新ブランド米「雪若丸」を披露した吉村美栄子・山形県知事ら(時事通信フォト)

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 うまいコメは何よりの明日への活力である。そう感じている人は特にラベルに気を配る時代だ。昨今はブランド米の競争が激しい。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がレポートする。

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「コメ離れ」が叫ばれて久しい。その一方でこの数年、コメの新ブランドが続々登場している。

 とりわけ今年は、新潟県「新之助」、福井県「いちほまれ」、岩手県「金色の風」、石川県「ひゃくまん穀」ど新しいブランド米が市場に本格投入された当たり年。岩手県に至っては昨年の「銀河のしずく」に続き、2年連続の新ブランド米の市場投入だ。来年も、山形県「雪若丸」や宮城県「だて正夢」、富山県「富富富」、熊本県「くまさんの輝き」などが本格デビューを控えている。

 過去、これほど百花繚乱たるブランド米が立ち上がったことはない。ブランド米は長らく「コシヒカリ」「ササニシキ」の独壇場だった。1980年台に宮城県から「ひとめぼれ」、秋田県から「あきたこまち」が投入され、コメに多様化への道が拓けた。1990年代には、北海道「きらら397」や宮崎県「ヒノヒカリ」などが登場し、産地が一気に多様化。現在、国内には700以上のブランド米があると言われる。

 とりわけ今年、ブランド米(の種類)が”大豊作”となったのには理由がある。最大の理由は地球温暖化だ。コメは、出穂期──穂が出た直後に気温が高すぎると質が悪くなる。気温が高いと玄米の色が白濁した「白未熟粒」が発生する。2008年の調査では、37の府県でコメの品質の低下が報告されていたという。

 決定的だったのは、2010年の猛暑だ。コメの品質は水分や形、大きさなどにより1等米〜3等米まで振り分けられるが、この年の猛暑は1等米の比率を前年の85%から61%に急落。とりわけ新潟は1等米の比率が19%まで激減。農家に大きなダメージを与えた。温暖化がコメに悪影響を与えるという事実を、全国の農業従事者が共有した。

 そして各地方が新しいコメづくりに本腰を入れ始めたのはこの頃。日本でもっとも多くの作付面積を誇るコシヒカリは暑さに弱く、次なるブランドの開発が急務とされた。圧倒的なブランド力とシェアを誇るコシヒカリの玉座が空く可能性が出てきたとなれば、各県が躍起になるのも無理からぬことだ。

 今年発売された新ブランド米は、この頃に開発に乗り出した新品種が形になったもの。「10年の歳月をかけて開発」(金色の風)、「8年の歳月をかけて」(新之助)、「6年の歳月をかけて」(いちほまれ)と似たような売り文句が目立つが、そこまで横並びでなくてもいいような気もする。開発期間によらず、農家にとっては収益性、消費者にとっては味が大切なのだ。

 5年前に決定されたとおり、2018年には減反政策が終了する。国がわざわざ補助金を出して生産を制限するという、珍妙な仕組みがようやく終わる。新ブランド米のなかにはコシヒカリに取って代わろうとしてか、いきなり強気な価格をつけたコメもある。新ブランド米群雄割拠のなか、生き残るのはどのコメか。コシヒカリに代わり、天下統一を果たす新ブランド米は出現しうるのか。

 マーケティング主導で売り出し価格を設定するのも、たしかに戦略のひとつだろう。だが、コシヒカリも一朝一夕でいまの地位を獲得したわけではない。県知事のトップセールスなどの空中戦だけでなく、各農家の地道な努力があってこそ新ブランド米の質や評価は向上していくはずだ。

 茶碗を片手に持つわれわれの願いはただひとつ。「うまいコメが食いたい」のだ。