、医薬品などが入っている。

 気休めと言えば気休めだが、「70代の母親が近所の老人たちと話して買うことにした、といって送ってきた」(40代会社員)、「会社の同僚が必要だ、というので一緒に買った」(30代会社員)など、それなりに売れているようだ。

 「韓国を攻撃するはずがない」とは言うが、もちろん根拠などない。

 韓国メディアによく登場する外交専門家は「韓国には米国人が20万人、中国人はその何倍もいる。日本人も3万人以上入る。そんな韓国を北朝鮮が攻撃するはずがない」と言う。これに同意していた韓国人は多かった。

 ところが、トランプ大統領の登場で、見方は微妙に変わった。「まさかとは思うが、米国が北朝鮮に武力行動に出る可能性がある」という不安感が出てきたのだ。

 「それ以外に、トランプ大統領は、就任以来、FTA(自由貿易協定)は失敗だと言って再交渉を執拗に求めていた。韓国に冷淡ではないのか」

 先の企業人はこんな感想を話す。

25年ぶりの国賓訪問

 トランプ大統領の韓国訪問は「国賓訪問」だ。米国の大統領が、「国賓」で韓国を訪問するのは、1992年のジョージ・ブッシュ大統領(父親)以来、25年ぶりのことだ。

 首脳会談、晩餐会はもちろん、国会での演説も予定されるなど、日程は盛りだくさんだ。今回のトランプ大統領の訪問は、言うまでもなく、韓国にとってはきわめて重要な外交行事だ。

 北朝鮮に対して、トランプ大統領が何を語り、何を韓国側に求めるのか。

 文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)大統領は、「反米」ではない。5月の就任以来、繰り返し、「米韓同盟の重要性」を語っている。米国も2度訪問している。

 文在寅大統領としては、首脳会談を通して是が非でも、朝鮮半島の危機緩和につながる流れを作りたい。

 文在寅大統領に対しては、「北朝鮮との対話を重視するが、今はそういう時期ではない」という批判が付きまとう。だが、休戦ラインをはさんで北朝鮮と向き合う韓国の大統領の立場から言えば、「対話」以外に出口が見出しにくいことも確かだ。

 韓国の立場は簡単ではない。トランプ大統領のアジア歴訪直前、韓国政府は中国政府と、関係改善で合意した。

 地上配備型ミサイル迎撃システム(サード)の韓国内配備を巡って中国は、韓国に厳しい対応を見せていた。事実上の経済報復措置も続いていた。

 ところが、トランプ訪問直前の時期に、電撃的に「政府間合意」に達した。

 サードを追加配備しない、日米間軍事同盟に入らない、米国のミサイル防衛体制(MD)に入らない――という3点で合意に達したが、これに対しては、韓国内の保守層からも反発が強い。

 韓国から見れば、北朝鮮に影響力を持つ中国と密接な関係を持つことは必須だ。経済依存度も高い。関係正常化を急ぐ事情があった。

 だが、米国を念頭に置いたとも見られかねない「合意」に、トランプ大統領は何か反応を見せるのか。

 また、米韓FTAの再交渉に対して、トランプ大統領からどんな要求が出てくるかも予断を許さない。

 国賓訪問の際に、両国間で露骨な対立が表面化することはないだろう。それでも、文在寅大統領としては、「緊張緩和」の糸口を何とかしても見出したい。不協和音が出ることは避けたい。

 進歩派の文在寅大統領と、強硬派のトランプ大統領。1泊2日だが、きわめて観戦ポイントの多い首脳会談になる。

筆者:玉置 直司