小林製薬といえば、ユニークなネーミングが有名です。その経営哲学とは?(写真:小林製薬)

この9月末に筆者が司会をした異業種交流会があり、そこで小林製薬(大阪市中央区道修町)の小林豊副会長にご講演をいただきました。舞台脇の司会席でお聞きしていたのですが、これが実におもしろい。当連載、普段はなにわの中小企業の意欲的な試みを取り上げているのですが、今回は東証1部上場、従業員単体約1200人、グループ約3000人の大企業の経営哲学をご紹介します。

意欲的な取り組みが満載


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小林製薬には、中小企業の経営者にとっても、参考になる意欲的な取り組みが満載です。小林製薬といえば、ユニークなネーミングが有名です。「ブルーレット」(水洗トイレ用芳香洗浄剤)、「熱さまシート」(額用冷却シート)、「ナイシトール」(肥満症対策薬)など、名前を聞くだけでその効用がわかるのが特徴です。

たとえば「ブルーレット」ですが、現会長の小林一雅氏がアメリカ留学中、現地の芳香洗浄剤からヒントを得て、帰国後4年の開発期間を経て1969年に発売されました。当時から、同社のマーケティングの基本である「わかりやすさ」が貫かれ、発売以来約半世紀、人気のロングセラー商品となっています。

しかし小林製薬が、2016年12月期まで19期連続の増益、18期連続の増配を遂げたのは、この「わかりやすさ」だけが理由ではありません。「“あったらいいな”をカタチにする」ためのさまざまな取り組みについて、次節から具体的に見ていきたいと思います。

小林製薬は、大阪・道修町に本社があります。田辺三菱、第一三共など大小の製薬会社がオフィスを構え、競合相手が目の前にひしめく、江戸時代から続く「薬の街」です。その中で、売り上げ1201億円、当期純利益143億円(2016年12月期)を上げています。同社が厳しい競争に勝ち抜き、好業績を続けている要因には、独特の成り立ちがあります。

創業は1886年、当初は雑貨や化粧品の卸売りの会社でした。そのため、メーカー事業に参入する際は、ほかの取り扱いメーカーに迷惑をかけないよう、世の中にない商品・市場を開発しなければなりませんでした。これが今も同社の経営理念となっている「創造と革新」の原点です。自分の力で新しいものを創り出すこと(創造)と、今のやり方・考え方を変えて新しくすること(革新)は、単なる掛け声ではなく、創業以来の信念なのです。競合している他社に比べ、「何か新しいことがしたい」「何か違うことがしたい」が社員全員の思いでした。

「小さな池の大きな魚」戦略

そこで同社は、誰も見つけていない新しいニーズを見つけ、アイデアを開発し、誰よりも早く製品開発して顧客満足のための改善を繰り返す、というビジネスモデルを構築しました。「小さな池の大きな魚」戦略です。

経営戦略論として、レッドオーシャン(競争の激しい海域)とブルーオーシャン(競合相手のいない海域)という考え方があります。血で血を洗うような競合市場より、競争のない未開拓領域を切り開くべきだ、という考え方です。この考え方に倣えば、小林製薬の戦略は、ブルーポンド(未開拓の小さな池)ということができます。

競合が多く、大手企業が参入しており、マーケティングコストが高いレッドオーシャンは、たとえそれが大きな市場でも、同社として大きなシェアを得られないと考えられます。仮に100億円市場とすれば5%のシェアで100億円×5%=5億円の売り上げが期待できる程度です。目を小さな池に向ければ、10億円の市場規模でも50%のシェアが確保できる可能性があります。売り上げは同じ、10億円×50%=5億円です。そして、大手企業が参入せず、マーケティングコストが低いことから、シェアはさらに伸ばせる可能性もあります。


小林製薬の「小さな池の大きな魚」戦略は、多くの商品分野で成果を上げている(図表:小林製薬)

この小林製薬の「小さな池の大きな魚」戦略は、多くの商品分野で成果を上げています。洗眼薬分野で「アイボン」は68%、女性保健薬分野で「命の母」は58%、口中清涼剤分野で「ブレスケア」は77%、水洗トイレ用芳香洗浄剤分野で「ブルーレット」は75%、額用冷却シート分野で「熱さまシート」は58%、そして傷あと改善薬分野での「アットノン」のシェアは、なんと93%を占めています(2016年12月小林製薬調べ)。


なぜもっと大事な眼球は洗わないのだろう、というのが開発の契機になったアイボン(写真:小林製薬)

ここで「アイボン」の開発経緯を見ると、素朴な疑問から新市場が創造されたことがわかります。コンタクトレンズを外したとき汚れたレンズは洗うのに、なぜもっと大事な眼球は洗わないのだろう、というのが開発の契機でした。ターゲットをコンタクトレンズユーザーに絞って提案し、新市場を創造しました。現在はマーケットが70億円まで拡大、シェアは先に述べたように68%と圧倒的優位を保っています。

そしてこのブルーポンド戦略は、多くの中小企業にとっても有効な成長のヒントになるのでは、と思います。取り扱う製品のマーケットが小さくても、大企業が参入してこなければ利益率も確保できますし、そこで寡占状態を維持できれば、安定した業績が見込まれます。ぜひ、小さな池で大きな魚を育ててもらいたいものです。

小林製薬、といわれて直ぐ思いつくのは、そのユニークなネーミングですが、それは同社の標榜するビジネスモデル「わかりやすさの追求」の1つの側面にすぎず、その他と併せ4つのディメンションがあります。

4つのディメンション

,錣りやすいコンセンプト:一目見てわかる明快なコンセプトに基づいた製品づくりを心掛けています。たとえば、「ブレスケア」は、「ニンニク料理・アルコールの後に」と明記され、「生葉」は「歯槽膿漏を防ぐ」と大きく朱記されています。

△錣りやすいネーミング:その名前から製品イメージが湧くよう、全社挙げて工夫しているところです。「トイレその後に」「熱さまシート」「しみとり〜な」「サカムケア」など、直接その効能を訴えているものから駄洒落っぽいものまで、どれも1度聞いたら忘れられない製品名になっています。


何に効く製品かが一目瞭然だ(写真:小林製薬)

わかりやすいパッケージ:パッケージを見れば、何に効く製品かが一目瞭然です。「のどぬ〜るスプレー」のパッケージには大きく開いた口にスプレーで噴霧しているイラストがあり、「アイボン」のパッケージには専用容器を使って眼球を洗っている絵が描いてあります。これなら外国人でも、その用途がすぐにわかります。

い錣りやすい広告:わかりやすい広告とは何か、を突き詰めていくと、顧客の問題に対しこれを使えばこのように解決します、ということを訴える形に落ち着きました。まず「企業紹介(あ、小林製薬!)」→「問題(こういうときって困りますよね)」→「紹介(だったら〇〇がいいですよ)」→「解決(△△成分が効いていきます)」→「ハッピーエンド(よかった、小林製薬の〇〇)」というストーリーです。問題提起解決型のCMが最も印象に残る、ということです。

そして小林製薬で最も力を入れているのは、とにもかくにも、いかにいいアイデアを出すか、ということに尽きます。

「あったらいいな開発」で年間約2万8000件の提案

そのための全社挙げての運動が「あったらいいな開発」です。全社員が毎月1件以上のアイデアを社内イントラネットを利用して提案します(社員提案制度)。年間で約2万8000件の提案が集まります。またこれとは別に、開発担当者がこれはというものを考えて具体化し、毎月1回、社長に対して新製品アイデアのプレゼンを行います(アイデアプレゼン)。社長は、年間約250件のプレゼンを受けることになる、というから大仕事です。

しかし、大変なのはここからです。社長による陣頭指揮の下、月に1回「開発参与委員会」で現場の担当者が現物を提示しながら、さらに具体的なプレゼンを行います。関係者全員が議論することでその場で結論を出し、スピード感をもって開発を進める体制が出来上がっています。ただプレゼンも詳細にわたり、数もそこそこあることから、この委員会は2日にわたります。講演をされていた小林副会長も「さすがにこれは疲れます」と本音を漏らしていました。しかし会社の将来を占う大事な会議です。会社幹部も開発担当者も、毎月、必死で取り組んでいます。

こうした日常的なアイデア提案とは別に、年に1度、グループ全社挙げての「全社員アイデア大会」も実施されます。全社員3000人が、創立記念日である8月22日に各職場で一斉に新製品アイデア会議を開催します。今年は2581のアイデアが出され、グループ・課で代表アイデアの選考が行われました。その後、絞り込まれた272のアイデアについて、各事業部で最終候補を選び出します。選び抜かれた19のアイデアで決勝大会が行われ、優秀賞が決定します。優勝したアイデアは、表彰とともにすぐに製品化に向けて開発がスタートします。スピードの重視は、ここでも徹底しています。

製品開発は社長が陣頭指揮、と書きましたが、会社幹部と一般社員の距離が近いのも同社の特長です。優秀提案者や提案数が多かった者などを対象に、年1回、トップをはじめ役員方と自由に話ができる夕食会の開催も、そうした流れの一環です。


権威主義・官僚化の排除を目的に導入された「さん付け呼称」(写真:小林製薬)

もう1つユニークなのが、「さん付け呼称」です。1995年、権威主義・官僚化の排除を目的に導入されました。突然肩書がなくなって「〇〇さん」と呼ばれることから、当初は猛反対にあったそうです。しかし始めてから20年以上、今ではすっかり定着しました。なお同社の代表者3人は、みな小林姓です。そのため、現社長は、ファーストネーム(章浩)の頭文字(A)をとって「Aさん」と呼ばれています。トップとの距離も確実に縮まった感があります。

中小企業が見習うべきだと思ったもう1つのポイントが、同社の「経営哲学」でした。といっても同社らしく、「小林製薬が大事にしている精神」とわかりやすく言い換えてくれています。

成長を実感するのは

ゝ婉が人を育て、順境が人を駄目にする

順境といういすは座りやすく、逆境といういすは座りにくい。しかし人が成長を実感するのは、座りにくいいすに何とか努力して座れたときだ、ということです。

継続は悪、変化が善

毎日ルーティンの仕事を続けていれば問題は起こらないかもしれない。でもそこに成長はなく、停滞が待っています。同社の代表的製品「ブルーレット」の例でいえば、発売以来48年、容器の大きさや液を排出する穴の場所・大きさの調節、安全性(食品に使う食紅を使用)など工夫を重ねて今日に至っています。もともと製造法が難しく、機構が複雑だったことから、発売後も改良に改良を重ねてきました。この絶えざる工夫が、今の「ブルーレット」ブランドを支えているのです。

J儔修常態、不変は敗者

今の世の中は変化のスピードが速く、変化は当たり前。不変だと成長できずに、敗者になる時代です、変わらないリスクのほうが、変わるリスクより大きいことを肝に銘じなければいけません。

ぜ孫垠觴

これからの時代、企業間の優劣を決めるのは何でしょうか。企業は頭でっかちの頭脳集団であってはいけません。あくまで実行結実の執行体であるべきです。

ダ功の復讐

絶頂期にこそ、悪い芽が育つことを忘れないようにしましょう。慢心を戒め、絶えず危機感をもって仕事にあたらねばなりません。創業時の心得である「営業要旨」に、「薄利主義、多売主義、迅速主義」が3大意義として挙げられていますが、つねにこの創業時の哲学に立ち返るよう心掛けています。

100-1=0の経営

100の中で1つでも失敗、不満足、不都合があれば、それはゼロに等しいということです。これは実に厳しい考え方ですが、並外れた顧客志向を目指す同社としては、妥協を許さぬ姿勢を内外に示しているのです。

大阪人らしいユーモアが持ち味の会社

「経営理念」ということから幾分堅苦しくなりましたが、同社は本来、大阪人らしいユーモアが持ち味の会社です。そして今年8月22日に創立100期を迎えましたが、その記念として実施されたのが、いかにも同社らしい「小林製薬川柳大会」でした。グループ全社員も参加して4254句もの応募があった、というから驚きです。複数応募の人が何人もいたということです。厳正な審査の結果、選ばれた最優秀賞は次のとおり。

「結論は?」 家族の会話に 小林病

結論から話す、という会議発表のスタイルが、無意識に家庭でも出てしまう、という反省(?)を込めた一句でした。筆者はこのほかに、優秀賞の「たくさんの あったらいいな!を もう100年」、佳作の「外国人 見かけるたびに ありがとう」などで思わず口元が緩みました。

特に後者は、中国人の間で大人気の「12の神薬」に同社より5品が選ばれ、それを含む19品目でのインバウンド売り上げが国内売り上げの約5%に達した、という現状をうまく表現していると思いました。地下鉄で外国人観光客ご一行を見ると、「たくさん買ってくれてありがとう」と心の中で思わず唱えてしまう、という作者の姿が目に浮かびます。

一歩も立ち止まらない、という攻めの経営の同社ですが、一方で、道修町の商人(あきんど)のほんわかした雰囲気も色濃く残しています。ここらあたりの呼吸を、大阪の中小企業もぜひ見習ってほしいと思いました。