米大統領来日前に車両検問。トランプ米大統領の来日を控え、車両を検問する警察官=10月26日夜、東京・丸の内(写真:共同通信社)

アメリカのトランプ大統領が11月5日(日)から3日間の予定で日本を訪れている。すでに10月末から主要駅のコインロッカーが使えなくなるなどテロ対策を強化している。
日本の警察によるテロ捜査、テロ対策の最前線を中心に、日本で狙われやすい場所はどこか。テロが実際に起きてしまったときの対処法、水際対策の最前線、世界各国のテロ対策、日本のテロ捜査の歴史、ISをはじめとする過激派思想の流れ、そしてサイバーテロや共謀罪とは。『テロvs.日本の警察 標的はどこか?』の著者で、民放テレビ局で警視庁担当記者を務めた今井良氏が、「テロの時代」を考えていく。

日本でターゲットになる場所はどこか

「日本も、テロと本気で対峙しなければならない時代に突入した」

2016年夏。警察庁幹部は、対面していた筆者に深刻な表情でそうつぶやいた。1週間前にバングラデシュのダッカで起きた、日本人7人が犠牲となった国際テロ事件のことも頭をよぎっていたのだろう。

「私は日本人だ! 撃たないでくれ!」

現地メディアの報道によると、犠牲者の1人はこう叫んだというが、テロリストは何のためらいもなく引き金を引いたという。昨今、世界各地、特に西側諸国を中心にテロが頻発している。2015年から2016年にかけて大規模なテロが相次ぎ、現在に至るまで、その勢いは衰えていない。

では、もし日本が標的となった場合、ターゲットになる場所はどこなのか。ここでは警察関係者などへの取材に基づき、現時点で想定できる、テロが起きやすい場所を順次挙げていこう。まずご紹介するのは「重要防護施設」、警察内部では「重防」と呼ばれる最重要警戒施設である。

「ISなどのテロ組織が日本の中枢を狙うとすれば、まず間違いなく首相官邸だろう。破壊に成功すれば、世界中に及ぼす影響は計り知れないからだ」。ある警察関係者は、その可能性を筆者に語った。

総理大臣官邸(=首相官邸)は日本の中心・千代田区永田町にある。日本のトップである内閣総理大臣が執務に当たっているほか、官房長官や官房副長官など、日本を動かす要職が詰めている場所でもある。さらに地下フロアには、有事の際の指令拠点となる「内閣危機管理センター」も備えられている。

当然、官邸の内外では厳重な警戒が敷かれている。正門には突入防止のための「アンクル」という鉄製の機材が置かれ、さらに可動式の鉄柱が3本立っている。そしてサブマシンガンで武装した警視庁機動隊の銃器対策部隊、警視庁警備部警護課の総理大臣官邸警備隊が睨みを利かせている。付近には、さらなる有事に備えて、警視庁第一機動隊の小隊(70〜80人規模の機動隊員からなる単位)が控えるバスが停車している。裏門にも同様の警備がなされている。

ドローン事件の衝撃

2015年4月22日。その首相官邸に衝撃が走った。官邸の屋上に、小型無人機「ドローン」が墜落していたことが判明したのだ。通報を受け、屋上はあっという間に100人近い捜査員で埋め尽くされた。公安部公安総務課、公安機動捜査隊、警備部警備二課爆発物処理班の面々が次々と集結。上空には報道機関のヘリが飛び交い、騒然となった。警視庁が機体を回収、分析を進めたところ、このドローンは発煙筒と放射性物質を含む土砂が投下できる仕組みになっていたことが判明する。

この「官邸ドローン事件」では、機体発見から3日後の4月25日、福井県内の警察署に男(41)が出頭。威力業務妨害罪で逮捕・起訴され、執行猶予付きの判決を受けている。男の供述によると、ドローンを墜落させたのは4月9日だったという。つまり墜落したドローンは、実に13日間も発見されなかったことになる。

警視庁関係者は、このことに衝撃を受けたという。「何らかの事情でドローンが制御不能となったからよかったものの、もしテロが実行されていたらと思うとぞっとする。もしもの事態、ありえないことを想定し対処するのが警備警察業務の基本だということを改めて痛感した」。

官邸と並び、日本の政治の中枢となっているのが「国会議事堂」である。国会の開会中には常に国会議員や省庁の官僚など、500人近い人間が議事堂内部に一定期間とどまることになる。

この国会議事堂がテロリストに占拠されたらどうなるのだろうか。そんな最悪の想定を映画化したのが、作家の金城一紀氏が原案と脚本を手掛けた『SP 革命編』(2011年公開)だ。舞台はまさに首相をはじめ全閣僚、衆参の所属議員が一堂に会している開会中の国会議事堂。テロリストたちはさまざまな方法で国会内部に侵入する。

「清掃業者」に扮したテロ集団Aグループは議事堂ではなく、隣接する国会議員会館に入る。まず入り口受付の衛視をスタンガン等で制圧。入り口を施錠し高性能爆薬をセットする。グループはさらに議員会館の地下部分の電送室にも爆薬を仕掛けた。

テロ集団Bグループは「国会担当記者」に変装。国会事務局が発行するIDカード「国会記者章」を提示すると、拳銃や爆弾が詰められた鞄はチェックされることなく、すんなりと議事堂内に入ることができた。

テロ集団Cグループは「国会見学者」を装い国会議事堂に侵入する。目視とゲートによる荷物チェックがあるため武器は携行していない。だがCグループは、Aグループが車両で運搬していた武器を受け取ることになっている。これは、Aグループのいる議員会館と国会議事堂が地下通路でつながっていることで可能になる。こうして、Cグループの自衛隊出身のテロリストが、国会の見学が終わった地点で案内役の衛視を格闘技で制圧、無力化し、ほかのメンバーとともに見学コースを外れて本会議場に向かった。

現実として起こりかねない

映画では、警視庁警護課所属のSPの一部も犯行に加担しているという設定で、テロリストとともに衛視を次々と拘束していく。そして、A・B・Cのテロ集団は本会議が開会すると一斉に突入。爆弾を議場内の議員数名に取り付けた。手始めとばかり首謀者が手元のリモコンスイッチを押すと、国会議員会館地下に仕掛けられた爆薬が起動し爆発。轟音が響き渡る。首相以下、すべての国会議員は凍り付く。首謀者は登壇し、議場内を中継していたテレビカメラに向かって自らの要求を述べ始めた。

「この議場内にいる諸君に告ぐ。いまこの時をもって諸君は我々の支配下に入った--」。フィクションとはいえ、現実として起こりかねない設定だったと、ある警察関係者は言う。

「映画でも触れていたが、国会内の衛視は武器の携行が認められていない。まさか警視庁SPが寝返ることはないだろうが、もしもと考えたらぞっとするストーリーだ」。この映画が公開されて6年が経過しているが、いまだに国会内の警備にあたる衛視に武器の携行は認められていない。

灯台下暗し--。実は、テロ対策に力を注ぐ警視庁本部のセキュリティは脆弱ではないかという声が囁かれている。そんな危機感を持っている警視庁関係者は多い。

2014年、警視庁は正面玄関と副玄関の受付の前に「ゲート」を開設した。入館者は受付で訪問先について記載する。受付の担当者は隣接する控室で待機するよう告げる。しばらくすると訪問先の案内担当者が来て、その場でプラスチックケースに入った赤色のICカードを渡される。ゲートには駅の自動改札のようにカードを接触させる部分があり、カードをかざすと電子音が鳴りゲートが開く。

部署によっては自室までにこうしたゲートを複数設けており、カードを接触させないと次に進めない仕組みになっている。厳重な入退室管理である。しかし、1980年に現在の警視庁本部が竣工してから、2013年ごろまでは警視庁本部のセキュリティは決して十分とは言えなかったと関係者は明かす。

警視庁はセキュリティを強化

「簡単に警視庁本部内に入れてしまうことを常々問題視する声が上がっていたことは事実。簡易なプラスチック製のプレスカードを所持する警視庁記者クラブ員に扮して、カードを偽造して入退室することも可能だった。しかし、注意しなくてはいけないのが面会者だ。荷物検査までは実施していないから、爆発物などを持ち込まれたらと考えると、空港の保安検査のようなシステムが必要ではないだろうか」(警視庁関係者)

2017年2月には、被害相談のため担当の捜査員との面会を申し出た男が待合室で自分の体を刃物でいきなり傷つけて、制止しようとした刑事部捜査二課員が軽いけがをする事件も発生している。この事件を受けて警視庁では、待合室の入り口にも警戒員を置くようになったという。


2017年8月現在、警視庁本部への入館は、これまで以上に厳重になっている。まず、正面玄関にはこれまで同様、皇居側と桜田通り側の2つの入り口にそれぞれ警察官が配備され、警戒に当たっている。

それぞれの入り口には鉄の門扉があり、さらに3本の鉄柱が可動式で上下するようになっている。さらに副玄関も、皇居側・桜田通り側の2カ所があり、正面と同様の警戒警備態勢が敷かれている。つまり、現在の警視庁本部は、内部に入ることさえ容易ではないほどセキュリティが強化されているのだ。

首都・東京の治安を預かる警視庁がテロの標的になる可能性はないのか--。ここで見てきたように、警視庁ではこれまで以上の厳戒態勢が敷かれているとはいえ、もちろん、その可能性はゼロではない。有事の際に警視庁本部がその司令機能を失えば、東京でのテロは、さらなる被害・混乱を引き起こすことになるだろう。