がんが大変な病気であることは言うまでもありませんが、昨今では、効果が高い抗がん剤が多く開発されたことで、がん治療の一つの目安となる5年生存率は全体的に上がっています。実際、筆者は生命保険の仕事を通じて、がんに罹患したお客様のお話を伺う機会が多いのですが、その多くは2〜3週間程度の入院・手術で復帰しておられ、本人たちが「心配していたが、思ったよりもあっさり治った」とおっしゃられるほどです。

数年を要するものまで振れ幅が大きい

 しかし、全員がそうかといえば、残念ながら亡くなる方や転移・再発で長期間の治療を余儀なくされる方もいます。ひと口に「がん」といっても、前述のような短期間の治療から数年の抗がん剤や放射線治療を要するものまで「振れ幅が大きい病気」の印象です。

 その目安の一つとして、保険の給付金をお支払いする立場からは「手術給付金の請求があるかどうか」というものがあります。つまり「切れる(=手術)がどうか」ということです。がんに侵された場所を「取り除く」ことができれば回復や復帰も早いですが、それができない場合は抗がん剤や放射線治療に頼ることになり、どうしても治療が長引く傾向にあります。そして「お金とがん」という視点で見れば、前者はそれほどお金がかかりませんが、後者は収入が減るため非常に苦労するのです。

 それでは、治療のために仕事を休むとどうなるのでしょうか。

 がんだけでなく、病気を原因として仕事を休む場合、会社員の健康保険には傷病手当という制度があり、おおむね給与の3分の2を1年6カ月間、受け取ることができます。「そうした制度があれば問題ないのでは」と思うかもしれませんが、実際のところ収入の3分の1の補てんは楽ではありません。

 また、傷病手当にはボーナスが含まれないため、ボーナスの年間支給額が月額給与の4カ月程度と仮定すると、以下に示すように収入の半分程度しか確保されません(注:企業からボーナスが支給される場合もありますが多くの場合は支給されない)。

年間収入=毎月の給与×12カ月+ボーナス(4カ月)=給与16カ月分

傷病手当=給与の3分の2×12カ月=給与8カ月分

 なお、これは会社員の場合であり、個人事業主などは傷病手当すらないため、より深刻です。

がん患者の「困窮」が社会問題に

 がんに罹患すると、長期的な治療に入る割合は、筆者の感覚でも各種のデータからも3割程度です。こうしたリスクに対し、以前は「入院1日あたり1万円(金額は契約による)」という形で給付金を受け取れる、がん保険や医療保険が有効とされてきました。入院中は自動的に給付金が積み上がるため収入を補う効果があったのです。

 しかし、約10年前に小泉政権下で行われた医療制度改革により、2週間以上の入院については保険点数が下がる仕組みが導入されたため、多くの病院で「入院の短期化」が進みました。そうなると、以前のように長期間入院することができず「1日あたり○○円」という内容では、高額の給付金を受け取れないことになります。医療技術の発展(抗がん剤の進化)により生存率が上がっている一方、国の社会保障費は限界を迎え、入院は今以上に短期化し、傷病手当の上限が伸びることもないでしょう。

 この狭間に落ちてしまった、がん患者の「困窮」が社会問題化しています。そのため、保険会社から販売されているがん保険もその商品内容を日額型から、入院日数に関係ない一時金や、長期治療による収入減をサポートするものへと変化しています。最近、販売を開始したライフネット生命のがん保険などでその傾向が顕著です。そもそも「入院日数への給付」という考え方がなく、保証内容を一時金と治療中の給付金、また収入減に備える給付金だけに絞っており、こうした流れは今後、業界全体で加速していくでしょう。

 保険は一度加入すると何となくそのままにしがちですが、やはり定期的な見直しは必要です。特に医療保険やがん保険は時々の医療制度や社会保障に関連するため、制度が変わると「いざという時」に役に立たなくなる可能性があります。せっかく毎月支払っている保険料ですから、しっかりと“メンテナンス”してもらえると幸いです。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)