経営コンサルタントの大前研一氏

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 日本の生産性が低いことや、ブラック労働などが社会問題化し、政府は働き方改革を重要政策のひとつにあげている。経営コンサルタントの大前研一氏が、そのために必要な「見える化」が企業にとってもいかに重要かを解説する。

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 いま多くの日本企業で、人材戦略の練り直しが求められている。とりわけ、ICT(情報通信技術)が急速に進化しビジネス環境が激変する中で、それらに十分対応できていないホワイトカラーの生産性の低さが日本企業の給料が上がらない原因ともなっている。

 かつて私は、安倍政権の「働き方改革」を批判しつつ、会社を窮地から脱出させられる人材、あるいは従来よりも効率的で質の高い仕事のやり方を考えられる人材を育てるためのキーワードは「見える化」だ、と述べた。

 実はこの「見える化」というのは非常に重要なキーワードで、採用や育成についてだけでなく、開発や構想を練る上でも武器となる“世界標準”の能力である。

 たとえば、グーグルのラリー・ペイジやフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、テスラのイーロン・マスクら、世界で時価総額トップ10に入るような巨大企業を生み出した起業家たちの共通項は、プログラミングという「見える化」していく分野で子供の頃から頭角を現わしていたことである。

 もちろん、プログラミング能力は十分条件ではないし、単なるコーディング能力(設計書や仕様書を基にコードとして記述していく作業)の問題でもない。プログラミングは、リアル社会とサイバー社会を結ぶ道具であり、「こういうことができたらいいな」と頭で考えたことを実現する手段だが、それを駆使して自分の構想を「見える化」することに意味がある。

 一例として、100人の顧客を抱えている営業マンが、どの顧客を、どれくらいの頻度で、どんなルートで回ったら最も効率が良いのか―ということを考えるとしよう。プログラミングができない人は、自分の経験や勘に頼るしかない。

 一方、プログラミングができる人は、顧客データをインプットしてAI(人工知能)に最適解をアウトプットさせることができる。つまり、答えを導き出すプロセスを「見える化」し、その先を見通すことができるのだ。さらにフェイスブックなどのネット上で見つけられる当該顧客の情報を訪問計画に連動させて入り込めれば、インパクトのある営業トークを繰り出せる。この差は極めて大きい。

 優れた起業家や経営者というのは、小さい頃からそういった発想で物事を見る癖がついている。

 たとえば、シスコシステムズのジョン・チェンバース会長(12月に退任予定)。彼自身はプログラミングが得意ではなかったが、新しい仕掛けを生み出す能力が卓越していた。わかりやすい例では、納品した機器が壊れたらサービスマンを派遣しなくてもネット経由で修理できてしまうシステムや、社員の出張経費精算をカード会社のアメックスに委託して間接業務とコストを大幅に削減するシステムなどを構築した。そうした改革によって売上高を40倍に伸ばしたのである。

 そういう“絵”が描けるかどうか、すなわち頭の中の考えを「見える化」できるかどうかで企業の将来は決まるのだ。「見える化」できさえすれば、今はICTによって、ほとんどの発想が実現可能だからである。チェンバース氏も、退任を前にした最後の基調講演で「インターネット・オブ・エブリシング(IoE/*注)だ」と強調している。

【*注:IoE(Internet of Everything)/「すべてのインターネット」と訳される。パソコンやスマホなどのIT機器にとどまらず、日用品など様々なモノがインターネットにつながり情報を送受信する仕組みをIoT(Internet of Things=モノのインターネット)と呼ぶが、IoEは、モノだけでなく施設やサービスなども含めた概念とされる】

※週刊ポスト2017年11月17日号