はしもと・ひろし=1962年2月5日生まれ、北海道出身

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「ショムニ」(1998年ほかフジ系)や「死神くん」(2014年テレビ朝日系)などの人気漫画の実写版から、山崎豊子原作の「華麗なる一族」(2007年TBS系)、「運命の人」(2012年TBS系)といった重厚な群像劇、そして今年1月期に放送されたオリジナル作品「就活家族〜きっと、うまくいく〜」(2017年テレビ朝日系)まで、実に幅広いジャンルで活躍中の人気脚本家・橋本裕志氏。かつてはアニメの脚本も手掛けていたという彼の、脚本家としての原点とは? テレビドラマを手掛けるようになったきっかけや、脚本を書く上でのこだわりや信条、さらに10月からスタートした三浦春馬主演の新ドラマ「オトナ高校」(テレビ朝日系)の制作秘話などを聞いた。

橋本裕志氏の最新作「オトナ高校」(テレビ朝日系)。エリート銀行員ながら、30歳にして童貞の“チェリート”荒川英人(三浦春馬)が悪戦苦闘する姿を描く/©テレビ朝日

■ ドラマはオリジナルの方がワクワクしてしまうんですよ

――橋本さんが脚本を書き始めたきっかけは?

「当初は舞台劇をやっていて、そこで戯曲を書いていました。その後、諸先輩方の紹介で映画やアニメの脚本を書くようになりました。初めて書いた連続ドラマは『ショムニ』ですね。当時、アニメで付き合いのあったプロデューサーが『ショムニ』のプロデュースを担当することになって、僕に声を掛けてきてくれたんです。そこから、『WATER BOYS』(2003年ほかフジ系)という仕事に繋がっていくんですが、この2作品は、本当に驚くほどたくさんの方々に見ていただいて。僕が書いたものでも世の中の人は喜んでくれるんだと、背中を押してもらったような気がしましたね」

――アニメとドラマでは、脚本の書き方に違いはあるのでしょうか?

「どうなんでしょうね。基本は違わないのですが、あるといえばあるのかな。最近はアニメ的な表現を取り入れるドラマも増えてきているので、ボーダレス化が進んでいるような気もしますが。一番の違いはドラマは生身の俳優さんが演じるということだと思っています。それと制約の違い。アニメだと本当に何でも書けちゃいますからね、どんなに突拍子もないシチュエーションでも(笑)。そういう意味では、アニメならではの表現の広さはあるのかもしれません」

――山崎豊子さんの小説が原作の「華麗なる一族」など、原作をドラマ化する難しさを感じることはありますか?

「原作がある場合は『原作よりも面白い』と思わせたい、という気持ちで取り組むわけですけど、そうすると、どうしても舞台や人物の設定を変えざるを得ないこともあるので、原作を尊重しているつもりでも原作者サイドと揉めることもしばしばあって(笑)。だから僕の場合は、どちらかと言うと、オリジナルの作品を自由に書く方が楽しくて好きですね。そもそもテレビドラマというのは、オリジナルのものを発信しやすいジャンルだと僕は思っていて。脚本家としてもそれが一番ワクワクする仕事だと思っています。ところが今や大手の映画は興行のために原作ありきの傾向が顕著ですし、連続ドラマにしても視聴率や安心のためにそっちに行きがちな傾向が強まっている気がして。だから僕は、プロデューサーさんから『何かやりませんか?』と声をかけてもらったときはとりあえず、まず『オリジナルをやりませんか?』と言うようにはしています」

――“オリジナル”ということに強いこだわりをお持ちなんですね。

「こだわりというより欲求ですかね。脚本家をやっているからなんでしょうが、視聴者としての僕も、ドラマはオリジナルの方がワクワクしてしまうんですよ。僕が脚本家になる前、若いころに惹かれたドラマも、市川森一さんや山田太一さんといった大先輩方のオリジナルでしたから」

■ 登場人物たちの個人史やキャラクターをどう作るかをとことん楽しみたい

――10月から始まった「オトナ高校」は、橋本さんのオリジナル脚本ですね。

「そうですね。プロデューサーの貴島(彩理)さんも、『ぜひオリジナルで行きましょう』という意欲のある人なので。今回は、貴島さんと相談していく中で、だんだんと形になっていった企画です。貴島さん言うところの『妄想』(笑)に刺激された僕が、調子に乗ってバカな提案をしても、意外なほど面白がってくれるんですよ(笑)。それは楽しい反面、暴走しすぎて視聴者に引かれるのではという怖さも生まれるんですが、何か殻を突き破りたいという欲求もあって。今回はなるべく振り切る方向に舵を切ったつもりではいます。

貴島さんのいい意味での勇敢な乱暴さと、強引さを楽しもうとする僕の感覚が、相乗効果となって突き抜けた作品になっていけたらいいのかなと思っています」

――最初の企画書の段階では、どこまで決まっていたんですか?

「性交渉の経験がない人が強制入学させられる学校があって、生徒は経験したら卒業する、というところは決まっていました。そこから、この突飛な設定をどうやって現実になじませていくのか。なじませ過ぎてもつまらないんじゃないのか。そのためにはどういう人物設定がいいのか。校則とか授業内容とか、学校の設定はどうするのか。そういったことを少しずつ決めていきました」

――脚本を書く上で取材はされたのでしょうか?

「まず強い興味を持ったのは、今、少子化の問題が深刻になっている中で、30代以上の未婚女性の30%、男性の25%が未経験であるという、厚労省が発表したデータです。もちろん、『日本の皆さん、もっと子供を作りましょう』と世間を啓蒙するドラマにするつもりは毛頭ありませんが(笑)。

恋愛迷路をさまよう今の男女の情報を、登場人物のキャラ作りのヒントにした部分もあります。このドラマの登場人物たちは恋愛がうまくいっていない分、どこか閉じていて、自分の中で言い訳を作ってしまって、勝手に自己完結しちゃってるところがあるんですね。それで周囲から理解され難い価値観を自分で醸成している。そんな人たちが出会って、それぞれのズレた意見をぶつけ合っていくさまを楽しんでいただけたらいいなと思います。

30オーバーの未経験者を描くことに関しては、どんな人にも絶対に未経験の時代はあるわけなので、若いときの自分や友人に気持ちを寄り添わせれば、それなりの想像もつくのかなと構えることなく臨みました」

――今回の作品で工夫した点は?

「未経験であるのも本人の自由ですから、それをいたずらに揶揄する描き方は避けたかったので、オトナ高校の生徒は“結婚や子作りに強い意欲を持つ者たち”という設定にしました。欲求がありながら満たされずに、うつうつとした部分も抱える生徒たちが、教師の容赦ない難題に必死で立ち向かう姿を、淀みを伴うコメディーとして描きたかったので、会話のやりとりは試行錯誤したつもりです。不器用な登場人物が、真剣にオトナ高校を卒業しようともがけばもがくほど、視聴者がおかしみを感じて共感してくれたらうれしいなと思っています。

それと、モノローグの使い方ですね。なかなか勇気が出ない未経験者が、自分の中であれやこれやとどうでもいいシミュレーションを繰り返したりすることで、“童貞感”を表現できたらなと。

そして、(主人公・荒川英人役の)三浦春馬くんのようなイケメンが実は童貞だという設定に、どうやってリアリティーを持たせるのか。そのために内面をどう設定するのか。そこを作り手側が楽しめたらドラマにも味が出るわけで。それは他のキャストも同じで、彼らが未経験者であり続けた個人史やキャラクターをどう作るかは、作り手側としてとことん楽しみたいと思っています」

■ 人間のダメなところや弱いところをポジティブに描きたいんです

――キャストの皆さんからの反応はいかがですか?

「幸いにも、春馬くんがノリノリで演じてくれてますし、本気で役へ立ち向かう熱意は脱帽ものです。(高橋)克実さんも面白がってくれているみたいで。最初の本読みのときから、皆さん、いい感じのテンションで役と向き合っているようにお見受けしました」

――コメディーだと、俳優の方々のアドリブも多そうですね。

「基本的に、アドリブはあんまり歓迎はしないんですが(笑)、アドリブによって、ドラマの世界観がより広がることも往々にしてあるので、そういう期待も少なからずあるのかもしれません。『オトナ高校』では、春馬くんが想像していた以上のハジケっぷりで、脚本通りにしゃべっていても、それを越えた独自のオリジナリティーを創り出していて。アドリブ云々を越えた表現に挑んでいると思います」

――今回の「オトナ高校」のようなコメディーに限らず、橋本さんが、脚本を書く上で常に心掛けていることはありますか?

「僕の場合は、コメディーにしても、シリアス路線にしても、自分の作品の軸は“人間ドラマ”だと考えていて。人間のダメなところや弱いところをポジティブに描きたいんですよ。たとえ描かなかったとしても、どこかにそれが匂うような設定は作っておきたいなと。

それと、コメディーに限って言えば、『どうです、これって面白いでしょう?』という感じで描くと空振りすることが多いので(笑)、登場人物の真剣な姿から出てくる面白さを描く、ということを意識しています」

――橋本さんが今後、挑戦してみたいジャンルはありますか?

「人間の弱いところを描くという意味でも、いつかサバイバルものを書いてみたいんです。連続ドラマという形で、翌週の展開をドキドキワクワクしながら楽しみに待つような、一大活劇にしたいですね。もちろん『オトナ高校』も、毎週ドキドキしながら見ていただけると思いますよ。このドラマも、男女の思惑がぶつかり合う、立派な“活劇”だと思うので」