“バラード中心”の年月が経っても名盤と呼ばれる待望の新作 / 『スリル・オブ・イット・オール』サム・スミス(Album Review)

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 デビュー・アルバム『イン・ザ・ロンリー・アワー』(2014年)が全世界で1200万枚を売り上げるビッグ・ヒットとなり、2015年の【グラミー賞】では主要3部門を含む4冠を獲得した、英ロンドン出身のシンガー・ソングライター、サム・スミス。その衝撃の処女作から約3年半振り、2作目のスタジオ・アルバム『スリル・オブ・イット・オール』が11月3日、遂にリリースされた。

 本作からは、9月8日発売の1stシングル「トゥー・グッド・アット・グッバイズ 〜さよならに慣れすぎて」が、母国イギリスやオーストラリア、ニュージーランドでNo.1を獲得。アルバムのオープニングを飾るこの曲は、デビュー作から大ヒットした「ステイ・ウィズ・ミー 〜そばにいてほしい」や「アイム・ノット・ジ・オンリー・ワン」に匹敵するほど美しい、サムの真骨頂ともいえるピアノ・バラード。制作・プロデュースも、その2曲を手掛けたジミー・ネイプスが担当している。

 リリース1か月前に配信がスタートした「プレイ」は、2000年代を代表する音楽プロデューサー、ティンバランドが制作・プロデュースを担当したゴスペル・バラード。サムとティンバという意外な組み合わせだが、楽曲の完成度からみて相性は抜群。2008年に大ヒットした、ワンリパブリックの「アポロジャイズ」を彷彿させるメロウネスと、所々で聴かせる“チキチキ・ビート”がティンバらしさを際立てる。その他には、『イン・ザ・ロンリー・アワー』にも参加したスティーブ・フィッツモーリスや、昨年ゼイン・マリクのデビュー作『マインド・オブ・マイン』や、フランク・オーシャンの『ブロンド』などを大ヒットさせたマレイ、言わずと知れた売れっ子プロデューサーチーム=スターゲイトなどが、プロデューサーにクレジットされている。

 「トゥー・グッド・アット・グッバイズ」や「プレイ」の他にも、父親に抱えきれない悩みを打ち明けた「ヒム」や、感情むき出しの「ナッシング・レフト・フォー・ユー」などのゴスペル・チューンから、諭すように歌う「ワン・デイ・アット・ア・タイム」、美しいメロディ・ラインと柔らかい節回しのタイトル曲、優しさの中にも熱を帯びた「パレス」など、非の打ちどころがないメロウ・チューンが充実している。良い意味で柔らかさが抜け、説得力と力強さが増したボーカルの変化にもご注目いただきたい。「バーニング」ではピアノ、「スカーズ」ではアコースティックギターの弾き語り(調)にも挑戦している。

 前作収録の「マネー・オン・マイ・マインド」や、ディスクロージャーとコラボした「ラッチ」のような“今風”のシンセ・ポップは一切ないが、カバー曲かと錯覚するほど忠実に再現した60年代ソウル「ワン・ラスト・ソング」や、ニューソウル時代のサウンドが蘇る「ミッドナイト・トレイン」、ファンクを取り入れた「ベイビー、ユー・メイク・ミー・クレイジー」など、60〜70年代風のアップ・チューンが随所に配置されている。アルバムのコンセプトとしては“バラード中心”が正しい作りだが、こういった曲がもう少しあっても良かったかもしれない。

 次のシングル候補に挙げたいのが、触れたら壊れそうなほど丁寧に歌うミッド・チューン「セイ・イット・ファースト」と、チャンス・ザ・ラッパーの作品に参加し注目された女性シンガー、イエバとデュエットした「ノー・ピース」の2曲。風景が見える音楽とはまさにこのことで、本作の中でも1、2位を争う名曲ではないだろうか。アデルの大ヒット作『25』のように、本作に収録された楽曲の魅力は、流行を一切無視した名曲が連なっているということ。年月が経っても名盤と呼ばれるアルバムは、こういう作品のことを言う。

 尚、2015年9月にリリースした、映画『007 スぺクター』の主題歌「ライティングズ・オン・ザ・ウォール」は収録されていない。


Text: 本家 一成

◎リリース情報
『スリル・オブ・イット・オール』
サム・スミス
2017/11/3 RELEASE