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もくじ

はじめに
ー クルマはつまらなくなったのだろうか?

BMW M3スポーツ・エボリューション編

ー 世界が送った「熱視線」 いまは?
ー 軽やかに高回転域へ トルク不足払拭

フォード・シエラRSコスワース編

ー シエラRSコスワースは「夢のクルマ」
ー 直線加速で圧倒 ただし重心高のネガも

メルセデス・ベンツ190E 2.5-16編

ー 190E 歴代最高のエンジニアリング
ー スピード/スリル バランスの妙

おわりに

ー 3台の中でどれを選ぶのが得策なのか

メルセデス・ベンツ190E 2.5-16編

190E 歴代最高のエンジニアリング

3台のなかで、唯一メルセデス190E 2.5-16の能力は未知数だった。2.5ℓ版の「16」は販売台数が少なかったせいもあり、当時接する機会がほとんどなかったからだ。

メルセデスは190E 2.5-16をリリースする前、1984年から’88年の5年間に2.3-16を1万9487台も販売した。それに対して1988年に190Eのマイナーチェンジの一環として登場した2.5-16は約900万円という価格が災いして、トータルの販売台数はわずか5473台にとどまった。

2.5-16は登場からわずか9カ月で2.5-16エボリューションにバトンタッチし、さらにその1年後にはエボリューションIIへと進化を遂げてDTM選手権で優勝を飾る。

1980年代生まれの3台を20年後の今日、改めて見直してみると、190Eがもっとも優雅に齢を重ねているように思える。派手すぎず地味すぎず、ベストバランスを保つその均整のとれたシルエットはたまらない魅力を放つ。

さらに室内に入ると、190Eが歴代メルセデスの中で最高のエンジニアリングであると言われる所以が理解できる。あらゆるところが現行のメルセデスのどのモデルよりはるかにしっかり作られているのだ。

スタンダード仕様に対して特別なモディファイも多い。インパネには油圧計、水温計、油温計、バッテリー計、そしてストップウォッチまで備わっている。

ビックボアの2.5ℓ直4エンジンに火を入れると、コスワース製16バルブ・シリンダーヘッドがカチャカチャと音を立て始める。ギアボックスはM3と共通のもので、1速ギアはHパターンから外れいているが、その代わり2速と3速、4速と5速間はシフトしやすい。クロースレシオのギアは7000rpmを許容範囲とするエンジンを有効に使うことができる。

スピード/スリル バランスの妙

M3スポエボから乗り換えると、190E 2.5-16は低回転域で明らかに力強い。最大トルク値を比べるとわずかに190E 2.5-16の方が劣っているから不思議だ。

吹け上がりとフレキシビリティの点でも2.5-16はM3スポエボに勝っているが、このエンジンも本領を発揮するのは4000rpmを超えてからである。スロットルペダルを目一杯踏み込むと、キャビンは200psの咆哮で満たされ、俄然騒々しくなる。

現在の尺度で測っても、これは本当に素晴らしくよくできたエンジンである。最後の1000rpmこそM3ユニットほど強烈ではないが、それ以下の回転であればMを凌ぐほど感動的だ。

当時のメルセデスの公式コメントによると、2.3-16ユニットは普通の190Eの2.3ユニットに比べて、組み立て工程に約10倍もの時間がかかっているという。もちろん、その労力は無駄にはなっていない。

セルフレベリング機構を備えるマルチリンク式リア・サスペンションは、ドライ路面では舐めるように路面に追従し、乗り心地も素晴らしい。

コーナリングスピードもなかなかのもの。ウェットではそれなりに腕が要求されるが、テールスライドを存分に愉しめる仕立てになっている。

とは言え、熱狂的なM3スポエボと残忍なRSコスワースに乗った後では、190E 2.5-16はいたって真当なクルマに感じる。

端正なスタイルと然るべきスピード、それにスリルとが見事にバランスしている。M3スポエボほどのスリルは味わえないが(それは190EエボリューションIIで味わえる)、癖のあるRSコスワースより有能なロードカーであることは間違いない。

190E 2.5-16は深みのあるキャラクターといつまでも乗り続けられそうな堅牢さ備えている。今の中古車相場を鑑みると、選択肢として大いにアリだろう。このクルマは、1980年当時、ひとびとがその価値を見落としていた隠れた80’sヒーローである。

おわりに

3台の中でどれを選ぶのが得策なのか

見るからに古くなった3台。しかしそのどれに乗ってもきっと貴方は驚くだろう。現代のクルマがいつしか失ってしまったドライビング感覚の心地よさに目覚めるかもしれない。

シエラ・コスワースだけは極端にタマ数が少ないものの、英国の場合とりあえず3台ともに200万円の予算があれば十分に購入可能だから、いい個体に出会えれば真剣に考えてみてもいいのではないか。

いずれも大切にメンテナンスすれば、将来的に価値が上がるだけの可能性のあるクルマばかりだ(コンディションによってはすでにプレミアムが乗っかり始めている)。

ではさて、3台の中でどれを選ぶのが得策なのかと考えると、エンジニアリングの完成度という点で見劣りするのがRSコスワースだろう。

まあ、既存のパーツを寄せ集めて作ったクルマなのだから仕方がないが、そんなことを一蹴してしまうほど、このクルマは極上のドライビングプレジャーを備えている。それは現代のハイパフォーマンスカーに乗るオーナーの要求をも裏切らないほどなのだ。

メルセデス190E 2.5-16はどうだろう。飽きのこない洗練されたスタイルと高いポテンシャル。そして思う存分ドリフトが愉しめるシャシーも魅力的だ。

実用的なサルーンでありながら希少価値も十分。それでいて探せば150〜160万円ほどの個体が比較的多く探し出せる。新車当時の価格を考えると、かなりお買い得感もある。これを購入するのがもっとも賢明な選択、であろう。

しかし、究極のドライビング体験を味わいたいなら、迷わずM3を選ぶべきだ。スポエボなら言うことないが、2.3ℓのM3でもかなりの満足を味わえる。時を経ても変わらない初代M3に対する高い評価。その真の理由は手に入れればすぐに分かるはずである。