商工中金本店(「Wikipedia」より)

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 政府系金融機関の商工組合中央金庫(商工中金)は、国の低利融資制度の「危機対応業務」をめぐる不正融資問題で、経済産業省出身の安達健祐社長、財務省出身の稲垣光隆副社長、商工中金プロパーの菊地慶幸副社長の代表取締役3人全員が引責辞任することになった。

 経済産業省と財務省、金融庁など4省庁は10月25日、商工中金に対し、抜本的な再発防止策を柱とする2度目の業務改善命令を出した。この問題では、5月にも業務改善命令が出されている。

 商工中金が公表した自主調査結果によると、危機対応業務での不正融資は、全100店中97店中で444人が関与。不正が行われたのは危機対応融資22万件の2%にあたる4609件、融資実行額は2646億円に達した。

 商工中金が同日提出した改善計画書で、書類の改竄などを直接行った444人とその上司を含む979人を「不正の責任がある」と認定。退職者を除く813人を同日付で処分した。

 安達社長は引責辞任。元経産省事務次官の杉山秀二前社長、2008年10月から8年間、副社長を務めた財務省出身の木村幸俊氏、13年6月から3年間、副社長だった生え抜きの森英雄氏、08年10月〜13年6月に社長を務めた新日本製鐵(現新日鐵住金)出身の関哲夫氏ら旧経営陣7人に報酬の一部返上を求める。

 商工中金は、不正の温床となった危機対応業務を景気回復後も続けた。民間銀行と競争し、融資を増やすための武器として利用したのだ。経営陣は職員にノルマを課し、過度な業績プレッシャーをかけノルマ達成を強く求めてきた。ノルマを達成するために組織ぐるみの不正に走ったわけで、内部統制やガバナンス(企業統治)が欠如していたことになる。政府系金融機関による組織的な不正という異例な事態が改めて浮き彫りになった。

 経産省は、これまでの検査で不正を見逃してきた。そもそも、問題発覚後も経産省の対応は腰が引けていた。「調査は不十分だ」としたのは菅義偉官房長官で、森信親・金融庁長官に徹底調査を指示したとされる。

 だからこそ、今回は金融庁主導で検査したのだ。調査には弁護士や会計士も加わり、厳しく調べられた。監督責任を取り、世耕弘成経産相は給与の2カ月分を自主返納する。嶋田隆経産事務次官と安藤久佳中小企業庁長官も給与の1割を2カ月分、自主返納することを決めた。

 世耕経産相は「解体的出直しが不可欠だ。後任の社長は民間経験のある方が選ばれるようにしたい」と述べた。しかし、一時的に社長のポストを民間に明け渡しても、経産省が天下りポストを完全放棄すると見る向きは皆無である。ゼロベースで商工中金を改革すべきだという金融庁に対して経産省は「運用は大幅に見直すが、危機対応業務という制度は必要だ」と考えており、かなり温度差がある。

 不正の温床となったのは、2008年のリーマン・ショックを機に創設された危機対応融資。業績が悪化した中堅・中小企業に運転資金を貸し出す制度だが、該当しない顧客も融資の対象になるように資料を改竄し、貸し出しを水増ししてきた。

 補助金の申請書類の改竄、景況調査の不正報告と、疑惑は広がりをみせていた。

 16年11月、鹿児島支店で不正が発覚。今年4月の自主調査では、全国35支店で職員99人の不正が見つかった。不正は816件、414億円分の融資に上り、198億円は本来融資の対象ではない企業に貸し出していた。

●完全民営化の阻止が狙いで不正を実行

 不正の背景は何か――。理由ははっきりしている。民営化を断固、阻止することにある。政府系金融機関は、高度成長期に資金不足に悩んでいた中小・零細企業などに資金を供給し、日本の経済発展に一定の役割を果たした。だが、民間金融機関と業務が競合するようになり、「民業圧迫」との批判が高まった。

「官から民へ」と訴えた小泉純一郎内閣は05年、郵政改革の一環として政府系金融機関の改革に着手した。そして08年10月、商工中金は株式会社化された。政府(名義は財務大臣)が株式の46.46%を保有、53.54%を中小企業団体が出資。5年後から7年後をメドに政府は保有株式を売却し、最終的には完全に民営化するというシナリオだった。

 だが、08年秋のリーマン・ショックに伴う金融危機で、商工中金民営化の流れにストップがかかった。中小企業の資金繰りの悪化を受け、政府は中小企業を支援する危機対応融資制度を創設。政府系金融機関に、その実施を担わせた。11年3月の東日本大震災では、リスクを取る融資に慎重な民間金融機関に代わり、商工中金は有事の金融安全網の役割を果たした。

 危機対応の金融機関として商工中金の存在価値が高まったことで、完全民営化の時期は2度にわたって先送りされた。

 商工中金の存在価値があるのは危機対応の融資窓口に指定されているからだ。危機対応の融資が減れば、民業圧迫の批判がぶり返し、「民間でできることは民間で」という声が強まるのは避けられない。批判を封じるには、危機対応融資で実績を示し続けねばならない。

 商工中金の危機対応融資は、08年10月〜17年3月まで12兆4000億円を超えた。現在の融資残高は3兆円。全体の融資残高9兆3000億円の3分の1を占める主力業務だ。危機対応融資を強化することで民間金融機関にない特色を出し、完全民営化の粉砕を狙ったのだ。だが、これが危機対応融資の数値目標の高いノルマとなり、組織ぐるみの不正に発展した。危機対応融資は、予算の消化を求める中小企業庁の意を酌んでいた側面もある。

●天下り先を死守する狙い

 商工中金は経産省の最重要な天下り機関である。全国の協同組合に融資する協同組織金融機関時代の歴代理事長は通産省(現経産省)の天下りの指定席だった。株式会社に移行した08年、民間企業の体裁を整えるため新日本製鐵副社長の関哲夫氏が初代社長に就いたが、安倍晋三政権の発足とともに経産省がすかさず指定席を奪還し、13年から杉山氏、16年から安達氏が社長に就いた。

 完全民営化になれば、天下りのポストを失うことになる。これは、省益を守る意味からも絶対に阻止しなければならない。完全民営化を粉砕し天下りポストを死守するという官僚たちの策動が商工中金の不正の根底にあるのだ。

 不正の責任を取り、経産省出身の安達氏は引責辞任する。さすがに、次も経産省から送り込むわけにいかないから、後任社長は民間出身者を軸に選定が進む。いったん、経産省は天下りポストを失うが、ほとぼりが冷めたら復活してくるのは確実だろう。

 民間銀行ができない危機対応融資というカードを握っているかぎり、経産省は商工中金の完全民営化を阻止でき、天下りポストを確保できると読んでいる。
(文=編集部)