身内からの批判が始まった

11月8日、ドナルド・トランプ米大統領がヒラリー・クリントン元国務長官を大統領選挙で破ってから丸1年が経過します。それに先立って5日には、初の来日が予定されています。

しかし、こと米国の内政を見ると、トランプ大統領をとりまく状況は決して穏やかとは言えません。10月30日には、トランプ陣営の元選対幹部が「ロシアゲート」を巡ってFBIに起訴されました。

さらに筆者が注目しているのは、ここ最近トランプ大統領が、身内であるはずの与党共和党・現職上院議員から、公然と批判を浴び始めていることです。

特に、上院外交委員会委員長で、かつてトランプ政権の国務長官候補にも名前が挙がったボブ・コーカー上院議員(共和党・テネシー州)とトランプ大統領による「言葉の戦争」は、全米の注目を集めました。

次の選挙に出馬しないと宣言をしたコーカー議員は、10月25日、トランプ大統領を「国の品位を落とし、国を分断させた」と非難しました。「トランプ大統領は、子供たちのロールモデルになると思うか」という記者の質問に対して、同議員は「ならない」と一蹴しています。

さらに、米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでコーカー議員は、「トランプ大統領は(北朝鮮問題について)いろいろなコメントをすることによって、第3次世界大戦に向かって進む可能性があることを認識していない」とまで断じました。

コーカー議員の再三の批判に対し、トランプ大統領はついにツイッター及びメディアを通じて反撃に出ました。「コーカー議員は次の選挙で自分から支持を得ることができなかった」と暴露し、「彼はつまらない人間だ」とツイッターに投稿して個人攻撃を行ったのです。

しかし、声を上げたのはコーカー議員だけにとどまりませんでした。ジェフ・フレイク上院議員(共和党・アリゾナ州)も、来年の中間選挙に出馬せず政界を引退すると表明したうえで、上院本会議での演説の中でトランプ大統領の言動を「無謀で常軌を逸した威厳のない言動」と非難しました。そのうえで、同僚の共和党議員たちに対して、トランプ大統領に立ち向かうように訴えたのです。

今のところはトランプ有利

ただ、こうした呼び掛けがあったものの、同僚の共和党議員は大多数が沈黙を保っており、一時は盛り上がった「反乱」も不発に終わる可能性が高まってきました。

ロイター通信とグローバル世論調査会社「イプソス」が行った共同世論調査(2017年10月20-24日実施)によりますと、米国民のトランプ大統領の支持率は35%で相変わらず低空飛行を続けています。ところが、米議会に対する国民の支持率は17%で、トランプ大統領の支持率のほうが18ポイントも上です。しかも、10月6日から10日に実施した同調査結果と比較すると、議会の支持率は24%から7ポイントも急降下しています。

米議会支持率が下がった理由の一つは、オバマケアにおける医療保険会社への補助金を巡る、トランプ大統領と議会との攻防にあったのかもしれません。

トランプ大統領は「医療保険会社を儲けさせている」と主張し、補助金停止に賛成の立場をとりました。これに対して、一部の上院議員が反対に回り、対立が先鋭化したのです。「オバマケア廃案」などのトランプ大統領の選挙公約が一向に実現できない責任は、議会が障害になっているからだと有権者はみたのでしょう。

また党派別に見ると、米議会共和党の支持率は24%で、こちらもトランプ大統領が11ポイントリードしています。民主党にいたっては支持率13%で、大統領が22ポイントも上回っています。さらに共和党支持者においては、77%がトランプ大統領を支持しているのです。

こうした状況では、コーカー議員やフレイク議員のように共和党内の「反トランプ派」が大統領を非難しても、支持率や好感度を下げるのはむしろ彼らのほうです。共和党支持者からの人気競争という点で、トランプ批判は現職議員にとってかなりリスクが高いわけです。

ことに、来年11月に行われる中間選挙で再選を狙っている共和党の現職議員にとっては、下手にトランプ批判をすれば支持者が離れ、同予備選挙で敗北するかもしれません。共和党内でもトランプ大統領に反感を抱いている議員は多いのですが、コーカー議員やフレイク議員のように政界引退を決めた人物でもない限り、大っぴらな批判は難しいという事情もあります。

ただ、そうは言っても「トランプ一強」は、「習一強」及び「安倍一強」と比較すれば、まだ健全な民主主義であると言わざるを得ません。共和党議員が、共和党の大統領であるトランプ大統領を公の場で強く批判しているからです。

中国では、先日行われた第19回共産党大会で「習近平思想」が共産党の規約に明記されたため、絶対的な権力を得た習近平氏に党員が挑戦することは不可能になったと言われています。日本では、安倍晋三首相に対しては、自民党内からの批判は、OBの議員も含めてほとんど聞こえてきません。「異論を排除する一強」「異論が出ない一強」は、共に民主主義の理念からズレていると言ってよいでしょう。

あの元側近の「不穏な動き」

さて、注目されているのが、トランプ大統領のもとを離れた元側近、いわば「究極の身内」だったスティーブン・バノン氏の動向です。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(電子版)でマイケル・ベンダー及びジャネット・フック両記者は、「トランプ大統領とバノン元首席戦略官兼大統領上級顧問が、共和党議員を巡って対立色を強めている」と報じています。

というのも、9月に行われた、南部アラバマ州上院補欠選挙の共和党予備選挙で、トランプ氏とバノン氏は異なる候補者を支持しました。しかも両氏は現地に入り、それぞれの候補者の支持を有権者に直接訴えたのです。

その結果、バノン氏が支持した保守強硬派のロイ・ムーア元同州最高裁長官が、トランプ大統領が推した現職のルーサー・ストレンジ上院議員に対し、約10ポイント差で勝利を収めました。

なお、選挙結果が出ると、トランプ大統領はツイッターに投稿したストレンジ上院議員支持の書き込みの一部を削除したとして非難を受けました。たとえツイッターの投稿であろうと、大統領が公の場で書いたものは「公文書」とみなされるからです。

しかし筆者は、中間選挙を巡るトランプ大統領とバノン氏の関係について、前述の2人の記者とは異なる見方をしています。トランプ・バノン両氏はお互いの利用価値を認めているため、相互依存の関係を築くのではないか、ということです。

その主たる理由は、2人のアジェンダ(議題)にあります。

共和党が掲げるアジェンダとトランプ大統領のそれは同じではありません。むしろ、トランプ大統領のアジェンダは、バノン氏のそれと共通しています。

共和党主流派が自由貿易推進である一方、トランプ大統領とバノン氏は周知の通り、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉や環太平洋経済連携協定(TPP)の脱退に賛成の立場をとっています。

またバノン氏は「経済ナショナリズム」の実現を目指しています。同氏は、「経済ナショナリズムでは人種、肌の色、ジェンダー、民族、宗教ならびに性志向は関係ない。米国市民か否かが問題だ。米国市民であれば、雇用や経済的な機会が与えられるべきだ」と唱えています。

裏を返せば、「経済ナショナリズムでは、非米国市民、特に不法移民には雇用や経済的な機会を与えない」ということになります。バノン氏は「アジアに進出した製造業を米国に戻す」と強く主張しています。こうしたバノン氏の主張は、トランプ大統領のそれと非常に重なっているのです。

バノン氏は、自分の夢である経済ナショナリズムを実現する「アクター」を必要としていて、その格好の対象がトランプ大統領であるとも言えます。バノン氏は、トランプ大統領を経済ナショナリズム遂行のための「駒」として見ているのでしょう。

共和党をぶっ壊す

一方でトランプ大統領にとっては、支持基盤の確保と米上院の共和党議席数増加のために、バノン氏と同氏を信奉する保守強硬派「バノン軍団」の協力が欠かせません。

与党共和党は上院で52議席を占める多数派ではありますが、野党民主党が議事妨害(フィリバスター)を行なった場合、阻止できません(議事妨害の打ち切りは、60人以上の議員の賛成が必要です)。そこで、トランプ大統領は上院で共和党が議席数を増やすことを強く望んでおり、バノン軍団の戸別訪問を中心とした草の根運動に期待しているのです。

このような理由から、両氏の関係は対立というよりも相互依存の関係になるでしょう。

一方で、今後バノン氏との対立を深めていくであろう共和党の重鎮が、党主流派の代表格、ミッチ・マコネル上院院内総務です。バノン氏は、自身の支持者に向けて「この戦争は私の戦争ではない。我々の戦争だ。我々が始めた戦争ではない。(共和党主流派という)エスタブリッシュメントが始めたのだ。我々は勝つだろう」と述べ、マコネル上院院内総務に「宣戦布告」をしています。

バノン氏が仕掛けた舌戦に、彼の支持者は早くも同調しています。

バノン氏が会長を務める極右サイト「ブライトバート・ニュース」は、ハーバード大学とハリス調査会社による共同世論調査(2017年10月14-18日実施)の結果をネット上に掲載しています。この調査によりますと、共和党支持者の実に56%が「マコネル院内総務は辞職すべきだ」と回答し、氏に好感を抱いているという回答はわずか16%でした。

また、共和党支持者の61 %が「減税、強硬な反移民政策、そしてオバマケアの廃案を支持しない共和党現職議員は、米議会から追放しよう」というバノン氏の運動に支持を表明しています。同党支持者の56%が、「バノン氏の努力が共和党をより強くする」と肯定的な回答をしている点も注目です。

ちなみに、この調査でもトランプ大統領の支持率は80%で、先に紹介したロイター通信とイプソスの共同世論調査とほぼ同様の結果が出ています。3人の人気度ランキングは、トランプ大統領、バノン氏と続き、かなり離れてマコネル院内総務という順番になるわけです。

マコネル院内総務を支持する利益団体は、来年の中間選挙に向けて、バノン氏と同氏が応援する保守強硬派の候補者を白人至上主義と結びつけ、信用を傷つける戦略に出るのではないかと目されています。他方、バノン氏は軍団を使い「戸別訪問を中心とする草の根運動を展開して中間選挙を戦う」と宣言しています。

来年、日本が利用される可能性

さて、トランプ大統領にとって就任後初となる来年の中間選挙は、日本にも大きな影響を及ぼしかねません。バノン氏が、通商政策を中間選挙の主な争点としてくる可能性が十分あるからです。

2016年米大統領選挙でも目の当たりにしたように、他国を標的にした貿易・雇用問題は、米国の有権者の心と票を動かします。しかも、主として白人労働者及び退役軍人から構成されているトランプ大統領の支持基盤は、これらの話題に特に敏感に反応する傾向があります。

選挙の結果、バノン氏が支援する保守強硬派の議員が多く当選すれば、トランプ政権に加えて、米議会までも日米の2国間による自由貿易協定(FTA)を強く迫ってくるようになり、通商協議が一気に加速することになるでしょう。

日本政府はこれまで北朝鮮問題を前面に出して、朝鮮半島における非核化を日米の共通目標に掲げ、その一方で2国間自由貿易協定の問題では、トランプ政権とがっぷり四つに組むことを回避してきました。立ち合いでうまくかわす相撲をとってきたわけです。

しかし、日本政府のこの戦術も、中間選挙でバノン氏がマコネル氏を撃ち破れば、まったく機能しなくなってしまうかもしれません。「バノン氏vs.マコネル氏」の対立が注目される来年の中間選挙の結果は、日本の対米政策においても分岐点となるでしょう。