ジャニーズ、女性アイドル、V系、K-POP……ファンの“浪費”から見える、各シーンの特徴と面白さ

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 もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケの4人からなる劇団雌猫が上梓した『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』(小学館)。アイドル、ゲームなど様々な分野で浪費する女性による匿名のエッセイと約2,000人のオタク女子へのアンケートを収録した同書は、Twitterを中心に大きな話題を呼んだ。今回リアルサウンドでは劇団雌猫のもぐもぐ氏とユッケ氏にインタビューを行い、本書の出版に至った経緯から“浪費”する理由、浪費する側からの切実なメッセージに至るまで(!?)じっくりと語ってもらった。(編集部)

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■地方ライブ遠征、関連グッズ大量購入……お金って、どうしてるんですか?

ーーまず、『浪費図鑑』の出版に至った経緯を教えていただけますか?

もぐもぐ:ちょうど1年前の冬コミで、劇団雌猫の4人で『悪友 vol.1 浪費』というオタク女子が趣味にどれだけお金を使っているのかを匿名で綴る同人誌を委託販売したのが最初です。「欲しいです」という人が多かったので通販し始めたら予想以上に売れて、書籍化のお声がけをいただきました。だから最初から書籍化を目指していたわけでは1ミリもないんです。

ーーそもそもどうして「オタク女子のお金」をテーマに同人誌を作ったんですか?

もぐもぐ:しょっちゅう地方のライブに行っていたり、関連グッズをたくさん買っていたり、ネット上で成果はわかっても「ところでお金、どうしてるんですか?」って面と向かっては聞けないじゃないですか。わざわざ同人誌を作るなら、インターネットで話せないことにしたかったし、いろんなジャンルを並列で扱えるからいいなと。

ーーインターネット、特にSNSは、個人が自由に発言できる一方で、経済状況などの現実的な事情のやりとりは、あまり見かけないかもしれないですね。

ユッケ:私が子どもの頃は、「インターネットは日常で言いづらいことを匿名ではき出せる場所」だったんです。でも、ネットが発達するに従って、ネットで繋がった友達が増えて、逆に「ネット上では言えないこと」が増えてきました。それこそ、お金の話とかも。

もぐもぐ:だから『浪費図鑑』は匿名で書いてもらったのが良かったと思っていて。自分の素性を明かさず、インターネットの発言と紐付けないようにすることで、このアカウントの人の裏側はこうかもしれない、みたいなことを想像できたら面白いかなと。過激な内容を集めたかったわけではなくて、それこそ「会社の隣の席の人の話かもしれない」といった距離感で、ありえそうなラインを行きたかった。だから、あなたの日常の話でよいです、とみなさんにはお願いしました。

ーーファンの間では特別ではないことも、こうして改めて文章になると面白いですよね。

もぐもぐ:“宝塚歌劇団で浪費する女”では、ヅカオタであれば多くの人がやっている「入り待ち・出待ち」について書いてもらいました。ジャンルによっては非公式な入り待ち・出待ちが、宝塚では公式に統制を取って行われていて、ファン活動の一つの大事な要素になっています。執筆者の方には「普通の話になっちゃいますけどいいですか?」とも言われたんですけど、当事者には当たり前でも、その世界を知らない人には新鮮な文化ですよね。なので、「むしろ普通のことを書いてください」とお願いしました。

ーー収録されているエピソードの執筆者はどういう基準で決められたんですか?

ユッケ:同人誌の『悪友 Vol.1 浪費』は、私たちの知り合いベースで集めて。Twitterのフォロワーさんの中で毎週末遠征している人、普通にオフでも会う友達で毎回やばいオタク話を聞かせてくれる人、単純にブログが面白い人などに寄稿をお願いしていました。『浪費図鑑』も基本は知り合い伝手ですね。ただ『悪友』とは違ったラインナップも入れたいという話になったので、「◯◯で浪費する女」の「◯◯」の候補をいくつか出して、テーマに合う人を探しました。

もぐもぐ:私たち(劇団雌猫)は4人とも全然好きなジャンルが違うのでそれもよかったかも。それぞれの知り合いをたどっていくと「こんな人どう?」が意外なところから出てきたりしました。

ーー『浪費図鑑』は網羅性があって、ファン以外の人が読んでもわかりやすく書かれているのが面白いところなのかなと思います。改めてお二人が“浪費”に目覚めたきっかけを教えていただけますか?

ユッケ:私は今、2.5次元ミュージカルとジャニーズ、あとは女子アイドルが好きなんですが、小学生の時から長らくジャニオタで、担当を転々と変えてきました。テレビで『8時だJ』(テレビ朝日系)を見たら面白くて。当時10代後半のタッキー(滝沢秀明)とか、かっこよくてキラキラした人たちが目的に向かって一生懸命頑張っているのを見て、「この集団すごい!」とハマりましたね。そのあとモーニング娘。も『ASAYAN』(テレビ東京系)を見て、似たような気持ちで応援するようになったんです。更に、大学進学で上京した当時がちょうど女子アイドルブームで、毎週末いろんな女子アイドルのコンサートに行くことができ、いろんなアイドルを見るようになりました。2.5次元は、友達からテニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)のチケットをもらって観に行ったら感銘を受けて。キャストで好きな俳優さんができて、その人がテニミュを卒業してからも追いかけるようになりました。

もぐもぐ:誰かを追っていると、その周りも気になってくるのはあるよね。

ユッケ:そうそう。ジャニーズも次第にバックダンサーのJr.の子に惹かれたりして。終わらないんですよ、連鎖が。

ーーだから浪費し続けてしまうのかもしれないですね。もぐもぐさんは?

もぐもぐ:私は今好きなのはNMB48とSexy Zoneと宝塚の月組です。でも、色々なジャンルを見比べるのが楽しくて、誘われるがままに現場に行ったり、趣味が合う人がTwitterで面白かったと言っているものを見に行ったりですね……。もともとAKB48が好きだったんですけど、前田敦子さんが東京ドーム公演で卒業した時にAKB48ってこのあとどうなるんだろうと思って、先人たちの歴史を学ぶためにジャニーズと宝塚を見始めたんですよ。そしたらそちらの世界にもハマって、気づいたら3つを並行して追いかけるようになっていました。

ーーお二人含め、アイドルファンの方は好奇心や知識欲が旺盛な印象があります。

もぐもぐ:私は好きなものをどんどん増やしていくこと自体が楽しくて、骨の髄までミーハーな自覚があるんですけど、正直何か一つにしぼれないコンプレックスも微妙にあったんですよ。でも、『浪費図鑑』を作ってみたら「私もアイドルオタクで声優好きだからすごいわかる」というような読者も多くて。Twitterだと好きなジャンルでアカウントを分けている人も多いですが、同じタイプの人もたくさんいる! というのは発見でしたし、うれしかったです。

■“買い支え”から“クラウドファンディング”まで、浪費への意識は千差万別

ーー『浪費図鑑』を読んでいて気になったのですが、浪費する理由や目的って対象によって変わるものなのでしょうか?

もぐもぐ:オタク趣味のない男性に「“V系バンドで浪費する女”の『このお金でメンバーに健康診断に行ってほしい』という感覚が自分にはまったくない発想だった」と言われたのが印象的でした。「ポール・マッカートニーのファンは多分そう思ってないよね」って言われて、うん、そうだなって(笑)。私も対象はV系バンドじゃないけどすごくわかる、投じたお金が本人の幸福や健康に直結してほしい欲求。

ユッケ:ポール・マッカートニーは私たちがお金払わなくても健康診断に行けるからね(笑)。私も“買い支え”系というか、私が払ったお金でこのグループが継続してくれたらいいなとか、この舞台を再演してくれたらいいなという気持ちはありますね。でも周りの話を聞いていると、その気持ち自体が推しを自分より下に見ていることになるから、そういう気持ちは持たないようにしていて、純粋にパフォーマンスへの対価として払っているという人もいます。

ーーお金を使う理由は応援する対象によって異なるというよりは、消費側の意識の持ちようということですね。

もぐもぐ:私の場合は、常にクラウドファンディングをやってるような感覚かもしれない(笑)。応援の気持ちをお金で示したい。舞台のグッズのブロマイドは、売れた分だけお金が俳優にバックされるんですよね。だから好きな俳優のブロマイドはたくさん買うし、同じ写真を何枚も持っています。同じものでも「今日も素敵でした」という気持ちを込めて買う!

ユッケ:ジャニーズの舞台やコンサートでもブロマイドが売っているんですけど、千秋楽の時に自分の担当のブロマイドを買い占める、“フォト一揆”と呼ばれる行動があります。ブロマイドの売れ行きはメンバーの人気を計る一つのバロメーターになので、売り切れになると事務所が「この子って人気があるんだ、じゃあもっと推そう」と思うのでは――そう考えたJr.担から始まった文化だと思います。Twitterに「【祝】◯◯くんブロマイド完売しました!」みたいなツイートが回ってきますし、たまに飲み会で、“一揆”を起こした首謀者からブロマイドが配られます(笑)。

ーーブロマイドが推しメンの宣伝活動にも使われるんですね(笑)。

ユッケ:だから“一揆”の場合は“買い支え”というよりも、「この子はこんなにお金になります! とにかく推しを推してくれ!」と運営側に訴える気持ちが強いですね。

もぐもぐ:みんな行き場がない感情をお金で表しているんだよね……。それで序列が変わるとは限らないけど、行動せずにはいられない。AKBグループの『選抜総選挙』文化はそれをおおっぴらにやってるからすごいですよね。実際にシンデレラストーリーもあるわけで。

ユッケ:ジャニーズにも『総選挙』的な文化は一応ありますよ! 雑誌『MYOJO』が年に1回行っている「あなたがえらぶJr.大賞」という読者ランキング企画。 雑誌に1枚だけ応募用紙がついていて、「弟にしたい」とか「歌がうまい」とか項目がたくさんあって、その項目ごとにJr.の名前を書いていくんです。中でも特に「恋人にしたいJr.」部門で1位になったJr.がその時いちばん勢いがあるという空気がなんとなくあって。第一回目の時は現V6の森田剛くんと三宅健くんが同率1位、そこから、山下智久くんや赤西仁くん、中島健人くんなど人気のアイドルはだいたい複数年連続1位を取っていて。……だからみんな自分の推しを1位にしたいんです。私も自分の担当に10位以内に入って欲しいから、『MYOJO』を何冊も買ってひたすら応募しています。

もぐもぐ:CDじゃなくて雑誌をいっぱい買うんだ! へえ〜!

ーー女性アイドル全体で見た場合、特徴的な文化を挙げるとすると?

もぐもぐ:『浪費図鑑』では乃木坂46の握手会の話を書いてもらったのですが、握手会ってオタクじゃない人から見ると意味がわからないイベント代表だと思うんですよね。私も通い始める前は「たった数秒話すだけって何が楽しいんだ?」って思ってたけど……楽しいんですよ! 10秒あると、頑張れば2〜3往復ぐらいは会話ができるので、成功するためには戦略が必要です。並んでいる間にずっとその子のブログを読みながら、何の話しようかな、どうしたら盛り上がるかな、と頭を悩ませて。短い時間で伝えたいことを伝えるの、面接の練習になると思うんだよなぁ……!

ーー『浪費図鑑』を手がけるにあたり、印象的だったジャンルはありますか?

ユッケ:私は“EXOに浪費する女”かな。K-POPアイドルって、ジャニオタから見ると同じ男性アイドルでありながら近くて遠い存在なので、「こんなに世界中を股にかけて活動しているんだ」ということにまずびっくりしました。メンバーが突然お休みするとか、突然ダブルキャスト的に入れ替わっているとか、推しが出てくる演出が翌日消えているとか、「推しがライブに出ない」というのはジャニーズJr.でもあること。でも、せいぜい長野で見て好きだった演出が大阪に行ったらなくなっていたというレベル。K-POPの場合、アメリカまで行って推しが出ないって、もう規模感が違いすぎて……。辛いのはすごく分かりますけど、アメリカに行って推しがいなかったらどんな気持ちになるのか。考えてみてもスケールが大きすぎてうまく想像できなかったです(笑)。

もぐもぐ:私は“東京ディズニーリゾート”かな。ディズニーはどうしても『浪費図鑑』に入れたかったのでした。

ーーそれはなぜでしょう?

もぐもぐ:まず、「リア充」の象徴ですらあるディズニーランドやディズニーシーをオタク的に楽しんでいる人がいるって、人によってはすごく新鮮だと思うんですよ。しかも、いろんな楽しみ方があるんですよね。建物が好きな人とか、植物に興味がある人とか、ダンサーを追いかけている人とか。「いつものディズニーにこんな見方が!」と知ってもらうことで、普通に遊びに行った時にも思い出してもらえたらいいなと。バズーカ砲みたいな大きいカメラを持っている人がいたら、この人毎日ここでミッキーの姿を捉えているのかな、と想像したり。今回はミッキーマウスが大好きな方に書いていただいたんですが、二次元キャラクターとも三次元のアイドルや俳優とも違う、ミッキーだからこその「推せる理由」が綴られていて、本当に名文です!

ーーでは、今回の『浪費図鑑』には掲載していない最近気になるジャンルのオタクはいますか?

ユッケ:私は最近、Twitterの美容アカウント(美容垢)を見るのがすごい好きで。モノとしてコスメが好きで、コレクターみたいにコスメを集めて、コスメの使用感を教えてくれるのが表の美容垢。裏の美容垢は、“整形依存の女たち”のドキュメントのようなんです。手術した後、腫れが引くまでの期間をDT(=ダウンタイム)と言うんですけど、DT中は普通に仕事に行くと整形したってバレちゃうから、イケてる美容垢はその間に海外旅行とか入れるんですよ。整形に何百万と使っているアカウントもあって、何の仕事をしているのか本当にわからなくて。韓国とかタイまで整形旅行に行く人もいるし……。美容垢の間でもブームな整形法があって、「次はこれやりたい」とかツイートしたり。そういうのって、実名だとできないですもんね。

もぐもぐ:確かに実名じゃできないね……! 知らない側から見ると整形を繰り返す感覚ってわからないけど、その投資の先に幸せな世界があるのかもしれないですよね。共感できるかは別として、どんなことを考えているのか知りたいなぁ。

■「お金で幸せを買っている」人はもっと広くいるはず!

ーーまだまだ見たことのない世界は無限にありそうですね。

もぐもぐ:自分と違う世代の方が熱狂してるものとかすごく気になります。それこそ、ポール・マッカートニーの武道館公演の10万円のチケットを買った人とか。松田聖子さんのディナーショーに行っている人、氷川きよしさんが好きな人、『冬ソナ』でヨン様にハマって世界が変わった、なんて人にも話を聞けたら絶対面白いと思うんですよね。オタク趣味というとアイドルやアニメが出てきやすいですが、「お金で幸せを買っている」人はもっと広くいると思うので!

ーー「浪費」というテーマは、シーンを選ばず切り取れる面白さがありますね。

もぐもぐ:もちろん破産や借金は避けたいですけど、貯金残高が増えていくことだけが良いかっていうと……。楽しいものをお金で買った方が健やかに生きていけそうだし、きっとボケずに氷川きよしを応援できたらハッピー!(笑)。

ユッケ:オタクって年齢不詳な人が多いんですよね。若作りとかではなくて、エネルギーが出まくっているから若く見えるし、存在感がある。この本の中に出てくるような趣味を全然知らない人は、「ホストやアイドルにお金をつぎ込んでいるオタク」と聞くとネガティブに捉えてしまうと思うんです。でも実際に話を聞いてみると、もしかするとイメージが変わるかもしれない。だから私も色々なジャンルの人の話を聞きたいです。

ーー大人になると趣味がなくなったり、プライベートでやることがなくなるという話をよく聞くので、オタ活に目覚るのはある意味いいことかもしれないです。

もぐもぐ:読者の方からいただいた感想の中に「理解はできないけど、これだけ楽しく熱中してお金を使えるのはちょっと羨ましい」という声もありました。仕事と家の往復で一日が終わるという人も、『浪費図鑑』に載っているようなオタクまではいかなくとも、少しでも興味がある世界を一度見てみると新しい扉が開けるかも! 生きる目的ができます。

ーーでは最後に、“浪費者”代表としてメッセージをお願いします(笑)。

もぐもぐ:身も蓋もないですが、私たちは根本的にお金を使いたいんですよね……(笑)。先日サカナクションのライブに行ったら、「ライブだけだと赤字だからみんなグッズ買ってください」と山口一郎さんが冗談まじりに言っていて。「グッズ買ってくれ」「はい、買います!」って一種の “コールアンドレスポンス”だなって思いました。アーティストに貢献できる手段があるのがうれしい。お金を出す気はいつでもあるので、買うべきものをどんどん作ってほしいです。……そのために、全てのグッズのデザインを可愛くしてほしい!!(笑)。ダサいグッズしかなくて泣きながら買ったことが何回あったことか! 愛を示すためには買うしかない、けど、それでも売れちゃうからカッコよくならないのかなっていうジレンマ……。

ユッケ:公式のグッズを充実してくれないと、違法なビジネスが生まれる危険にもつながりますよね。例えば公式の生写真より非公式の生写真屋の方がたくさん種類が出ているから、そっちに走ってしまうオタクがいたり、CDが発売されないから密録がYouTubeに上がってしまったり……。そういうことが起きないためにも、ちゃんとお金を使うので、公式グッズをお願いします!