日立の鉄道事業の命運を握るドーマー氏

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 日立製作所の鉄道事業が大きな転換点を迎えている。16日、英国で受注した都市間高速鉄道計画(IEP)の新車両が走りだした。しかし感慨に浸る余裕はない。世界2位の独シーメンスと同3位の仏アルストムが事業統合を発表、鉄道ビジネスは弱肉強食が鮮明になってきた。日立の事業は成長軌道にあるとはいえ、このままではグローバル市場で存在感が薄らいでいくだろう。走り続ける先にどのような分岐が待っているのか。

 「猶予は3年。その間に次の手を打たないといけない」―。日立レールヨーロッパの幹部はシーメンスとアルストムの統合に危機感を募らす。独占禁止法の審査やリストラの行方など不透明な部分があるとはいえ、売上高で日立の約4倍にあたる2兆円企業の誕生は脅威に他ならない。

 今後、統合会社はサプライチェーンのあらゆる場面で規模の力を打ち出してくるはず。欧州勢の営業利益率は1ケタ台後半なのに対し、日立は2016年度の実績で4・2%にとどまる。イタリアのアンサルドSTSの買収により、収益性の高い信号事業や一括ソリューション事業を提供できるようになったが、日立との融合はこれからだ。

 東原敏昭社長は「20年代前半までに鉄道事業で売上高1兆円を目指す」と宣言するが、資本市場や社外取締役などの見方は甘くない。日立全社で中期的に目標とする営業利益率が10%であり、「鉄道が足を引っ張るのであれば、日立グループから離れて成長していくことも選択肢」(証券アナリスト)という意見もある。

 もともと日立は「規模を追う事業は得意ではない」(中西宏明会長)。半導体やハードディスク駆動装置(HDD)なども結局は手放した。

 シーメンスとアルストムの統合で“ビッグスリー”の一角、カナダ・ボンバルディアも早晩再編に動くだろう。国策により世界最大の鉄道車両会社になった中国中車は、これまでの廉価品から中級品を作るまで実力を付け、世界市場へ打って出てくるのは時間の問題だ。

 ただ、日立がボンバルディアや中国勢などと組み、再編を仕掛けることは、財務上も企業文化の観点からもありえないだろう。

 それでも日立にとって鉄道事業は、成長戦略の柱の一つであり、グローバルオペレーションの象徴に変わりはない。その命運を握る人物が、鉄道部門の最高経営責任者(CEO)を務めるアリステア・ドーマー氏。

 脇を固めるのは、IEPの顧客である英鉄道会社から引き抜いたカレン・ボズウェル日立レールヨーロッパ社長、アンサルドSTSのアンディー・バー社長などの英国人たち。それをナンバーツーの正井健太郎最高執行責任者(COO)が日本からサポートする形だ。このチームは現状、うまく機能している。

 アルストム出身のドーマー氏は、ライバルの実力と出方をどう分析し、3年の猶予でどんな手を打ってくるか。オペレーション面では「英伊日」の3カ国の一体化を一層進めるはず。

 事業面では、世界各国で現地のサービス会社などを地道に買収していくことは普通に予想される。英国海軍に属した経歴から、社内にもなかなか情報を漏らさないのがドーマー流。果たして隠し球はあるのだろうか―。