花井悠希の朝パン日誌 vol.10
粉のうまみを存分に味わう…〈チクテベーカリー〉と〈ボネダンヌ〉。

ラブレターのごとく、パンへの思いの丈を心のままに記してきたこの『朝パン日誌』も、今回で10回目となりました!読んで下さっているみなさま、ありがとうございます。

今回は記念すべき第10回ということで、パンの魂というべき粉の味、小麦やライ麦の味わいが脳に心にガツンと印象に残ったパンをご紹介します。

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全てにワケがある…〈チクテベーカリー〉の「りんごパイ」と「ハチミツ山食パン」。

「りんごパイ」

まるでこれは小さなお姫様のための王冠。手書きタッチで書かれたような愛らしい王冠の中には、ザクザクと大きめにカットされたりんごがコロンコロンと詰まっています。

肉厚な外側はザクザクと、とにかく香ばしい。可愛らしい見た目に反して、その小麦の香りは、男らしくたくましく、パイの一層一層は力強くて、バリバリと勇ましい音をたてていきます。その香ばしさに嬉々として応戦していると、後の方からやってきたのは、バターの妖精。先程までの男らしさはどこへやら、甘やかな風味に包まれます。そして余韻はまろやかな甘み中に消えていきました。この駆け引き上手さん、もしやツンデレですか!!(←違

中のザク切りりんごはね、もうご馳走です。

柔らかいけど歯応えが残るくらいに火を入れられたりんごは、甘酸っぱく、そのひとかけらひとかけらに、きゅっと酸味と甘みが閉じ込められて、この甘酸っぱさにトキメキます。キュンってくる。あ、これか、青春の味って。(←違(2回目)

朝露に濡れたように、砂糖の雫がりんごの上で光っているのもまたポエジー。迷いこんだ森の中で、香りにつられてたどり着いたパン屋さんには、こんなりんごパイがあってほしい。勝手にファンタジーを感じてしまうパイでありました。

「ハチミツ山食パン」

食パンの子供かなと思う小さなサイズ感だけど、味は立派な大人の食パン。

まず感じるのは天然酵母らしい酸味です。私、コーヒーにしてもハーブティにしても梅干しにしても(!?)、酸味が強いのがあまり好きではなくて、それはパンにおいても同じくなのですが、これを食べた時、初めてパンの酸味のあり方に納得できた気がしました。

ぶわりと登り立つ小麦の香り、つぶつぶと小麦の粒が練りこまれ、大地を感じるような生命力のある味わいにはこの酸味はとてもしっくりくる。このパンを構成する一つ一つに意味を感じます。シンプルにバターのみで食べると、この酸味や穀物のたくましさをダイレクトに感じることができました。

そして、これまで食パンは食事には合わないと思っていたけれど、初めて食事と合う食パンに出会った気がします。お料理の味にも負けない酸味と香り。お料理の様々な風味の隙間から、しっかりと姿を表します。はちみつ食パンって書いてあったからてっきり甘い食パンと思ったら全然違いました。穀物の美味しさを引き出すための、ほのかな甘み。削ぎ落とされた無駄のない食パンです。

チーズトーストにしてみました。

ブラックペッパーもガリガリして洒落っ気出してみました!普通のとろけるチーズの三倍厚みがあるものを載せているのですが、そのコッテリした味にも負けない強さがあって、しっかりその酸味と香ばしさが顔を出してくれました。いろんなトーストや、料理と合わせてみたくなる、探究心を刺激される食パンです。

空間もご馳走…〈ボネダンヌ〉の「栗とセーグルのパン」と「タルト・オ・ポム」。

三宿の住宅街に現れる小さなパン屋さん「ボネダンヌ」。一歩足を踏み入れたら、もうパン好きの心を掴んで離さない魅力的な面々が待ち構えています。

可愛い姿の甘いパンや、焼き色しっかりなハード系のパン、焼き菓子に囲まれて、入店早々に幸せ気分に包まれます。数多の誘惑の中から選んだのはこの2つ。

栗とセーグルのパン」

そのライ麦パンらしいクラムがしっかりしたゴツゴツした外側を見ると、酸味もしっかりあるタイプのハード系ライ麦パンかと思いきや、酸味はほとんどありません。その代わり、口に運んだ瞬間、粉の主張が爆発します!ライ麦の香ばしさがエネルギッシュに弾け、噛めば噛むほど、旨味と香りが広がっていきます。しっかりと焼きこまれているから、最大限に香ばしさとクラムのカリッと感が引き出されているんです。

そして、イタリア産栗蜂蜜がライ麦の味わいの側から奥ゆかしく顔を出し、しっかりと形が残っている栗の甘露煮に寄り添います。その穏やかな甘みとつぶつぶとした栗の食感によって、エネルギッシュな生地に落ち着きをもたらしているよう。薄くスライスして少し温めて、バターをとろけさせて、ぜひ召し上がれ♪

「タルト・オ・ポム」

地層のように隆起し波打ちながら重ねられた薄くスライスされたりんごは、この一つでりんごまるごと1個使われているそう。その見た目はまるで、昔々地理の授業で見た山の地形図のようです。

小高い山を開帳すると(こんな言葉初めて使った!)、薄く切られたりんごがずらりと重ねられてまるでピラミッド。山の中がピラミッドになっているなんて私聞いてないよ!(歓喜)

圧巻の見た目です。

惜しげも無く重ねられたりんごは、とても柔らかく煮られていて、ふわふわと溶ける。口当たりがとってもソフトで、しゅわしゅわしゅわしゅわと、口内で泡となって溶けていきます。何層にも積み重ねられているのに、はむって頬張ればその層はいとも簡単に崩れ、柔らかく一体となります。余韻はとろーん。

コンポートによくある甘さが強めのものではなく、りんごの自然な甘さ第一!な仕上がりも、とても好み。このりんごの量を考えると納得です。

それを受け止めるパイは、バターの味わいたっぷりで、底は特にカリカリと香ばしく焼きあがっています。それが柔らかなりんごの質感、ナチュラルな甘み、パイのバターの華やかさに一点のアクセントに。チクテベーカリーのアップルパイが、森の中が似合うなら、ボネダンヌさんのアップルパイは、綺麗にセットされたテーブルで眩しい朝日を感じながら頂きたいアップルパイ。

こちらのお店はバゲットも人気で、その場でバゲットサンドイッチも作ってもらえるんです。見るからに美味しそうなサンドイッチを、近々また食べに行きたいと狙っています。

第10回ということで、パンの要、生地の美味しさ、粉の美味しさに感激したパン達を紹介しました。ですが、両店ともにアップルパイを選んでいる私。自分のアップルパイ好きを自覚する回ともなりました(笑)。これからも好きなパンのテイストは偏るかもしれませんが、お付き合い頂けたら嬉しいです!