初代「ロードスター」のレストアサービスは、マツダの情熱とこだわりの塊だった!

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2017年8月、マツダは初代「ロードスター」(NA型)のレストアサービスを開始するとともに、NAのパーツを再生産すると発表しました。

レストア(Restore)とは修復・復元の意味で、ユーザーのクルマを預かり、新車当時の姿へ修復するサービスです。NAは、1989年に誕生したオープン2シータースポーツで、登場からすでに28年、最終モデルでも19年の年月が経過。日本国内だけでも12万台を販売し、現在もなお約2万3000台が現存する人気モデルだけに、こうしたサービスを待ち望んでいたオーナーも少なくないでしょう。

とはいえ、自動車メーカーが過去に製造・販売したクルマのレストアを行うのは、極めて稀なこと。今回なぜ、マツダは初代ロードスターのレストアを行うことになったのでしょうか? その経緯とサービス内容を“ロードスターアンバサダー”としてレストア事業を率いる山本修弘さんに伺いました。

新旧ロードスターのオーナーやスポーツカー好きならば、山本さんのお名前を聞いて、ピンときた方も多いはず。そう、山本さんは現行のND型ロードスターの生みの親であり、開発主査を務められた“あの山本さん”なのです。

山本修弘(やまもと・のぶひろ) 1955年生まれ。’73年、東洋工業(現マツダ)入社。ロータリーエンジンの開発を長年にわたり担当。「サバンナ RX-7」やル・マン24時間耐久レース用エンジンの開発を手掛け、’96年に2世代目ロードスター開発のアシスタントマネージャーに。3世代目ロードスターでは車両開発副主査を、現行の4世代目では開発主査を歴任。現在は、マツダの商品本部でロードスターアンバサダーを務める。

現行モデルの開発を指揮された山本さんですが、実はNDの誕生と初代NAのレストアサービスには、深い関わりがあるのだとか。

「NDの開発時には“モノの価値だけでなく、そのクルマと過ごす時間を楽しんでもらう”ことを念頭に置きました。そして、新車の販売だけでなく、お客さまとの絆を大事にしたいとも考えたのです。

私がロードスターに携わったのは、2世代目のNB型からですが、NAの誕生時、ロードスターが今のような特別な存在になるとは誰も予想できませんでした。オーナーの皆さんたちが各地でファンクラブを立ち上げ、NAを大切にしてくれています。各地のファンミーティングに足を運ぶと、『一生大切に乗り続けます!』といったうれしい言葉を掛けられると同時に、『オリジナルのNAに乗ってみたい』、『自身のNAをオリジナルに戻したい』といった声を聞くことが増えていました。一方で『部品が手に入らなくなったからクラブでつくります』というお話を伺うことも…。そうしたファンの皆さんの気持ちを大事にしたい、との思いから、実は6年前にNDの開発がスタートした際、NAのレストアサービスに関する事業計画も検討し始めたのです」

とはいえ自動車メーカーであるマツダが、レストアを請け負うのは簡単なことではありません。そこで山本さんは、ファンクラブやロードスターの専門店などにも協力を仰ぎ、レストアを希望するオーナーはどのくらいいるのか、どのようなパーツやサービスが望まれているのかなど、入念なヒアリングを行ったそうです。

「企業としてレストアサービスをスタートさせる以上、採算度外視ということはありえません。何より、そういったスタンスで臨んで、一旦、赤字になってしまったら、サービス自体が中止になりかねませんからね。そうならないために、調査や検討を重ねたのです。

そして、プロジェクトが本格的に前進し始めたのは、3年前のこと。商品本部にレストアチームができました。その後、2016年には経営陣の承認を得て、プランも具体的になっていきました。サービスの大きな柱は“マツダがお客さまの初代ロードスターを預かりレストアすること”、そして“NA用パーツの再供給”です。そのために、すべてのパーツの在庫状況や状態を調べたり、部品のサプライヤーさんに相談したりしました」

ビジネスであると聞くと、ドライな印象を受けるかもしれません。でも、ND開発の最前線に立ち、多くのファンが抱くロードスターへの愛情を知った山本さんは、その思いに末永く応えるために、ビジネスとしてサービスを成功させなければならないと実感。「赤字でもいいや」ではなく、長くロードスターを愛してくれるオーナーたちに、高い志を持ち、質の高いサービスを提供したいと決心されたのです。

そうなると気になるのは、サービスの具体的な内容ではないでしょうか。現時点では、現在、手に入らないパーツの復刻と再供給、そして、ユーザーのクルマを預かってのレストアサービスが予定されています。

レストア作業に臨むには、まずはパーツの確保が重要となりますが、販売終了から長い時間を経たNAでは、近年、いくつかの重要部品が入手できなくなっていました。その中には、純正タイヤやソフトトップ、ナルディ社製のステアリングやシフトノブなど、“ロードスターらしさ”を象徴するパーツも多数あったのです。

「まずは、NAならではの、オリジナルのドライブフィールを大事にしたいと考えました。とはいえ当時の純正タイヤは、すでに生産が終了。タイヤは乗り味に直結しますから、絶対にタイヤは復刻したいと考えました。レストアサービスの件をタイヤメーカーの方に相談したところ、ブリヂストンさんが『ぜひやりましょう!』と賛同してくれたのです。

でも、設計図を元に検討会を開いてみても、なかなか納得できるタイヤにはたどりつけず…。そこで、マツダ・ミュージアムに展示されているNAの純正タイヤをお持ち帰りいただき、図面だけでは分からない内部構造などの調査もお願いしました。加えて、当時の“BSロゴ”の復刻もお願いしたのですが、そちらも快く引き受けていただきました」

ブリヂストンでも、さすがに当時の型は廃棄されていたということですが、同社は新たに型を起こし、純正タイヤの形状やトレッドパターンを復刻。とはいえ、タイヤの特性を左右するコンパウンドだけは、さすがに当時のものを入手できなかったため、両社の担当者が試行錯誤を繰り返したといいます。

「コンパウンドは、現在、入手できるものの中から、最も当時のものに近い仕様を選びました。当初は、なかなか当時の乗り味を再現できませんでしたが、何度も修正を重ねることで、オリジナルのフィーリングを再現できたと思います。マツダにもブリヂストンにも、NAの開発に携わっていたエンジニアがまだ残っているので、検討会や試乗会ではそのメンバーたちにも立ち会ってもらったのですが、やはり皆さん、NAに対する思い入れは深いようで、会話も自然と盛り上がりましたね(笑)」

ビニール製のソフトトップもNAロードスターらしいパーツといえますが、こちらも長らく、入手不可能な状態にありました。NAはスクリーン部分が透明のビニール製で、紫外線や風雨による経年変化、また、折り畳み時に生じるシワなどで、劣化が進んでしまったクルマも少なくありません。

「当時、ソフトトップの生地はドイツから輸入していたのですが、すでに現地でも生産中止になっていました。リアスクリーンがガラス製の、NB用の幌を改造して装着しておられるオーナーさんもいらっしゃるのですが、それだとスクリーンだけを開けて風を浴びながら走る“NA開け”ができません。そこで、当時と同じ品質、質感の幌やビニールを世界中から探し出し、なんとか復刻することができました。

また、ナルディ製のウッドステアリングやシフトノブも欠品だったので、リペアして再使用することを検討していました。ところが、ダメ元でメーカー本国の担当者に相談してみると『当時の素材がまだあるので、協力しましょう!』との回答をいただいたのです。こうしたサプライヤーの方々とのやりとりも、いい思い出ですね」

パーツのサプライヤー側にしてみると、生産が終了した部品の型や製造機具を所有し続けることは、コストなどの面を考えると大変なこと。しかも、NAは長寿モデルで、グレードやモデル展開も複雑だったため、さすがに欠品パーツすべてを再生産することはできませんでした。それでも山本さんは、今後もサプライヤー側と再供給に関する交渉を継続していくそうです。

さて、パーツの再供給以上に、多くのNAファンが注目しているのは“車両を預けてのレストア作業”の方だと思います。自動車整備工場で行う“修理”とは何が違うのか、どのような手順なのか、気になる点も多いことでしょう。

「車体やパーツの分解、洗浄、塗装といった作業は、マツダの宇品工場内に併設されたファクトリーで行います。エンジンもリビルト工場で修復する予定です。

お申し込みの受付は、基本的に本社で行う計画で、クルマをこちらへお持ち込みいただくことになります。また、車両状態はクルマごとに異なりますから、あらかじめ入念にチェックし、お引き受けできるかどうかを確認します。大きな事故を経験したクルマなど、修復できないクルマをお引受けしてしまい、分解後に『やっぱりできません』というわけにはいきませんからね。その後、どこまでレストアを施すのかをオーナーの方と面談。そして、最終工程まで本社で作業するという流れになります。ちなみに、関東地方での受付も検討しているのですが、その場合、私とエンジニアが面談に伺う予定です」

まさに、生まれ故郷に里帰りしての徹底したレストアサービス。車両の診断を重視する点は、メーカーならではのこだわりを感じさせる部分といえるでしょう。それゆえ、必然的に完成度への期待が高まりますが、依頼するオーナーは、愛車が復活する姿を直接目にしたり、余すところなく記録に残しておきたいと思われたりするのではないでしょうか?

「レストアをご依頼いただいたオーナーの方には、可能な限り作業をご覧いただけるようにしたいと考えています。また、クルマの修復データをお渡しするのはもちろん、補修内容や補修箇所をビフォー/アフターのスタイルでチェックいただけるよう、写真などの記録をブックレットにまとめ、お渡しすることも検討しています。今回のサービスでは、こうしたプロセスも大事なことだと思うのです。そして完成した暁には、そのブックレットにマツダの認証をつけ、私のサインも入れる予定です」

山本さんは、マツダファンやロードスター愛好家が十分に納得できる内容、サービスをすでに検討されていますが、今回のレストアサービスには、もうひとつ注目すべきこだわりがあったのです。

それは、ドイツに本拠を置く第三者検査機関「テュフ ラインラント ジャパン(TÜV Rheinland)」による認証です。テュフは、自動車メーカー向けの欧州型式認証、板金塗装工場やクラシックカーの評価・認証サービスを提供する機関で、山本さんはNAのレストアにおいて、サービスを行うマツダの社内施設がクラシックガレージの認証を獲得できるよう、現在、取り組んでいるのだとか。

「『マツダはロードスターを生んだメーカーなのだから、自信を持って作業に当たればいいのでは?』という意見もいただきました。でも、私たちは新車をつくってはいるけれど、レストアはやったことがありません。単に元の姿に戻すだけでなく、どのようにお客さまと向き合い、どんな契約をするのか。レストア工場とはどんな工場や設備で、どのような作業のプロセスを踏んでいるのか…。レストアにはレストアの流儀があるのです。レストア車両に対する品質を確保するために、私たちは学ばなければなりません。そのために、サービス開始までに確かな第三者のチェックを受け、『間違いなし』との太鼓判を押してもらう必要があると考えています」

「そこまでやるのか…」と感じるとともに、山本さんの言葉からは、ただの自己満足などでは終わらせないという、決意みたいなものが伝わってきます。それは、ロードスターの開発に携わった、いわば生みの親、育ての親ならではの愛情かもしれません。

「ロードスターの価値は、走る歓びにあると思っています。ガレージに仕舞い込むのではなく、積極的に走りを楽しむ。そうしたファンの皆さんの愛車が、ミーティングに何百台も集まってきます。こうした状況が続くこと、いいクルマを大事にすること、それが文化だと思いますし、今の状況を大事にしたいと考えています。ですから今回のレストアサービスも、簡単には止められないのです」

NAのレストアサービスでは、現在までにレッドとグリーン、2台のサンプルカーが完成。いずれも艶やかで鮮やかなボディカラー、ピシッと張りのあるソフトトップ、そして、わずかにリアが上がったオリジナルの車高など、新車当時の姿を知る人なら思わず膝を打つ仕上がりとなっています。

そして、気になる今後ですが、2017年内に受付がスタート、’18年初頭にはサービスの開始、復刻パーツの発売が予定されています。価格などの詳細については現在、最終検討中とのことなので、マツダからの続報を楽しみに待ちたいと思います。

(文&写真/村田尚之)