間もなく手が届くかもしれない「老化」を治療するための手法

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By empty007

人間はかつてないほどに長生きとなりましたが、その結果、人生の長い期間を病気と共に過ごすようになりました。病気をしないで過ごせる期間を意味する「健康寿命」を長くするため、科学者たちは身体的疾患の根幹である「老化」そのものに対処する必要に迫られてきたわけですが、ここ数年で老化に関する研究は大きな進歩を遂げており、人間への応用が近い将来に始まると考えられています。人間にとって永遠のテーマともいえる「老い」への対処法として、現代を生きる人々が恩恵を受けられるかもしれない発見をYouTubeの科学チャンネルKurzgesagtが紹介しています。

How to Cure Aging - During Your Lifetime? - YouTube

◆1:老化細胞



ヒトの細胞には寿命があります。



細胞が分裂する時に染色体は複製されますが、その際、染色体の末端にあるDNAの一部が失われます。



それでは困るので、末端は「テロメア(TELOMERE)」と呼ばれる区間で守られています。これは靴紐の先っぽの硬い部分のようなものと思えばOK。



しかし、細胞が分裂するたびにテロメアも短くなっていくので、何度も分裂した細胞の中には、テロメアを失いゾンビのようになってしまったものがあります。



このゾンビ化した細胞が、「老化細胞(SENESCENT CELL)」です。



老化細胞は死ぬことがないので、人間が年をとるにつれて体内に蓄積されていきます。



そして、周囲の組織を傷つけ、糖尿病や腎不全などの原因となります。しかし、もしこの老化細胞を殺せるとしたらどうでしょう?



ある実験で、科学者が老化細胞を自ら破壊できるマウスを遺伝子工学的に作成しました。



すると、老化細胞を持たないマウスは、通常のマウスよりも活動的で、心臓や腎臓も丈夫になり、がんにもかかりにくくなったそうです。



この遺伝子操作により老化細胞を持たないマウスは、通常のマウスよりも最大30%も長生きし、健康であったとのこと。



しかし、人間の体の全細胞を遺伝子操作することは不可能なため、老化細胞を除去するための別の方法を考える必要があります。果たして健康な細胞を傷つけず、老化細胞だけを殺す方法はあるのでしょうか?



ほとんどの健康な状態の体細胞は、傷つくとプログラム細胞死を果たします。



しかし、老化細胞がプログラム細胞死することはありません。



なぜなら、老化細胞はプログラム細胞死を知らせるためのタンパク質の産生が少ないためです。



そこで、プログラム細胞死を知らせるためのタンパク質をマウスに注射する実験が2016年に行われました。



すると、老化細胞の80%が死に、健康な細胞にはほとんど害が出なかったそうです。



処置を受けたマウスはより健康になり、脱毛も改善しました。



この結果から、多くの企業が老化細胞を破壊する手法に着目するようになり、人間への応用も間もなくの段階にまで来ているそうです。



◆2:NAD+



細胞は、細胞骨格や反応を起こす触媒など、何億というパーツで構成されています。これらのパーツは常に分解され、きれいにして再構成する必要があるのですが、老いるとこの過程が劣化してしまい、パーツがくたびれて不要なものの除去が間に合わなかったり、必要なパーツが不足したりするようになります。



そうした老化により足りなくなるパーツのひとつが「NAD+」です。NAD+は体の修復に関する補酵素のひとつとして知られています。



50歳になると、体内のNAD+の数は20歳の時の半分にもなるそうです。



体内のNAD+が不足すると、皮膚がんやアルツハイマー病、心血管疾患、多発性硬化症など多くの疾患が発症しやすくなります。



NAD+を摂取すればいいと思うかも知れませんが、NAD+は細胞膜を通過することができないので、飲み薬では細胞内に取り込むことができません。そこで、科学者たちは細胞膜を通過したあとにNAD+に変化する物質に注目しています。



この物質をマウスに摂取させる実験を2016年に行ったところ、体内でNAD+に変化し、皮膚・脳・筋肉の幹細胞の増殖を促すことが証明されました。



また、実験後、マウスは元気になり、DNAの修復機能が改善し、わずかながら寿命も延びたそうです。



「火星で放射線にさらされる宇宙飛行士のDNA損傷を最小限にできるかもしれない」として、この実験結果にNASAも興味を示しています。



NAD+に着目した実験はヒトへの試験も計画される段階にまで来ていますが、人間の健康寿命を改善することにつながるのかは現時点では不明です。



ただし、今回紹介された技術の中ではNAD+が抗老化薬の最有力候補として挙げられています。



◆3:幹細胞



幹細胞は細胞の青写真であり、体のあちこちで自らを複製し、若々しい細胞が生まれる流れを作ってくれます。



しかし、幹細胞も加齢と共に減少していきます。



そして新しい細胞が少なくなれば、人体は壊れていきます。



マウスでも、脳から幹細胞が消えるに従い病気が進行していくという結果が示されています。



そこで、生まれたばかりのマウスの脳の幹細胞を、年老いたマウスの脳に直接注射するという実験が行われました。



実験結果としては、特にさまざまな身体機能を司る視床下部において、代謝を調整するマイクロRNAを分泌することで幹細胞は老化した脳細胞を再活性化することが確認されています。



さらに、幹細胞を注射してから4か月後には、脳と筋肉の働きが改善し、未処置のグループと比べて平均で10%も長生きしたことも確認されています。



別の研究では、マウスの胚由来の幹細胞を年老いたマウスの心臓に注射したところ、心臓機能が改善し、20%長く運動できるようになり、毛の再生速度も速くなったそうです。



◆:結論



これらの最先端の研究結果からわかるのは、老化を治療するための単一の特効薬というものは存在しておらず、いくつもの治療法の組合わせにより治療の可能性が見いだせるようになってきているということです。



無駄な物質を取り除くために老化細胞を死滅させ、少なくなった細胞のすき間を埋めるために新鮮な幹細胞を加え、その他の細胞の代謝を調節するためにNAD+を生成できるような薬剤を用いる、といった具合に複数の研究結果を複合することが老化治療のカギになるかもしれません。



ただし、ムービー内で紹介された研究結果はどれもマウス実験であり、同じ効果が人間でも見られるかどうかは定かではありません。とはいえ、概念実証としては十分なものであるといえます。



我々人間の健康寿命を改善する方法を知るには、さらなる研究が必要であり、このムービーはそんな進行中の研究のごく一部をわかりやすくかみ砕いて紹介しただけに過ぎません。



健康寿命を延ばすための研究は財政援助を必要としていますが、うまくいけば人類は苦痛のない老後を楽しめるようになるかもしれません。