コンビニ業界の知られざる裏側を、内情に詳しいライターの日比谷新太さんが詳細にレポートする当シリーズ。前回の「コンビニチェーンの決算」に関する話題に続いて、今回取り上げるのは「優しすぎるコンビニ店長」について。人材難のなか苦労して雇ったアルバイトやパートに逃げられないように、店側はあれやこれやの方法で引き留めを図っているとのことですが、なかにはアルバイトたちに過剰なほど優しく接する店長たちもいるようで……。

急増している「優しすぎる店長」

全国津々浦々にあるコンビニの店長やオーナーが、いま共通して抱えている悩みといえば、何といってもアルバイトやパートの確保ではないでしょうか。

ここ数年は、アルバイト求人数が求職者数を上回る「売り手市場」となっていて、優秀な人材の採用が非常に困難となっています。また、採用したアルバイトやパートがなかなか定着せず、すぐに離職してしまうことも多いようです。

そのような状況が影響しているのでしょうか。最近よく耳にするのが、アルバイトやパートに対して「これでもか」というほど優しく接する店長たちの話。「いくらなんでも、気を遣いすぎなのでは?」というエピソードもあったりするのですが、それも最近の人材難を考えれば、仕方のないことなのかもしれません。

仕事終わりにジュースのご褒美

ある店の店長は、勤務シフトを終えた高校生のアルバイトに「おつかれさまジュース」をプレゼントしているんだとか。

授業・部活・受験勉強など何気に忙しい高校生活。その合間をぬってアルバイトに入ってくれる彼らを、なんとか励ましてあげたいんでしょう。その店長は、アルバイトが勤務シフト終了後に好きなジュースが買えるように、専用の電子マネーカードを事務所の机に常備。高校生のアルバイトたちは、その電子マネーを使用して「おつかれさまジュース」を購入しているそうです。

シフト休みの代役を店長が探してくれる

コンビニのアルバイトは、決められた曜日時間でシフトが組まれていて、もし自らの都合が悪くなりシフトを休みたい場合は、自分で他のアルバイトに声をかけてシフトの穴埋めを行うのが通例となっています。

ところがある店長は、そんな“シフトの穴埋め作業”を、休みを申し出たアルバイト本人に代わってやってあげているそうです。シフト調整という面倒事を自ら抱えるというなんとも奇特な行動ですが、休みを取りたいアルバイトからすれば店長に対するロイヤリティアップとなり、結果として離職率が下がれば、店としては万々歳といったところなんでしょうか。

廃棄商品をタダでくれる&10円で販売

こちらは税務署が聞きつけるとアウトの事例ですが……。

とある店では、販売期限が切れた商品を店頭から引き下げた後に、その店のアルバイトやパート限定でこっそりセールを行っているとのこと。主婦のパートたちには、午前・午後のシフト終了後に、その日の夕飯になりそうなお弁当やお惣菜などを。また高校生のアルバイトたちには、パン・おにぎり・デザートなどを販売しているそうです。

その店では、基本的には全品10円で販売しているそうですが、なかには無料でもらっていくアルバイトも。過去には、この制度を悪用した大学生のアルバイトが、深夜時間帯に友人を連れてきて、廃棄された弁当を好きに持って帰らせていたことが発覚し、ちょっとした問題になったそうです。

店長の家族が裏方作業を手伝うと……

数あるコンビニの仕事のなかでも、商品の品出し作業(特に飲料が入っているウォークイン冷蔵庫内での作業)は、あまりお客さんの目につきません。この裏方作業を、正式な雇用契約を締結していない店長の子どもなどに手伝わせると、その分アルバイトたちの作業が軽減されて、大変喜ばれるそうです。

同じように、店長自身がアルバイトたちの作業を手伝ってあげると、彼らが喜んでロイヤリティアップに繋がるということで、最近では率先してフォローしあげるという店長が多いようです。

それにしても、先ほどのシフト調整の話にしてもそうですが、アルバイトやパートたちにとって働きやすい職場にしたいという気持ちは分かるものの、それと引き換えに店長の身体的・精神的負担が確実に増えているというのは、いささか考えものなような気がします。後々、思わぬ形でひずみが生じることがなければ……と切に願うばかりです。

 

文/日比谷 新太(ひびや・あらた)

日本のコンビニエンスストア事情に詳しいライター。お仕事の依頼はコチラ→のメールまで: u2_gnr_1025@yahoo.co.jp

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