キュッキュッキュッ、キュキュキュ。
 浜の砂が、遠慮なくオヤジ臭を放つ中年ラン鉄に、無邪気に話しかける。
 京丹後市、琴引浜――。
 鳴き砂で知られる、小さな海岸が、若狭湾の穏やかな波を受け止める。
 まさに白砂青松の景色。秋の日ざしのなか、砂の上をゆっくり歩くと、キュッキュッと音を奏でる。
「石英という砂粒がこすれてこんな音が出るんですわ」

山陰線と宮津線が導く砂トーク


 琴引浜と他愛のない話をしに、京都駅から、山陰線、宮津線を伝って網野へ。
 京都の山陰線ホームで中年を待っていたのは、肌色に赤の381系。
 国鉄時代に登場した振り子電車のパイオニアは、山陰線や伯備線、紀勢線などでいまもシレッと活躍している。
「あいかわらず、スタイルいいっすね。485系や183系と違って、セクシー」
 この「はしだて3号」の振り子制御に揺られ、山陰線を北上。見た目は熟女っぽいけれど、乗り心地はマッスル。
 山道を右へ左へ身体を振りながら、ゴリゴリ駆ける。床下の音色はサンバだ。
 天橋立で豪快な仕事をみせる昭和の振り子電車から、平成の気動車へ。
 京都からの客はみな日本三景の砂州へと向かうが、中年は、無残にもスルー。北近畿タンゴ鉄道の客となる。
 人気デザイナーのレトロニューな気動車で、国鉄時代の宮津線の面影を拾いながら、コトンコトンと行く。
 網野。硬い紙製きっぷを駅員にわたし、鳴き砂を目指して海へと向かう。

「さば寿司がこのへんの名物です」


 駅構内にある観光案内所の人が、ゆっくりした口調で教えてくれた。
頼んださば寿司は、ウェディングケーキのようなビジュアル。カラフルで、錦糸たまごがやさしくて、椎茸が濃厚で、さばの味付けが微妙に甘くて…。
 茶碗蒸しのなかに隠れていた、ヌルッとした食感の正体を聞いたら「あ、これはね、生麩よ」。
 潮風も生麩も、やわらか。若狭湾。

新幹線や高速道と離れたスロー美


 語りかける砂浜は、日本のどこにでもあるような、海岸風景だった。が、白砂青松とたとえられる美が、ある。
「鳴き砂はね、タバコの煙を吸っちゃうと、鳴かなくなっちゃうんですわ」
 砂の声を絶やさぬよう、地元は浜辺を禁煙化。みんなで掃除することで、キュッキュッと、奏で続ける。
 はぁ、とため息をもらしながら話す人もいる。浜辺を歩いていると、ハングル語や中国語が記されたペットボトルやポリタンクが、見つかる。
「注射器や点滴バッグとかがゴソーッと浜に漂着するときもあるんよ」

鳴く浜、泣く海、嘆く人。


 日本海の泣き声を、感じ取れなかった中年ラン鉄、情けないばかり。
「このへんはね、いわゆる京都弁じゃない。山陰のことばに近いかねえ」
 地元の人のことばは、中年が知っている京都弁とはまるで違う。どこかやさしいトーンで、のんびりした感じ。
 山陰線の381系がサンバならば、琴引浜のやさしい声は、ボサノバ。
「また来てくださいな、遠いけど」
 函館や金沢に新幹線がやってきて、沿線はにぎやか。
 だけど、若狭湾の音を奏でる浜は、列車を乗り継いで、うんと歩いて、たどり着きたい。
 これまでと変わらない、この感じで。
 日が暮れて、網野駅。丹後の山並みの向こうから、平成生まれのKTR8000形が、静かに近寄ってきた。

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2015年1月号に掲載された第29回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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