実例で検証"CF計算書"で不正を見抜く方法

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いつになっても後を絶たない会計の不正。キャッシュフロー(CF)計算書の仕組みを理解できれば、そうした不正は事前に気付くことができる。粉飾の仕組みさえわかれば、無味乾燥とした決算書も、楽しい読み物に変わる。オリンパスや東芝の事例をもとに、"水増し決算"の見抜き方を紹介しよう――。

■分析編:オリンパスに見るCFの矛盾

▼意識改革できないワンマン経営者

昔から企業の粉飾決算は後を絶たない。その狙いは赤字決算や債務超過の隠蔽で、経営不振が表ざたになると、経営陣の手腕も問われる。公認会計士として数多くの決算書と向き合ってきた前川修満氏が語る。

「何よりもトップの保身が元凶である。東芝の場合は西田厚聰、佐々木則夫、そして田中久雄の3氏の歴代元社長が絡んでいた。また、5年前に発覚したオリンパスの粉飾では、2001年から10年間、社長の座にあった菊川剛元社長の名前が挙がる」

このように、不祥事が名門と呼ばれる企業においてさえ起こりうる背景には、いまだに引きずっている古い“会計体質”が存在する。かつての会計制度は緩やかで、保有する有価証券や土地の含み益を業績に反映させることで、利益額を調整する余地があった。そうしたやり方が、まかり通っていたのだ。

しかし、やがて「会社の実態を反映していない」と国際的な批判にさらされる。しかも、1990年代早々にバブルが弾けて、不良債権問題も浮上し、日本は国際的な信用力を失う。

そこで90年代後半から、日本の会計制度の国際化を図ったのが“会計ビッグバン”で、99年3月期から01年3月期の決算にかけて、連結財務諸表や時価会計、税効果会計などが矢継ぎ早に導入された。しかし、前川氏は名門企業ほど意識改革ができなかったと見ている。

「とりわけ、ワンマン経営者ほど、それに追いついていけなかった。彼らには、依然として『会計は会社を守るために上手に運用するものだ』という意識が強く働いていたのだろう……」

ある意味でオリンパス騒動は、その典型といえるかもしれない。同社はバブル崩壊に伴う有価証券投資の失敗で巨額の損失を抱える。菊川元社長をはじめとする経営陣は、それを17のファンドや外国銀行口座へ損失を移し替える“飛ばし”や買収した子会社の資産を流用する手口を駆使して、総額1348億円もの損失を穴埋めしたのだ。

しかし、これほどの長期にわたる不正を見抜く方法はなかったのかと、誰もが感じるはず。上場企業は期末から45日以内に決算発表するが、その発表を鵜呑みにしていいのか。前川氏が決算書の不正を見抜く、とっておきの方法を教えてくれた。

「好業績を発表している企業でも、決算書を精査していくと、実は経営に苦しんでいる本当の姿が見えてくることがある。オリンパスも、その例に漏れない。そうした企業の決算書はどこか歪んでいて、そのことを端的に示してくれるのがキャッシュフロー(CF)計算書なのだ」

▼頭打ちになった営業CF

では、08年3月期におけるオリンパスの連結CF計算書を繙いていこう。「同社が先送りした損失を決済させるための支出(損失)が、投資活動に伴う投資CFに表れている」と前川氏は指摘する。

この会計年度には3043億300万円ものお金が投資活動で出ていて、細かく見ると「連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」という項目の金額が2322億3400万円のマイナスで、全体の4分の3も占めていた。実はそのほとんどが、後から問題になった英国の医療機器メーカーを買収するために使った費用だと見られているのだ。

「これほど巨額の投資支出額は、過去のオリンパスのCF計算書を見る限り、異例中の異例といっていい」と前川氏はいう。それまで同社の投資規模は、せいぜい数百億円程度にすぎない。

一方、本業の営業活動に伴う営業CFは、890億600万円を計上。通常、真っ当な会社を買収すれば、そこのCFが買い手側に入るから営業CFは増加する。しかし、オリンパスは大規模投資をしたものの、営業CFはまったく増えていない。

むしろ、09年3月期は416億2800万円へ減っている。図のグラフを見てもわかるように、その後の営業CFは頭打ちの状態になった。「ここにオリンパスの決算書の歪みが一目瞭然になる」と前川氏。ついでに売上高の推移をチェックすると、08年3月期まで1兆円を超えていたものが、翌期以降やはり漸減傾向を示している。

「投資活動は、将来のお金を稼ぐための布石。それにもかかわらず、営業CFが伸びないどころか減少してしまった。このようにCF計算書の内容を時系列で見ていくと、『どこかおかしい』と瞬時にわかってくる」

こう前川氏が指摘するように、確かにオリンパスのCF計算書からは、まともな経営に取り組んでいた様子が感じられない。そして、このCF計算書の歪みは貸借対照表にまで及んでいるのだという。

「実態を伴わない英国の医療機器メーカーを買収したのなら、どこかで辻褄合わせが必要になる。そこで08年3月期に前期と比べて2210億8200万円も“のれん”を膨らませて、貸借対照表の純資産を水増しすることで決算書の見栄えを整えたのだろう」

ここでいう「のれん」とは、企業の買収によって新たに生じる資産のこと。通常、買収額は高額になることが多く、買収した会社の正味の資産額を超えた分の金額がのれんになる。オリンパスはこれを悪用し、09年3月期から11年3月期にかけて、純資産を約415億〜474億円水増ししたと思われる。

■実践編:過去の事例で不正を見抜く

▼重視すべきは事業CFの出入り

CF計算書は先の会計ビックバンで00年3月期から導入され、貸借対照表や損益計算書と合わせて「財務3表」の一つに数えられるようになった。会社の活動を「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つに分け、現金(キャッシュ)の増減(フロー)を示す。つまり、1年間にどれだけ現金を増やし、もしくは減らしてしまったかを明らかにする重要な決算書なのだ。

「企業が永続を目指す以上、営業活動は当然のことながらプラス(黒字)で推移していくことが求められる。その反対に投資活動は、設備の購入や研究開発、M&A(買収・合併)などに現金を使うわけだから、通常はマイナスになる。原則として投資の支出は、営業CFの黒字の範囲内で行われることが望ましい。営業CFと投資CFを合算したものを私は『事業CF』と呼んでいて、この事業CFにおけるキャッシュの出入りでマイナスが続くと、深刻な経営状態にあると判断せざるをえない」

そう話しながら前川氏が提示してくれたのが、表にある3社の決算データである。株式公開会社であったプロデュース、エフオーアイ、アイ・エックス・アイともに、経営が順調であるかのように装っていた。

「しかし、内情は“火の車”のような状態で、いずれも経営破綻してしまった。その歪みを決算データから読み解くことができる」と前川氏はいう。それではトレーニングのつもりで、データを個々に検証していくことにしよう。

プロデュースは新潟県長岡市の工作機械メーカーで、成長企業との評判が高かった。しかし、08年9月の証券取引等監視委員会の強制調査で決算書が粉飾されていることが判明。同社は05年12月にジャスダックに上場以来、帳簿や伝票上だけで複数企業間の売買を繰り返す“循環取引”をしていた。

そのため損益計算書の売上高は、06年6月期の58億8500万円から翌期には97億400万円へほぼ倍増。経常利益も5億9400万円から12億500万円とやはり倍近く伸びている。

しかし、営業CFは8億5900万円のマイナスから、9億6700万円のマイナスへマイナス幅を膨らませた。その結果、投資CFと合算した事業CFも、15億4000万円のマイナスから23億8000万円のマイナスへ、そのマイナス幅を膨らませている。

次のエフオーアイは、神奈川県相模原市を拠点とする半導体製造装置メーカーだった。同社は09年11月のマザーズ上場に際して、09年3月期の売上高が実際は3億1900万円だったにもかかわらず、118億5500万円と記載した有価証券報告書を提出。そして、一般投資家からおよそ52億円もの資金を調達する。

同社の場合も、粉飾で糊塗された損益計算書は非常に見栄えのいいデータになっていた。しかし、09年3月期の営業CFは35億5000万円のマイナス、事業CFも36億4100万円ものマイナスで、散々な内容になっており、「どうして上場できたのか不思議なくらいだった」と前川氏はいう。

また、大阪市内にあったシステム開発会社のアイ・エックス・アイも、損益計算書の利益はプラスで推移していたものの、事業CFはマイナスが続いていた。実は、同社はナスダック・ジャパンに上場した02年春頃に循環取引を本格化。表にデータはないが、02年3月期に25億9100万円だった売上高が翌期に55億2400万円へ伸びたものの、その大半が水増しだったのである。結局、営業CFはそれに比例して伸びず、06年3月期には13億7000万円のマイナスに転落している。

まさしく「頭隠して尻隠さず」ならぬ「損益計算書隠してCF計算書隠さず」とは、こうした経営破綻会社の決算書のことをいうのだろう。預金は金融機関から残高証明を取ることで、借入金は借り先への照会で、手元の現金は実際に数えることでチェックができる。結果、キャッシュの流れで誤魔化しはしにくくなる。

「損益計算書と貸借対照表を見ても、CF計算書を見ないという人が多い。これも合わせて財務3表をバランスよく読み解くことがとても重要だ」と前川氏は改めて力説する。

▼苦境が垣間見える東芝の台所事情

ただし、東芝の不正会計となると、ことはそう単純ではない。ベテランの公認会計士である前川氏が「会計監査の穴」と嘆息するほど容易には発見できない手法を用いているからだ。同社は、工事進行基準を使った不適切な計算で監査法人をも欺いたのである。

「工事進行基準とは、収益をいつの時点で損益計算書に計上するかという基準のこと。現行の会計基準では、商品や製品が顧客に引き渡され、それが顧客の所有物になった時点というのが原則になっている」と前川氏はいう。

しかし、ビルの建設など数年の工期を要するものについては、その限りではない。竣工まで待っていたのでは、完成する決算期以外の収益はゼロになってしまうからだ。そこで、工事の進捗度に応じて収益を計上していくことになる。たとえば、100億円の工事を4年間で請け負ったとする。1年目に総工事の25%が完成したのであれば、25億円を収益として計上するわけだ。

実は、東芝のソフトウエア開発業務もこれと似ている。しかも、外見から工事の進捗状況が見えるビルと違い、完成度が判別しにくい。前川氏が問題視する「穴」がまさにこれで、「東芝は赤字になる業務の工事原価を過小にする一方で、未完成の作業に必要な費用も少なくなるように改竄し、収益の過大計上を行っていた」と解説する。

そのほかにも同社は、商品価値の低下した棚卸資産(在庫)に関して、評価損を先送りするなどの粉飾も行っている。その結果、09年3月期から15年3月期まで、総額で1518億円の利益額を不正処理していたと、第三者委員会の調査報告書で指摘されたのだ。前川氏は表のデータを指さしながら次のように語る。

「東芝の過去8年間のCFデータを詳細に見ると、09年3月期を除いて、営業CFはプラスだった。それだけに、粉飾の発見はたやすくない。しかし、投資CFのマイナスが大きすぎる。その結果、事業CFも多くの年度でマイナスになっており、東芝の苦しい台所事情が垣間見えてくる」

たとえ損益計算書は美しく装ったとしても、CF計算書のバランスの悪さは隠しようがない。その点は、東芝もプロデュースなどとまったく同じといっていい。やはり決算書を見るときには、CF計算書を含めた財務3表をバランスよく注視することが大切になってくる。

ただし「その際に簿記のような知識はいらない」と前川氏はいう。財務3表を作るわけではなく、読み手の立場で解説された実用書などで読む力を磨けばいいのだ。そして前川氏は「そばを食べるとき、そば打ちの技術は持っていなくても、きちんとした食べ方を知っていれば、美味しく楽しめる。それとまったく同じことだ」とも話す。

日本の教育の原点ともいえる江戸時代の寺子屋では“読み・書き・そろばん”を奨励し、これができれば自立できるとされた。前川氏は「それを現代流に置き換えると“パソコン・外国語・会計”になる」という。会計を食わず嫌いのままにしてはいけない。前川氏のアドバイスに従って、楽しく決算書を読めるようになってほしい。

(ジャーナリスト 岡村 繁雄 データ提供=前川修満)