JR宇都宮駅東口に立つLRTの看板(筆者撮影)

栃木県宇都宮市と芳賀町が計画しているLRT(次世代型路面電車システム「Light Rail Transit」、以下「宇都宮LRT」と記す)については、2年前の2015年10月に当時の状況を報告した(栃木・宇都宮に「LRT」が走る日は来るのか)。

この際は、2012年の宇都宮市長選挙でLRT導入を公約に掲げ、3選目に挑んだ佐藤栄一氏が大差で当選したことを受け、翌年には整備に向けた検討に入ったものの、市長選前に383億円(JR宇都宮駅東側260億円+西側123億円)だった整備費用が2014年には駅東側だけで400億円以上になり、反対運動が目立ち始めていたことを紹介した。

2019年開業予定は延期に

その後宇都宮LRTは存亡の機に陥った。2016年の宇都宮市長選挙で反対派候補が、根拠は明らかにしないまま整備費1000億円という数字を掲げたことが市民に衝撃を与え、佐藤市長は4選を果たしたものの、前回約4万票あった対立候補との票差は約6000票と大幅に縮まり、僅差での勝利となった。

結果を受け、市長は丁寧に説明を重ね、市民理解をさらに深めていきたいと発言。当初は2016年度中としていた着工を2017年度以降とし、2019年12月とした開業時期は白紙とした。

プロジェクトが中断されるのではないかという憶測も出た。しかし今年9月2日に行われた「LRTの早期着工を目指す市民大会」は、会場に入りきれない人が出るほどの大盛況となり、多くの市民がLRTに興味を持っていることが明らかになった。

続いて9月29日には、宇都宮市議会でLRT関連法案が賛成多数で可決された。すでに芳賀町議会では可決されており、栃木県の判断を待つのみとなったが、こちらも10月10日の県議会で可決された。

ここにきてLRT計画が前進した理由の1つとして、宇都宮市の態度の変化があると筆者は見ている。

以前の宇都宮市は、市の東部や隣接する芳賀町・高根沢町にある工業団地への通勤輸送手段としてLRTを考えていた。沿線には巨大なショッピングモールやスポーツ施設、学校などがあるにもかかわらず、こうした施設への快適で安全な足であることはあまり言及されなかった。

これでは多くの市民にとって関係ない乗り物と映ってしまう。それが市民のLRTに対する関心の低さにつながり、前回の市長選での僅差という結果を導いたのではないかと思っている。

宇都宮市もこの点に気づいたのか、昨年から市民のためのLRTという姿勢が目立つようになった。なぜLRTが必要なのか、LRTはどうやって利用するのかなど、さまざまな角度から動画で紹介しており、市のウェブサイトにアップしている。地元のテレビ局でもLRTを取り上げることが多くなった。

さらに今年8月29日には、前述したショッピングモールに常設型の情報発信拠点「交通未来都市うつのみやオープンスクエア」がオープンした。LRTに関するパネル展示、モニターでの映像上映や、VRを使ったLRTが走る街並みの疑似体験もできるという。

デザインはどうなる?

紆余曲折はあったにせよ、ようやく着工に向けて動き出した宇都宮LRT。となると今後の興味の1つとして、車両や停留場などのデザインはどうなるか、気になる人が多いのではないだろうか。

宇都宮市のウェブサイトを見ると、デザインについては話が進んでいることがわかる。サイトでは2013年から始まった「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」の内容が記してあるが、そこでは昨年4月の第13回でトータルデザインの取り組みという言葉が登場し、10月の第14回ではLRTデザインの検討状況が紹介してある。

この間にデザインを担当する事業者の選定が行われたのではないか。気になって複数の関係者に話を聞いたところ、昨年5月にトータルデザイン設計業務についてのコンペが行われ、東京にあるデザイン会社GK(ジイケイ)設計が契約候補者として決定していたことがわかった。


富山ライトレールは2006年度のグッドデザイン金賞を受賞している(筆者撮影)

LRTの世界では、GK設計は富山ライトレールのデザインにかかわった会社として知られている。あのときにもトータルデザインという言葉が使われ、車両だけでなくインフラも含めた総合的なデザインを実施した。その取り組みは2006年度グッドデザイン金賞をはじめ、多くの表彰を受けており、評価は高い。

ちなみにGK設計は、今年で創業65年を迎える総合デザイン会社、GKデザイングループの一員である。富山ライトレールの際は、GK設計が全体のディレクションとインフラのデザインを行い、グループ内のGKインダストリアルデザインが車両のデザイン、GKデザイン総研広島が広告・広報計画、地元富山のデザイン会社である島津環境グラフィックスがVI(ビジュアル・アイデンティティ)を担当した。

トータルデザインの元祖は広島

1つのグループ内に、専門性の高いさまざまなデザインユニットが集結している。GKデザイングループの企業形態は、トータルデザインを遂行していくうえで適役という印象を受ける。


広島のアストラムラインは「クロームイエロー」をイメージカラーとして駅や車両に使用している(筆者撮影)

しかしGK設計が鉄道分野でトータルデザインを提唱したのは、富山ライトレールが初めてではない。1994年に開業した広島市の新交通システム、広島高速交通のアストラムラインで初めて投入されたものだ。

こちらはGKデザイン総研広島の担当で、イメージカラーをクロームイエロー(やまぶき色)と呼ばれる濃い黄色とし、車両だけでなく駅などにも、16個のドットを正方形に並べたアイコンを各所に用いることで、交通システムとしての一体感を表現している。

こちらも車両やファニチャー(掲示板・ゴミ箱・ベンチ)がグッドデザイン賞を受賞している。2019年度から導入が予定される新型車両もまた、黄色をモチーフにしたモダンなデザインが施されるという発表があった。


GKデザイングループは富山の市内電車環状線のトータルデザインも手掛けた(筆者撮影)

GKデザイングループはその後、GK設計が富山ライトレールに続いて同じ富山市の市内電車環状線(正式名称は富山地方鉄道富山軌道線富山都心線)も手掛けており、こちらでもトータルデザインを導入している。鉄道におけるトータルデザインを知るには、富山に行くのがよさそうだ。

宇都宮LRTは、上記検討委員会の専門部会として有識者、住民、運行事業者、行政により構成する「LRTデザイン部会」とGK設計により進められていくことになる。しかし現時点でほぼ決まっている部分がある。色だ。

前述の情報発信拠点を含めたプロモーションには、「雷都を未来へ」という言葉とともに、黄色がシンボルカラーとして使われているからだ。

LRTは「雷都」の象徴になるか

雷都という言葉は、LRTのライトレールトランジットに掛けたものであるが、昔から宇都宮ではこの呼び名を使っていた。雷というとネガティブなイメージを持つ方が多いかもしれないが、宇都宮がある栃木県では「雷様(らいさま)」という呼び名があるほど、崇め奉る存在になっている。

雷の光のことを稲妻と呼ぶことがある。「つま」はもともと配偶者を示す言葉であり、昔は稲夫と書いた。雷が夫、稲が妻で、雷が稲と結ばれることで実をつけるという言い伝えからこの言葉が生まれたという。

雷が落ちると稲が育つことは科学的にも実証されている。稲を含めて植物の生育には窒素が重要であるが、植物は空気中の窒素をそのまま取り込むことができない。しかし雷によって窒素と酸素が結び付いて窒素酸化物が作られ、その後の雨でこの窒素酸化物が地中にしみ込むことで、稲の育ちがよくなるのだという。

雷というと多くの人が黄色を連想する。この色をシンボルカラーに選んだのは納得だ。個人的には雷を連想するようなダイナミックなグラフィックで、新鮮な雰囲気を表現してほしいが、それを含めてトータルデザインに長けたデザイン集団の手腕に期待したい。