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シリアルキラーの「スマート化」

 神奈川県座間市で発覚した、9人もの被害者の頭部がクーラーボックス内から発見された異常な事件について、最初は言及するつもりがありませんでした。

 しかし、報道される内容を追うにつれ、この事件の背後に情報ネットワークやモバイル化、端的にはスマート化が深く関わっている事実を認識し、本稿を準備しました。

 いまから2年半ほど前、2015年2月に川崎で発生した少年殺害事件についてJBpressの連載で集中的に取り上げさせていただきました。

 そこでは「LINE」を通じてやりとりされる内容が、あってはならない事件の発生に強く関係していました。その後、模倣犯などが続出していないことを祈るばかりです。

 今回の座間の事件でも、LINEや「ツイッター」 「カカオトーク」などのソーシャル・ネットワーク・メディアが多用されたことがすでに報道されています。

 メディアのアビュース、濫用があった以上、システマティックな再発防止が必須不可欠と思います。その観点から、以下記してみたいと思います。

ツィッターおとり捜査による検挙

 まず、今回の事件が明るみに出た経緯から確認してみたいと思います。

 というのも「ツィッターおとり捜査」という、ほとんど前代未聞の捜査手法が用いられた結果、捜査陣があり得ない現場にいきなり直行という、かつてない経緯で犯行が発覚しているので、そのプロセスを確認しておきたいと思います。

 本稿は11月3日金曜日、文化の日に京都で記していますが、ことの発端は10月下旬から行方が分からなくなった、都下八王子市内の女性(23)の兄が、妹の安否を心配してツィッターで情報提供を呼びかけたことから、物事が明るみに出ました。

 この女性は希死念慮の傾向があり、9月20日に「一緒に自殺してくれる人を探している」と書き込んでおり、それを見つけた兄が、疑わしいやり取りをしているツイッターアカウントのハンドルネームを発見・・・・

 これが、今回逮捕された容疑者のものだったわけです。

 兄が「妹が行方不明になった」という事実とともに、関連の情報提供を呼びかけたところ、そのハンドルネームの人物と面識があるという女性利用者から連絡があり、自殺を手伝う云々、同様のやりとりをしたことを確認。

 兄は10月24日火曜日(本稿執筆のたった10日前のことです)に捜索願を高尾署に提出。ここで警察から女性利用者に「容疑者をおびき出してほしい」と依頼があり、10月30日月曜日に八王子市内の駅に現れた容疑者を捜査員が尾行、最終的にたどり着いた座間のアパートの一室が、報道されるような状況になっていた。

 木を隠すには森の中、などと言う通り、大半はごく普通の市民が善良な日常生活を送る場であるものの、日本全国のおびただしい家屋の中には、通常の想像を絶する犯罪が行われているケースも残念ながら存在している。

 総当り方式で行けば、現実的な時間と手間で、警察が捜査し尽くすことは不可能でしょう。

 しかし、ツイッター、ないし、元を辿ればヒトゲノム計画期に急速に伸びた、自然言語処理技術応用のアプリケーションによって、バーチャルなネットワークを通じてリアルな犯罪の実態が明らかになった・。

 そういう、新しい「おとり捜査」の側面も注目する必要があります。しかし、それ以上に懸念せざるを得ない点がいくつも目についてしまいます。

 端的に言って、たった2カ月=8週間ほどで9人の犠牲者が出ているらしい。いったいどういうハイペースなのか?

 この「高速化」そのものが、実は、ツイッターやLINEなど、SNSの普及で著しく加速した「スマート化」の結果である点に、注目せざるを得ないのです。

「人と人を結ぶメディア」の両刃の剣

 ツイッターなどのSNS、いや、もっと源流を辿るなら、1995年以降のインターネットの民生開放の初期から

 「個人と個人のノードが直接やり取りできる」「P2Pネットワークで暮らしが変わる! スピードアップする!!」

 といった内容が、ばら色の未来のごとく語られてきました。しかし、実際には2カ月で9人のシリアルキラーといった前代未門の「スピードアップ」で「暮らしが変わ」ったりもするわけす。

 およそ技術のかかわる物事には、功罪の両面が必ず存在すると言えるでしょう。

 世の中には「自殺」に関連するインターネットサイトが存在し、それを媒介として集団自殺が発生したり、自殺志願者ではない人物が、希死念慮をもった人と接触したりする事例があることも、残念ながら事実として認めざるを得ません。

 私自身は正直言って、そういったサイトへのアクセスなどおよそ大嫌いな部類で、ほとんど見たことがありません。

 10年ほど前だったでしょうか、ある人が、面白半分にそうしたサイトにアクセスして、希死念慮をもった人と会い、一緒にドライブに出たといった内容を、面白そうに語るのを見て、何ということか、とゾッとしたことがあります。

 自殺サイトにおよそアクセスしようなどと思わないもう1つの理由として、この30年来、私の身の回りで何件かの自殺が起き、防げたかもしれない衝動的、発作的な行動を防げなかった結果、変わり果てた姿と対面せざるを得なかった、自分自身の経験や記憶も深く関わっています。

 政治的な自死、武士の切腹や、自爆特攻など、人為的なケースを除いて、今日の日本社会で発生する大半の自殺は、「欝の発作」として理解すべきものと思っています。

 そのような観点から考えると「自殺サイト」に集まる、希死念慮をもつ人をターゲットに悪事をたくらむ人間の行動はネットワーク上の「ワンクリック詐欺」や「オレオレ詐欺」などと似た側面が浮かび上がってきます。

 生理的に弱っている人、病気だったり、認知に問題があったりする人の弱点につけ込んで悪事をなす。非常に由々しいことだと言わねばなりません。

 加えて、ツイッターの自己紹介欄に「自殺志願」といった内容を記すこと自体が、極めてリスキーな「個人情報の開示」になっていることにも注意する必要があります。

 私は1999年から2006年まで、大学で必修の「情報処理」を教えてきましたが、そこでは

 「大学のサーバから発信する情報はすべて実名が原則」

 と教えます。この種の事柄をネット上のコラムに記すと、ある時期までは必ず

 「インターネットは匿名の文化」「匿名だから書けることもある」

 といった読者リアクションがあったものでした。すなわち、日常生活の本名と顔をさらしては書くことができない「心の真実」を吐露できるのも「インターネット文化」の重要な特徴である云々。

 「2ch」などの匿名情報を過剰にプラスに評価する人もあり、そんな中の1人に、先ほど記した「自殺サイトで知り合った人と海岸や森の中をドライブ」という、おかしな行動で喜んでいた人物がありました。

 しかし、考えてみると、自殺サイトのような場所に、社会的に個人を特定される本名や住所、自分の顔をさらして訪れる人、書き込みをする人が、どの程度いるのか?

 数比や割合などは分かりませんが、少なからざる書き込みが、本名を秘匿してのアクセスによるのではないかと思います。

 「そういう場所で精神の暗部を吐露できるから、窒息せずに生きていける」

 という声も、確かにあるでしょう。しかし、今回の事件の容疑者のように

 「本当に苦しい人の力になりたい」

 などと書き込み、やはり本名や物理的な居住アドレスなどを隠し「首吊り士」などと称してメンタルに弱っている人に近づき、楽に死ねる、etc などのやり取りを、欝の症状が進行している人とダイレクトに交わせてしまう。

 そういう「スマート化」「スピードアップ」が、今回の、前代未門と言うべきハイペースのシリアルキラー事件を発生させてしまった面が、はっきり、存在すると考えられます。

 ネットワーク上の「表現の自由」、あるいは、疑わしい行動を取るものへの事前の規制などをめぐっては、法的にグレーであっても、ベンダーの判断で賢慮が徹底されるべきと、個人的には思っています。

アカウントを停止させられたドナルド・トランプ

 11月2日、ドナルド・トランプ米大統領のツイッター・アカウントが約11分にわたってアカウント削除される、という近年なかなか耳にしない椿事がありました。

 退職するツイッター社の顧客サポート従業員が行った配慮であるようで、11分後にツイッター社がアカウントを復活させてしまいました。

 しかし、このメディアを通じて政敵を攻撃したり、北朝鮮を挑発したり、どう考えてもアカウント停止が妥当なゴミツイートを停止したこの「顧客サポート従業員」氏の健全な判断と、果敢な実行力にエールを送りたいと思いました。

 少なくとも日本の大学生が学内サーバから同じような発信していたら、何らかの処分を受ける低レベルさを特徴とするものだからです。

 ニューヨークで起きたテロ事件の容疑者を、捜査が進む以前の段階で「死刑にすべき」とガナリ立てる低レベルの見識しかない恥ずかしい大統領の存在も歴史的なら、それに擦り寄って安心立命という情けない幇間も国の汚点と思います。

 しかし、国境をまたぐ情報メディアは一国法の規制によって統御し切ることが不可能です。

 そんなとき、仮に相手が権力者であろうと、おかしいことはおかしい、とアカウント停止の措置を講じる判断が、よほど健康・健全と指摘しないわけにはいきません。

 同様の措置が、もっと早くに「首吊り士」などに対して講じられていれば、たった最近2カ月、夏の甲子園が終わってから10月末までのこんな短期間に、こんなにおぞましい事件が引き起こされることはなかったはずです。

 「規制強化」と見える内容には、やみくもな批判が多く寄せられますが、ことこうした問題に関しては「覆水盆に帰らず」、何かあってからでは遅すぎます。

 身近で「オウム真理教事件」というあってはならない出来事が起きてしまった私にとっては、安全を見て、早め早めの対策は、必須不可欠のネットワーク良識なのです。

 なお、今回発見された9人の遺体のうち、1人は男性で、先に命を落とした彼女を心配してやって来たカップルの男性を殺害したもの、と報じられています。

 そんなことは無関係に「死にたいやつ9人を死なせたんだからいいんじゃないか」式の、まともに文章も読めないネットワーク上の匿名落書きを多数目にしました。

 こういうのが一番、社会をだめにする元凶になっているように思います。

 単に「怖すぎ」「あり得ない」などとして、まともな思考の目を瞑り、自分とは無関係の理解不能な事件、と奉ってしまう人。そういう人をターゲットに、新たな犯罪の魔手が、スマートに、スピーディに襲って来るように思います。

 これだけメディアに乗ってしまうと、ある種の模倣犯や類犯のリスクも避けられません。定見をもって、決然たる再発防止の施策を立案、実施する必要があります。

 こんなバカなことを野放しにしてよい社会があってよいはずがありません。

 本稿の準備で情報をスキャンする過程で愚かな若者のあり得ない落書きも多数目にして、世間全体が正気を保つ必要を痛感しました。

筆者:伊東 乾