手軽なスマホ決済をウリにした中国のシェアリングエコノミーの台頭が、わが国でも報じられて久しい。昨年(2016年)の中国におけるシェアエコの市場規模は3兆4529億元(約59兆3500億円)に到達。今年10月の共産党大会においても、習近平はイノベーションやシェアエコの重要性を強調し、今後も国策としてイノベーション立国を進めていく意向を示した。

 だが、中国のイノベーション業界はすでにバブル化した面があり、今年夏ごろからその問題点が盛んに指摘され始めている。結果、昨今の中国で話題になっているのが、中小業者の淘汰・倒産ラッシュだ。本記事では中国的イノベーション・バブルの陰で大コケしてしまった、「しくじり企業」の数々を追ってみることにしたい。

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蒼井そらを使って宣伝したのに・・・

 中国では2010年ごろから日本のセクシー女優の蒼井そら(33)が大人気で、女性を含めた一般人もみんな彼女の名を知っているほどの知名度を獲得。蒼井は中国国内で楽曲を配信したりドラマに出たりと、すっかり大物芸能人になってしまった。

 そんな蒼井そらを広告塔に仕立てて大々的に市場アピールをおこなったのに、見事にしくじったのがホテル予約アプリ「訂房宝」だ。2013年7月にIT大手アリババの元社員・孫建栄が起業し、鳴り物入りで展開したサービスである。

「訂房宝はどんどんよくなる」とみずから揮毫した掛け軸の前で「主席ユーザー体験官」の仕事をする蒼井そら。しかし業績はどんどん悪くなってしまった(『数英網』より)


 これは18時以降に空き部屋が発生したホテルとユーザーをマッチングし、ユーザー側は格安で高級ホテルに泊まれてしまうサービスだった。けっこう嬉しい話のように思えるが、中国では日本と違って、突然の外泊を伴うような深夜残業や飲み会の頻度が低い。また、旅行に行く人は事前にホテルを予約してから行動する場合が多いため、意外に需要が伸びずユーザー数は頭打ちとなってしまった。

 2016年3月、訂房宝は起死回生を狙う話題作りのため、蒼井そらを「主席ユーザー体験官」なる一日署長的な役目に任命。また6月には新規に1000万元(約1億7000万円)の投資を得たが、結局経営を立て直せないまま、今年1月に倒産を宣言。そもそも蒼井そら自体、中国での人気はピークを過ぎており、訂房宝の判断は全体的に読み違い感が漂うものだったと言えそうだ。

 ちなみに中国のIT業界では訂房宝のみならず、アパレルのネット販売をおこなう「凡客誠品」も2012年に社のイベントに蒼井そらを招き話題になったが、こちらも業績は低迷中。中国で「国民的人気」を誇る蒼井そらといえども、その神通力だけで駄目サービスを立て直すことは難しいようだ。

ビジネスモデルが「雑」すぎた?

 今年10月23日、アウディやBMWなど高級車のカーシェアリング提供サービス「EZZY」の運営元企業が倒産した。昨年3月に北京ヒルトンで大々的なお披露目会を開き、翌4月にはベンチャーキャピタルから4000万元(約6億9000万円)もの投資を受けた期待のサービスだったが、2年を待たずに潰れてしまったことになる。

 EZZYは会員システムをとり、会員はクレジットカードのデータ登録か一定額のデポジット(預り金)さえ支払えば、あとは毎回の車両使用の際に一定の貸出料をスマホで支払う仕組み。ただ、BMW i3の利用については会費制で、VIP会員が4000元、一般会員が2000元、限定会員が700元を毎月支払い、さらに車両使用時の貸出料を支払うという、ちょっとややこしい制度だった。

倒産判明後、多額のデポジット料の返金を求めてEZZYに怒鳴り込んだユーザーのみなさん。まだ、ほとんど返金はなされていない模様で・・・(『新浪科技』より)


 そもそもカーシェアリングは日本やアメリカでも、1回あたりの売上規模が小さなビジネスとして知られる。その欠点をカバーするには、大量の車両を市場に投入して「数」の力で売り上げを積み上げるしかない。

 だが、EZZYは昨年3月のサービス開始時に全国で500台を投入後、なんと今年10月の倒産まで台数がまったく増えなかった。そのうち北京付近に投入されたのはわずか120台で、しかも故障などで(後述)まともに営業運用に耐えるのはその半分しかないありさま。アプリを使った無人のカーシェアなどという「意識の高い」商売ではなく、係員がいる普通のレンタカー店を地道に経営したほうがマシに思える惨状である。

 CEOの付強が2016年8月に発表したところでは、EZZYが駐車スポットに置いたシェア高級車はさまざまなイタズラを受け、1カ月内にタイヤ破損が48件、車両破損が2件、車載コンピュータ端末の取り壊しが5件、無理矢理に別の場所に運ばれる事件が1件あったとのこと。毎日、わずか500台の投入車両のうち1割は常に修理中だったそうで、目も当てられない。

 また、ユーザー側の責任感が強い日本や欧米の社会と違い、中国のユーザーは車両をぶつけてもほったらかしで返却することが多く、しかも無人管理なので誰が壊したのかもよく分からないことが多かったという(保険はどうなっていたんだろう?)。経営の迷走によって会費やデポジット額が途中で改変されたことも、ユーザーの間で不公平感が広がって客離れを招いてしまった。

 今年6月には、EZZYの車両に中国の道路交通法で義務付けられている車両登記証や車両保険証が載せられていないことを『北京商報』が暴露。散々な事情が積み重なり、EZZYは空中分解に至るべくして至ったわけである。ビジネスモデルから法令遵守まであらゆる面でツメが甘かったのだが、そんな企業のサービスにも4000万元の投資が集まってしまうのが、現代中国のイノベーション・バブルだと言えるかもしれない。

「シェア充電器」業界の連なる屍

 シェア自転車に次ぐ中国版のシェアリングエコノミーの成功事例とみられがちなのが「シェア充電器」だ。ホテルや喫茶店などに置かれ、スマホの充電ができる。今年5月には化粧品オンライン販売大手の「聚美優品」が、2015年創業のシェア充電器大手「街電」に3億元(約51億7000万円)を投じて株式の60%を保有したことが報じられた。

 つまり、とても成長性が期待されていたビジネスである・・・。のだが、ゆえに大量の後追い業者が参入し、短期間のうちに死屍累々の惨状を呈するようになった。

 10月27日付けの『界面新聞』によると、すでに「楽電」「小宝充電」「泡泡充電」「創電」「放電科技」「PP充電」「河馬充電」の7社が会社清算段階に入ったという。特に「河馬充電」は今年4月に数千万元(数億円以上)の投資マネーを集めたばかりで、今後のトラブルが予想されている。

 ほか、今年8月には「HI電」が、従業員に対して月給を4000元(約6万9000円)から1800元(約3万1000円)に大削減。さらにある従業員には「働き続ける気なら、自費で新疆ウイグル自治区のカザフスタン国境の街に赴任しろ。3日以内に来なければクビ」という無茶すぎる通告を出すなど、リストラ問題が紛糾中(ほかにロシア国境の黒龍江省黒河市、ベトナム国境の雲南省紅河ハニ族自治州、内モンゴルのゴビ砂漠のなかの街などに同様の移動を命じられた従業員もいる)。さらに「来電」は大手の「街電」と権利侵害問題で泥沼の法廷闘争中だ。

北京市内の喫茶店に置かれた、無慈悲なリストラを決行中の「HI電」のシェア充電器。同店舗内には「街電」と「小電」の充電器も置かれて3社でバトルしていたが、有料の充電ニーズがそこまで多いわけがない(筆者撮影)


 現在、シェア充電器業界で比較的元気なのは、130都市に35万台を展開する最大手「街電」をはじめ、70都市に展開する「小電」、また上海や北京などで小電を追い抜く勢いの「怪獣充電」などだ。今年9月時点までに同業者が22社、ベンチャーキャピタルなど投資にかかわった機関が38社、動いた融資総額は業界全体で12億元(約207億円)という桁外れにバブリーな過当競争の世界で、この先も生き残れるのは果たしてどの会社なのだろうか。

「とりあえずやってみる」精神の強みと弱み

 中国人のビジネスは、良くも悪くも後先を考えずに事業を立ち上げ、スピード感を重視する傾向が強い。結果、ちょっと儲かりそうな風潮があると投資資金が一気に流入し、後追い業者が大量に出現して市場が混乱することになる。

 スマホ決済式のシェアリングエコノミーの場合、運営会社が倒産したときにデポジットの払い戻しがウヤムヤにされることも多いため、今後は現在以上に「しくじり企業」の後始末が社会問題化すると考えられる。なんともアブない大胆さに支えられているのが、中国的イノベーション業界なのである。

 産業発展の母体ともなる、スピード感や発想の柔軟性が生み出すダイナミズムを取るか。それとも、中小業者の準備不足ゆえに社会混乱をしばしば招きかねない業界の現状を思い切って引き締めるか。今後は中国政府にとっても難しい舵取りが迫られることになりそうだ。

筆者:安田 峰俊